なあ、神になったのに世界が思い通りいかないんだが

にひろ

第1話 俺、遂に世界を創造する力を手に入れる

その日、俺は遂に、世界創造ワールドクリエイトコアセットを手に入れた!


今、世界創造ワールドクリエイトは空前絶後の大ブーム。特に自分達の作った世界同士を戦わせる異世界クロスバトル、通称デュエルが大人気だ。


どれくらいの人気かと言えば、やってない同級生を探す方が難しかった程だ。

で、その難しかった方の一人がこの俺だったわけだが、そんな悲しい生活とも今日でおさらばってわけよ!


思い返せば長い道のりだった。

今まで貯めたスコアだけじゃ全然足りなくてひたすらスコアを貯めたこの一年。

空いた時間を全てバイトに当てて、生活を極限まで切り詰めて、ホント苦しい一年だった。終わってから振り返るともう二度とやりたくないと思えるな。


何はともあれ、俺も創造神の仲間入りだ。


しかも最高スペックのコアを買っちゃったからな。

お値段162万スコアだからな。

お値段162万スコアだからな。

おっと同じ事二回いっちゃったぜ。

なにせお値段162万スコアだからな。


さて、せっかくだし1回くらい拡張ガチャ回して帰るか。

世界創造拡張ガチャは世界創造に使える拡張アイテム(通称イベ書)がランダムに出てくる筐体だ。


このイベ書は自分のワールドにイベントを起こす事で世界の成長を促したり、試練を与えて鍛えたりする事ができる。

有名どころで言えば『魔王誕生』とか『ダンジョン生成』とかそんなのだ。

これをどう使うかによってワールドが大きく変容する、事もある。


俺はガチャに手を当てて1000スコアを支払い、ネジリを掴んでガリガリ回す。

ガラガラ、カロン

今時殆どの自販機がピッとやったらパッと出てくるのに、やっぱこういう質感のある演出はいいよな。自分の手を使うから、なんかこう自分の力で当てに行ってる様な感じがするわ。


球体ケースがガチャの口から出てきてそれを取り出す。

「うおおおおぉぉ!!」

出て来たそれを手にして俺は叫んでしまった。


なんとそれは神話級拡張イベ書のケースだったのだ。

イエッス!今日はついてる!

いや、落ち着け、落ち着くんだ。


因みにガチャにはレアリティがあって上から言うとこんな感じだ。

SR:世界全体に影響を与える神話級イベント

R:広い地域(概ね大陸)に影響を与える伝説級イベント

UC:狭い地域(概ね国内)に影響を与える大規模なイベント

C:特定の個体や場所に影響を与える日常的イベント


まぁ他にも隠しイベがあるらしいが、周りでそれを当てた奴には会ったことが無くて残念ながら判らない。


しかし初っ端から神話級イベだ。これは世界創造はかどる予感しかないな。


俺は早速中身を確認するためにケースをパカッと空ける。

中から通称イベ書と言われる手の平サイズの本の形をしたアイテムと一枚の説明書が出てくる。


「なになに、神の怒り?巨大隕石を落とし世界に壊滅的破壊をもたらします?」


ん?なんか世界作る前から物騒なもんが見えたんだが?

落ち着こう。一息ついて説明文をもう一度読む。


「えー、神の怒り:巨大隕石を落とし世界に壊滅的破壊をもたらします。」


これで・・・終わり?

あ、裏側になんか特殊効果とか書いてあったりするのかな?


ペラリ


白紙・・・だと?


「何に使うんだ、くそがぁぁ!」

思わず説明書を地面に叩きつける。

いや、説明書は俺をバカにする様にゆっくりと落ちていった。


はぁはぁ。まぁいい。

腐っても神話級、SRだ。きっと何か壊滅させるべき時が・・・来る気がしねぇ。

思わず右手で顔を覆って天を仰ぐ。


どんよりした気分で立っていると嫌味っぽい声で俺の名前が呼ばれた。

「やあ、国立くにたち君。君も遂にコアセットを手に入れたのかい?」

振り向くとそこには俺の嫌いな羽部八はべやが立っていた。


羽部八は学校で一番の創造主を自称しているイヤなヤツだ。

だいたい一番ったってこいつの親がどっかのお偉いさんだからで、断じてこいつの実力じゃねぇ!親のスコアでガチャ回しまくってりゃそりゃ強くもなるっての!


あと前髪を指でピッてするのもすげえ鼻につくんだよな。

あれってなんか名前ないのか?誰かあのイヤミな癖に『アホ毛』みたいに冴えたネーミングして欲しいもんだ。


俺は「ああ」と曖昧な返事をしてコアセットを少し隠す様に両腕で抱えた。

すると羽部八が俺の持ってるSRのケースに気が付いた。


「お、初っ端からSRとはかなりの強運だな!何が出たんだい?」

っち、余計な事に気付くんじゃねぇよ!こちとら既に凹み済みなんだ。傷口に塩展開とか勘弁だ。

「ま、まだ開けてないんだわ。家でゆっくり確認するつもり。」


「そうか、明日是非教えてくれ。ん?」

ん?ってどうした?なんかあるのか?

俺が羽部八の下に向いた視線の先は、説明書じゃねぇか!!


あ!ひ、拾うな羽部八!ちょっと待って、やめてぇぇ!

羽部八は落ちている髪をペラりと拾って見てから俺のSRのケースを見る。


「っぶ!神の怒りか。いやー数あるSRの中から一番の神話級を引き当てるとは!これは神話になるね!」


うがー!こいつ学校で話す気満々だ!

「う、うるせー!SRに変わりねぇだろ!いや、違う!それは俺のじゃないぞ!!」

っく、日ごろ嘘つき慣れてないからバレバレの言い訳しちまったわ。泣きそう。


さらに神経を逆撫でる様に説明書をヒラヒラさせながら羽部八が続ける。

「ま、僕も出た事があるからね、これはガッカリするよね。でも、君のワールドなら役に立つ日が来るかもね。」


自分のワールド壊滅させたい日が来るとかどういう事だ!

お前のワールドに投げ込んでやりたい所だわ!


「僕かなりやり込んでるからね、何か相談があったら聞いてくれたまえよ。じゃ、僕も回しに来たから。まぁ君がSR当てた後だから今日は期待はできないなぁ。」

そう言うと羽部八は前髪をピッとやってガチャに移動した。


どこまでもウザいヤツめ。俺はいつか財力に寄らない実力でお前を倒す!

そう強く心に誓って岐路についた。

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