第4話 君と私の宝物
「あぁ、あなたがうちの子と仲良くしてくれていた子なのね、生前はうちの息子がお世話になりました。今日、〇〇町の、、、。」
それからの会話は覚えていない。彼がこの世にいないことと、もう話せないこと、会えないことそれを実感して、この世から色がなくなったように感じた。
棺の中に入った彼は綺麗なものだった。彼の死因は病死。元々体から弱かったそうで、私に会った頃、余命宣告を受けていたらしい。私に会った日くらいから彼は明るくなったそう。
私の話を嬉々として彼の両親に話していたそう。私は嬉しかった。それと同時に辛かった。
なんで彼なんだろう。他にも沢山人がいる、あんなに優しくて、綺麗で、何より弓道を愛していた。そんな彼がなんで死ななくちゃいけないんだろう。彼を返してください神様。
そう願った。彼の葬式は彼が最も嫌っていた曇りの日に行われた。あの弓道場から1番遠い葬式場で行われた。私は彼らの両親にお願いをした。
「彼を最後にあの弓道場に連れて行きたいんです。彼は弓道を愛していたから、彼に私の思いを伝えたいから、どうかお願いします。」
そう言った。彼の両親は
「そうだね、行こう。」
そう言って彼の遺骨を持って弓道場に行った。
うちの家の神社の前に止まった。
そして彼らは言った。
「ここから先は君だけが行ってくれないか?ここは君と息子のための場所だ。そんなところに僕たちは足を踏み入れてはならないからね、」
そう言って私を送り出した。彼とここの道を歩くのも今日が最後、君は何を思いながら死んでいったの?なんで言ってくれなかったの?
そう思った。きっとそんなこと聞いても彼は笑って誤魔化すのだろう。
弓道場に着いた。いつも彼と弓を射った特別な場所。私の宝物になった場所。彼と話をした。
「もう君と会えなくなるんだね、君は寂しくなかったの?言えなくて、相談できなくて、私は今すごく淋しいよ。君にもう一度会いたい。
最後に君のために矢を射るね、ちゃんと見てね、」
そう言って私は矢を射った。綺麗なツルネが鳴って風が吹いた。その音は彼からの
「ありがとう」
に聞こえて私はまた泣いてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます