シニアゴレンジャーズ、発進!

オダ 暁

シニアゴレンジャーズ、発進!

1プロローグ


今日もうららかな晴天だ。

春分の日まであと少し、まだまだ肌寒い天候が続いている。・・・

ここ何日も雨は一滴も降らないし今朝の湿度は60%を下回っていた。


恰幅のいい渋い強面の刈り上げ爺様がいきなり叫ぶ。

「空気が乾燥してて喉の調子が悪いねん、俺様の美声がいかれちまう。早く加湿器つけなきゃあかんわ」

ハスキーな、バリバリの関西弁で!


廻りの爺様が口々にのたまう。

「あわわ・・シンガー様が歌えなくなったら大変だ。春分の慰安会のスターだもんな」

「皆、楽しみにしてますよ」

「いよっ!演歌の星」


もとシンガーは加湿器の水の補充をしながら

「水にだってこだわってんだぜ。ルルドの天然水を注文してるんだからな、水道水とは

ひと味違うんだからよ。ご利益があるんだからな」


「それにしても、いちいち水の交換は面倒だな」


慌てて周囲の爺様は

「これからはワシらが交代でやります」

と、声をそろえて答える。

シンガー爺様にもみ手で媚びるように。


ここは東京近県の某セレブ介護施設。医師が24時間常駐して居ることと、温泉スパや食事が充実してるのがウリだ。なんせ有名シェフがバラエティー豊かな食事を栄養士と相談して個々に出してくれるんだから。むろん豪華な個室が各自あり、ふかふかのソファやロココ調の調度品が整ったパーラーで集まって談笑もできる。プール付きスポーツジムや図書館も併設してあり、人間関係さえトラブらなきゃ極楽のような環境だ。ただし、ある程度の健康が入所の最低条件。住居費用が高額なのに、すぐに天国行きでは極楽のような施設を生かしきれない。


だから,、この施設の入居者はわりあい穏やかな顔をしている。豊かな老後に満足しているような人がほとんどだ。家族がいる人は時々面接に来てくれるし、一様に穏やかな表情を見せている。家族も暮らし向きが良く経済的に不安がないからだろう。


件の爺様たちは家族のいない孤独な爺様らの集まりで、自然にグループが出来ていた。


シンガーの爺様はもと演歌歌手。

何本かヒット曲を持っており、昔いい時代もあったようだ。

長年、同棲していた女が別の男と結婚しまい、ずっとひとり身だ。以来、女性恐怖症との噂になった。後年はずっと、どさまわりをしていたが還暦を超えて見切りをつけた。売れてるときにプールした金をあてて早々に入居してきた。あの人は今、みたいな昔売れた歌手とかを追跡するテレビ番組に取材が来ないかと常に心待ちにしている。


グループの他の爺様の経歴も変わっている。

ひとりの爺様はもとホスト。甘い面影した昔は優男だった雰囲気をむんむん醸す二枚目。年をくってからは自分のホストクラブを店を経営したという商売人だ。なぜか結婚歴なし、もてすぎて家庭に女性を持ち込まない主義だとか。熱狂的な女性客のストーカーに結婚を迫られ長年悩まされたとかで施設に入ってようやく安心できたらしい、気楽なおひとり様を楽しんでいる。

もう一人の爺様は、もと麻雀店の経営者。既婚だったが彼の性癖に絶えられず、奥さんは出て行ったらしい。ふだんの彼は大柄でひょうひょうとした好男子だったが、実はゲイで女っぽい男性の恋人がいた。ふたりが抱き合ってキスしていたのを目撃したのだから奥さんのショックは計り知れないだろう。奥さんは、偽装結婚だからセックスレスだったとか喚いて結婚生活は20年でジエンド。ついにゲイの恋人と暮らし始める。だが恋人は突然病で亡くなってしまう。しばらく一人で店を続けたが、数年前閉じて、終の場所にこの施設に入居してきた。


まだ他にもグループのメンバーはいる。まっとうなサラリーマンだったが女装してクラブに繰り出すのが最高の息抜きだった親父。紙袋に着替えの衣類を用意して向こうで着替え、化粧をする。それがまた映えるんでウイッグにも凝って最高の週末を満喫していたらしい。自宅の妻子にはひた隠しにしていたが、浮気を疑った妻が興信所を使いばれたらしい。彼の場合はゲイとか浮気なんかじゃなかったけれど、たまたまクラブで近所の若い輩に見つかり周囲にもばれたらしい。奥さんにクラブ通いはいいけどミニスカートはやめてと泣きつかれ、すったもんだ、あって、女装はやめれず趣味を理解してもらうことなく離婚にいたったらしい。慰謝料もけっこう払ったが妻子には会ってないという話だ。写真を見た妻子に幻滅されきったがストレス解消法だと彼も生き方をがんと変えなかった。


そして、温泉につかって瞑想にふけっているタロット占い師、兼、カウンセラーの自分。私にはあいまいだが他人の動静がかいま視える。視えない常人と結婚は住む世界が違いすぎるから結婚はためらった。たぶん信用されないか変に怖がられるだろう。同業者とはその気になる女性とは出会えなかった。結果ひとり、稼ぎはそれなりにあった。質素な暮らしだったから金は貯まった。動物愛護団体に一部寄付して施設に入居した。私は一人暮らしの生活だったが常に猫を飼っていた。猫のおかげで何度も窮地を救われた、霊的な力にも磨きがかかり、他人にはない能力があると自負している。


今パーラーには、もと演歌歌手とホスト、雀荘経営者の三人の姿が視える。

女装が好きなサラリーマンはジムのプールで優雅に泳いでいるようだ。

慰安会ではお得意のミニスカート姿を披露してくれるだろうし、演歌歌手の生歌も聞きたい。麻雀は指導の結果、よく知らなかった奴も打てるようになった。だから、面子を揃えるのも簡単だ、最新式のりっぱな雀卓ルームも完備されているし。



そして私はというと占いは滅多にしなくなった、年を重ねて益々恐れを知ったから。


2もと演歌歌手のつぶやき


自分が【星 聖夜】という、何ともふざけたロマンティックな芸名で演歌歌手をやってたのは昔々の話やったな。星飛行シリーズのヒット曲を連発続けたねん。その当時はレースクイーンの滅法いい女と同棲してて金はあるしで満たされた生活やった。女性ファンが多かったんで事務所の方針で結婚が引き延ばしになる。そのうち人気が低迷していき、さあ結婚の段となって女は別れ話を持ち出しよった。浮気相手は気鋭のロック歌手、彼女はずっとファンだったらしかったねん。

あいつは自分にほざいた。


「演歌よりロックやってる男のほうが魅力的だもの」


ショックだったねえ・・・


「経済的にも彼すごいのよ、目黒のタワマンの最上階に住んでるしハワイに別荘あるし。

あなたもまあまあだけどレベルが違うのよ」


そんなセリフを吐く女では無かったはずや。キレイで控えめで楚々として・・・金色夜叉の女みたいに変わった。それとも、あれが地だったのかな?まあ、そんなこんなで女性に幻滅したわけやねん。心底、惚れてたから。しばらく地球を離れて星飛行しようかと思ったくらい。女性を信用できなくなったねん。

彼らが結婚して何年かして、投資に失敗して大損くらった話題をニュースで知った。その後、彼らは離婚したらしい。金の切れ目が縁の切れ目ってか?悪いけど痛快やった。自分は地方どさまわりで生活どうにかやってたし、不足はなかった。またヒット曲を出したいという願いはあるけど事務所もやめたし見果てぬ夢やねん。ここでのんびりも悪くない、面白い仲間も出来たしね。ヒット曲はカラオケで誰かに歌われているだろうし。


弟夫婦と姪や甥が大阪に住んでんねん。施設に入居して5年もたつのに一回も会いに来てくれへん。弟の嫁さんとそりが合わんねん。昔羽振りがいい時は自分も鼻高々で傲慢だったらしい、だから嫌われてんねん。過去は変えられへんわ仕方ないねん。金色夜叉の彼女の事も責められへんのう!まあ遠くの親戚より近くの他人言うからええわ。


