第3話

 荒れ果てた瓦礫の中で、生きる為に食べ物を奪い合い、いさかいが絶えない。

 それに、いつ家族が戦場に行かされるか精神の休まる間がない。

 でも、地下に潜ると言って、その後生きて帰った者が居ない事実が、人々が踏み出して行けない理由でもあるのだ。


 私の婚約者のマサキは戦場へ行ってから、そろそろ5年になる。

 1つ年上の彼は、15歳になって直ぐに戦争へと向かって行った。

 帰ってきたら結婚の約束をして。いつ戦場で命を落とすか分からない世の中だから、生きて帰る為に、皆は生涯の伴侶を決めておく。

 大概は両親が決めた相手なのだが、私達は本当に愛し合って、親に頼み婚約した。


「ミサ、マサキが明日帰るって!」


 彼の家へ行くと、母親が満面の笑みで私を迎えた。

 両親とも亡くした私にとって、彼の母は私にとっても大切な人だ。

 私は父の顔すら知らずに育って来て、母は私が16歳の時に病気で死んでしまった。

 父が居ない事で苦労して私を育ててくれた母に、やっと恩返しが出来ると思った矢先だった。


「本当に? 帰って来るの?」


 胸が熱くなって、思わず涙が溢れる。


「やっと私の娘になるんだね」


 私の肩を抱き、二人で嬉し涙を流す。


 この時、この瞬間が私達にとっての幸せだった、一時なのかも知れない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る