第4話

 次の日、目覚めた私は嬉しさで一杯だった。

 マサキが帰って来る! 普段と変わらない荒んだ景色も違って見えてくる。

 帰って来るのが待ち遠しくて、ついウロウロと同じ所を掃除してたら彼の母がやって来て、呆れた様に言った。


「ミサ、これ以上綺麗になんかならないよ。大丈夫、マサキは無事に帰って来るから」


 どうやら、心配で落ち着きがない様に見えたらしい。


(お母さんたら、分かってないのね。恋する気持ちを忘れちゃったのかしら?)


「違うのよ、お母さん」


 私がクスクス笑いながら言うと母は不思議な顔で言い返した。


「違うって……じゃ何で?」


 その真剣な顔を見てたら、母が愛しくなって抱きしめていた。


「お母さん。マサキさんが帰ったら、二人で親孝行しますね。私の母の分も」


「良いんだよ。わたしは二人が幸せになってくれれば。それで、充分なんだから」


 私は幸せだった。この時代に生まれて来て良かったとさえ思ったのだ。

 後に、この日が私の最良の刻だったと分かった。

 絶望で死んでしまいたくなる程の苦痛を舐めることになるとは。

 私には予感すら感じることが出来なかった。





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