最近は春分の日の慰安会を楽しみにしてる。

過去のヒットメドレーを歌って踊って盛り上げんねん。

華やかに昔の衣装を着て。

マツケンサンバ、いやいや練習中のイケメンサンバ皆で踊って。


それにしても自分、標準語と関西弁が混じってんねんな……


3もとホストのつぶやき


高校卒業後すぐホストになり様々なお客様に出会った。有閑マダムみたいな中年の女性が多かったけど、お嬢さんやお婆さんもいる。殆どの女は僕に好感をも持ってくれた。だって自分で言うのもなんだけど、流し目がエロっぽいので有名なイケメンホストで有名な源氏名マサミだもの。本名は雅美。僕のママがつけたんだ、なんでも好きな俳優から取ったとか。僕にママって呼ばしたりフリルのついた洋服着るのも強要されたんだよ。その辺の女子より似合うし素敵だからって。意味わからん・・・変わった趣味の母親と無口な父親の一人息子として生を受けたのさ。両親は60代で早世したけどね、短命な家系かもしれない。彼らも美形だったしね。美人薄命っていうでしょう、それなら僕もそろそろかな?

幼稚園時代からずっと女には追いかけまわされた。時には男からもだ、今に言うゲイ趣味か?むろん僕にはそんな嗜好はない。否定も肯定もしない。僕にとったら男も女もどうでもいい、めんどくさいよ。ただ持ち前の器量とソフトな雰囲気でホストではたいへん稼がしてもらった。常連客は多数いたが、中にはコアすぎる女性もいた。その筆頭は美幸だろう。キャバクラに勤めていて彼女もけっこう売れっ子だったし、お面も良かったみたい。ただ思い込み激しくて過激だったなあ・・・僕も彼女も独身で、一回サービストークで一緒になろうか、なんて僕が言ったから本気にしちゃったんだよ。だってドンペリプラチナをお誕生日プレゼントだってオーダーしてくれたんだぜ、ピンドンよりずっと高級なんだよ。ちょっと感激したからさ西城秀樹の真似して「マサミ感激」って頬にキスしたよ。それからあとは彼女ストーカー化してさ、やばくなった。

だから金も貯まったし自分でホストクラブ経営して裏方に引っ込んだのさ。もうおべんちゃら言う必要もないし店も基盤の土壌もあるしで、経営は順調だったよ。たださ、美幸も来店しては指名無しでホストが誰でも僕の話ばかり。ときどき僕が店を巡回する曜日を聞き出して顔を見に来る。ついでに少しは会話する。美幸が指名ないから売れてないオッサンホストや新人ホストをあてがうんだ。こちらもメリットあるから彼女に無下な扱いもできない。まあ持ちつ持たれつさ、ウインウインかな?

しかし、やっぱり僕のことを殆どフィアンセみたいな関係だと触れ回られるのは心外だった。リップサービスなのにさ。

最近、この施設に僕が居るのをどこで知ったのか、美幸が面会を希望してきた。極秘だったのにどこで漏れたんだろう・・・

僕は一回は会ったよ、お世話になったお客様だからね。でももう会わないと公言した。だんだん爺様になって見苦しい姿をさらすのは美学に反するから。昔のイメージを保ちたいという理由で彼女とはあれ以来会っていない。

彼女は泣いたよ、一緒になるって言ったじゃない!と詰め寄られて大変だったよ。彼女がキライなわけじゃない。メリハリはっきりした体つきの小悪魔的なキュートなタイプ。僕と出会ったのがマズかったなあ。僕以外の男は眼中になくなったみたいだもの。で、独身一直線。キャバクラの仕事も若いうちだけだろうしな、職業なにに転身したか内緒だってさ。余裕はあるみたいだから想像はできる。年食って美魔女みたいになったし。生活感のない毒々しい隠花みたいになっていったよ。なんか僕が人生狂わしたみたいで申し訳なかったね。


彼女にもし再会できたら、君と結婚出来なくてごめんなさい、と謝りたい。


4もと雀荘店主のつぶやき


俺の名前は健。中学の時に兄貴から麻雀を教えられ夢中になってしまった。

当時、兄貴は大学生。単に麻雀の面子が欲しかっただけだと思う。しかし俺はミイラ取りがミイラになった。勉強もせず麻雀ばかりになり両親からはどやされ兄貴は罪悪感を持ったみたいだが、俺自身は後悔してなかった。なにより俺は誰よりも麻雀が好きだし強かった。点数計算は瞬時に出来るし、例えばその辺の有名大学生より頭は回った。麻雀か女どちらか取れと言われたら間違いなく麻雀だろう。


