桜と夢

 桜が満開に咲いているこの道。

 桜が散って地面に散っている様子をニュースキャスターの女の人は「ピンク色の絨毯ですね」なんて少しトーンの上がった声で言っていた。

 何が絨毯だ。


 人に踏まれて、汚れてるだけのただの花弁。

 僕には良さが分からない。

 ただ、その日だけ違った。

 その汚れた絨毯の上に綺麗な女性がいる。


 儚くて、消えてしまいそうなくらいふわふわとした彼女に僕は言う。

「綺麗ですね、とても…」

 彼女は答えてくれる。

「えっ、あぁそうですね、桜はいつ見ても綺麗です」


 その声もすぐに消えてしまいそうな静かな、綺麗なものだった。

 話しかけてないと消えてしまいそうで怖かったからずっと話す。


 その日は連絡先だけ交換して帰る。

 家でどれだけ親が喧嘩をしていても、なんとも思わなかった。

 次の日、また会えるようなそんな気がして昨日と同じところへ向かう。


 彼女はいた。

 桜に微笑みかけている姿を数分間見つめる。

 あぁ、やっぱり綺麗だ。


 それから毎日会った。彼女の顔はいつも曇っている。

 毎日毎日、段々と暗くなっていく彼女の顔を見た僕はなんとも言えない気持ちになった。


 なんとか笑わせようといつも面白い話をする。

 でも、一瞬だけしかその顔が明るくならなくて

すごく辛かった。


 僕は一度だけ彼女に質問したことがある。

 どうしていつも辛そうな顔をしているのか、と。

 彼女は「えっ、そんな顔してるかな」なんて何も知らないふりをする。

 その顔を見るたびに、(嘘だ)と思ってしまう僕がいた。

 それと同時にそっか、大丈夫なのか。

 なんて納得してしまう僕がいる。


 ねぇ、君は一体何を僕に隠しているの?

 彼女はその日を境にその公園へは来なくなった。

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