遠回しな告白
紗久間 馨
謎かけ
ある中学校の教室、一つの机を挟んで男女が座っている。窓からは赤く染まった空が見える。
「中学最後の学校祭、楽しかったね」
杏が窓の外を見ながら言った。
「うん、クラスがまとまったって感じで良かった」
壱悟は机に片肘をついて杏の顔を見ている。
「あとは高校受験に向けて頑張らなきゃ、だね」
「杏はどこ受けるんだっけ?」
「んー、南高かなー。壱悟もでしょ?」
「そう。俺も南高」
少しの沈黙が流れる。
「最近さ、謎かけにハマってるんだよね」
「壱悟が? え、どんなの?」
杏は壱悟を見た。
壱悟は少し考える素振りをして言う。
「真夏とかけまして、広辞苑と解きます」
「その心は?」
「どちらもあついでしょう」
「わかりやすいかも。他には? 次は答えを考えてみたい!」
杏は楽しそうに笑っている。
「夏祭りの金魚とかけまして、信仰が厚い人と解きます。その心は?」
「えー、なにそれ」
杏は二分ほど考え込んだ。
「わかんない?」
ニヤニヤしながら壱悟が言った。
「悔しい! わかんない!」
「どちらもすくわれるでしょう」
「あー、そういうことかー!」
杏は机に顔を伏せた。
「もう一問だけ出していい?」
「うん、いいよ。次は絶対に当てる」
杏は顔を上げて気合いを入れた。
「牛丼屋とかけまして、俺の気持ちと解きます。その心は?」
「は? 壱悟の気持ちって何? そんなのわかんないし、ずるい」
壱悟は杏を見つめる。
「すきや」
「何? どういうこと?」
「牛丼屋のすき家と、俺の気持ちの好きやってこと」
「なんで急に関西弁なの?」
壱悟は深くため息をついた。
「そこはスルーしてくれない?」
「いいけど、何が好きなの?」
杏は本当にわかっていない様子だ。
「杏だよ」
「えっ? えっ? あたし?」
「そう、杏が好きなんだよ」
壱悟は頭を掻いた。
「あー、もうっ! なにこの告白の仕方! もっと雰囲気とか・・・・・・」
杏は熱くなった頬を両手で包んだ。
「ごめん。これでも考えた方なんだけど・・・・・・。あー、俺、ダメだなー」
壱悟は背もたれに寄りかかって天井を見つめた。
「ダメじゃないし」
「ん?」
「ちょっとびっくりしただけで、嬉しいから」
杏に視線を戻す。
「嬉しいの! あたしも、壱悟が好きだから」
遠回しな告白 紗久間 馨 @sakuma_kaoru
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