そんな生活でも俺はそれなりの大学に進学した。クラスメイトに凄いキレイな男がいた。そのへんの女子学生より比較できないくらい美しい。サラサラの薄い茶髪に色白の肌しててピンク色の唇で微笑みかける、おまけに整った目鼻立ちにスレンダーボディ!礼儀正しくウイットにも冨んだ彼に自然にどうしようもなく惚れてしまった。

しかし同性に恋心を打ち明けることもかなわず、せめて良き親友でいようと努め、結果、当然のように他の女のもとの彼は行ってしまった。俺の切ない恋心など知るはずもなく。それ以来、俺の恋愛の相手は男性もオーケーになった。女性がダメなわけじゃないから、いわゆる両刀使いだ。

時代はトランスジェンダーだの、ゲイやらレスビアン、なんでもありに変わってきたから生きやすかった。同性の結婚も認められてきたし。俺は人並みに女性と普通の結婚をして子供も生まれたけど、よく通っていた雀荘に俺好みの年下の美青年がいた。舌なめずりしたい気持ちを抑えて彼と応対した。だって俺も彼も一介の客同士だったから。だが信じられないことに彼も趣味があったのか俺に近づいてきた。同じ匂いがしたんだね。

麻雀してから二人で飲みに行って恋愛関係ができた。デートの場所はもっぱら彼の一人暮らしのマンション。同性だから誰も不審に思わないはず、だったが勘の鋭い女房にはばれた。俺は当時普通の勤め人だったけれど、仕事帰りにちょくちょく彼のマンションに通った。それで自宅にはキスマークなんかつけてご帰還だから、ある時女房にバレバレ。


「相手はどこの女なのよ?」


問い詰められても、男ですとは、さすがに告白できない。でも俺も彼もけっこうマジになってしまい、もうお互い離れたくはなかった。真相を明かせず、うろうろしているうちに女房が雇った興信所に公園であいびきしてる写真を撮られたわけ。抱き合ってキスしてる光景だったから女房大発狂!親や親せきにも暴露されて、俺たちは本気ですと居直ったから絶縁。兄貴だけは、理解はできないけど本気なら仕方ないと言ってくれた。がんばれよって。涙が出たよ。

離婚して、相棒と共同出資で雀荘開いて二人で暮らして毎日のように麻雀して・・

楽しかったなあ。女房はともかく子供に会えないのは辛いけど。

もっと辛いのは相棒が52でくも膜下で急死したこと。家族に縁を切られて互いに遺言書を作っていたから俺には遺産が残った。だからつつがなく雀荘を続けられたよ。ホームに入居する際、店は手放した。


彼には感謝してもしきれない。

相棒への言葉。

本当にありがとう、愛してるよ~

あの世でまた会おう



5もとサラリーマンのつぶやき


わたしはもと大手企業の役員でした。給料も多いけど、仕事の責任も半端ない。

実は女房は専務の娘でした。だから公私ともにしがらみがある。

大手企業の専務の娘と結婚というと未来を左右する大変な事だ。おかげで悩んだ末に恋人とも別れた。結婚の約束をしていたわけではないが、わたしの将来は徐々に暗くなっていった。女房はステータスだけがとりえの女で、見てくれも家事力ももと恋人に遥かに及ばなかった。それでも子供がひとり生まれた。出世もそれなりにした。人並み以上の人生のはずだったが、慢性的に満たされない思いがあった。


それは何か?


子供は普通に可愛いが女房には不満はあるからだろうか、出世はするけど専務の娘と結婚したからじゃないのか。本当はもと恋人を愛してたんじゃないのか。


わたしは悪魔に魂を売ったんだ・・・


しだいに、そんな風に考えるようになる。女房への愛情は片りんも自分の心にはないだろう。もと恋人を思い出し、わたしは苦しかった。恋人はわたしの裏切りに傷つき、とうに故郷に帰ってしまった。無味乾燥な日々が続くそんな折、知り合いに誘われてクラブという踊り場に行った。衝撃的だった。


ざわめき踊る人々。

ディスクジョッキーのいかしたセリフに混じり、いろんな音楽が流れる。


中には仮装したような人もいた。メイドカフェやドレス姿に扮装した若い男性を見て最初はぎょっとしたが、なかなか似合っているのには驚いた。連れてってもらった知り合いに質問した。


