第二話 出会いと反発

「いらっしゃい、

 危ないから中に入っておいで、」

そう私に言った。操られるように中に入った。

綺麗な内装だった。もう築何十年は経ってそうなのに、綺麗な床板に磨き上げられた鏡、きちんと整備された矢道の草、ピンッと張られた的、日頃の手入れの良さがよくわかる綺麗な弓道場だった。近所にもあるがここまで綺麗にされていない。他にも誰か来ているのだろうか?

そう考えていると、

「ここには他に誰も来てないよ、もう誰も来なくなっちゃって」

と言った。私の思考を読んだのか、と言う疑問より来なくなったと言った時の彼の顔がなんだか心に引っかかって聞いてしまった。

「なんで来なくなってしまったんですか?」

と。彼は教えてくれた。

ここは元々神社の所有地だったらしいけど、だんだん弓道をする人が減っていって、気づいたら使われなくなったらしい。

だから彼は一人でここを整備しているらしい。

なんでするのかと聞いたら、

「僕にとってここは宝物の場所だからね、手放したくないんだ。」

と言っていた。その時の彼の目はすごく、寂しそうだった。何か隠していそうな彼の顔を見ると、すごく悲しくなってくる、あなたは一体何を隠しているの?

その日から私は毎日彼のところに行った。スケッチブックと鉛筆を持って彼に会いに行った。

彼はいつも同じように弓を射っている、綺麗な立ち住まいで。雨の日は的を張って、晴れの日は弓を射る。毎日毎日絵を描いた。彼の弓を射ってる絵を。雨の日は的を張るのを手伝って。

毎日毎日していた。両親は

「家の手伝いをしろ。家を継ぐんだから」

とか

「近所さんに挨拶回りに行ってきなさい。将来あなたの仕事相手になる人たちなのだから」

と勝手に決めた私の将来に向けての行動を進めてくる。そんな両親に

「行くところがあるから、それと家を継ぐ気はないよ。」

と言って、家を出る。家に帰ると、家を継いだらどれだけいいかについて説明され洗脳されかける。私は宿題がとか友達と電話する約束が。と言って逃れる。家を継ぐ気もなく、まして、この家にいつまでも留まるつもりもない。だから必死で勉強した。逃げるために、生きていくために、なりたいものになるために。

絵も、普通の学習も怠らなかった。それを知った彼は偉いといつも褒めてくれた。

今まで叔父さんにしか褒められたことのない私はその一つ一つの褒め言葉が、すごく嬉しかった。

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