「彼らはふだん何やってる人たちなのかな?」


知り合いは、少し間があって答えた。


「ふつうに働いてると思うよ。あの人は商社マンらしいし彼は白猫ヤマトだとさ。ストレス解消に来てんじゃないの、現実逃避!」


「ふうん」


わたしも、しだいに新たな刺激を求めた。扮装をしようと思った。そしてミニスカポリスの服装に決めた、昔から好きだったから。もの凄く高揚感があった。

クラブで会社のスーツからミニスカポリス姿に着替える時の気分はなんとも爽快。自分が別の人間に生まれ変わったようで、すっかりハマってしまった。キューティーハニーの扮装や夏場はハイヒールをはいて水着姿も披露した。むろん会社や家にはひた隠し、のはずだったが、ひょんな出来事でばれてしまった。近所の若人たちが同じクラブに出入りしていたのだ。わたしの鼻の下には大きな黒子があるが、本人に似ていると若人のひとりが気付き写メに撮ったそうだ。それを廻り中に拡散されてしまった。女房や子供は大絶叫!


「みっともない」

「恥さらし」

「アンビリバボー」

「幻滅」


それに対抗して言い返した。


「ストレス解消」

「趣味」


けど、こりずにクラブに行き続けたから近所や会社や親戚にまで拡散されてしまい女房は子供を連れて実家に帰ってしまった。まあ、花柄の水着姿もあったからショックだったんだろう。気が狂ったと思ったのかもしれない。


「クラブって、てっきりジムかと思ってたのに嘘だったのね」

「キモイ、キモ過ぎるパパなんて大嫌い」


な~んて滅茶苦茶けなされて自尊心ズタボロ。


離婚して会社もやめて、しばらく株のデイトレーダー。それが才能あったのか運が良かったのか資産が急増したんだ。引きこもりで仕事して、時々クラブ通いして女装を楽しむ。わたしは20年近くそんな暮らしをした。女房や子供や親戚とは縁が切れていたから、どうしていうるのかは知らない。噂では再婚したそうな、連絡くれるわけでもないからもうどうでもいいが。まあ、それで金もあるから高級施設に入ろうときめたんだ。女装も飽きてきたし、ぼっちも寂しくなってきたから。


ここに入居して仲間ができて楽しい。

ほんとうに良かった。


6もと占い師のつぶやき


私はもともとはカウンセリングの仕事をしていました。スピカという名前で。本名は聞かないでください。大学では心理学を専攻して他人の心理追及にたけていると評判をとり、占い師に転向しました。占いは手相やタロットいろいろな勉強をしましたが、それよりも人の近未来が視えるからオーラ占いを主にやりました。例えば上向きな人間はバラ色のオーラを感じ、逆であれば灰色みたいな。

彼女や奥さん?

大昔に付き合った女性はいますよ。大学のクラスメイト、可憐な百合のような人でした。少なくても表向きは。

でもね、裏の顔は男好きな浮気女でした。

なんか素行が変だと思ったら二股三股平気なスベタ。

私の勘は百発百中とは言いませんが、ほぼほぼ当たりますから。

だから、すぐに彼女とはおさらばしました。せいせいしました。

それ以来今までずっと独身を貫いてます。

友人も距離を置いた人間しかいません。

親や兄弟は私の力に畏怖感があるみたいです。彼らには無い能力を持って生まれた私に敬意を払いながらもどこか馴染めない。年をくって、私が有名占い師になっていけばいくほど、その傾向はありました。私に実情を見破られるというのが嫌なんでしょう。


私は昔で言えば巫女やよりましみたいな存在なんでしょう。手品が得意な人もいますよね?彼らにも手先が器用なだけでなく第六感があると思います。凡人には信じられない体験を彼らはしてるんですよ、私もですが。


カウンセリングには洞察力と的確なアドバイスが必要です。

過去の話ですがカウンセリング業で生計を立てていたことがあります。その際に、ストーカーから逃げたいとの相談を幾人から受けました。

回答はひとつ、美意識をきれいさっぱり捨てなさい、と私は断言しました。

どういうことかと言えば、逃げるから追われる、魅力があるから付きまとう、だったら幻滅させなさいという事です。単純至極です。思い切って相手の前でオナラを連発するとか、可能なら糞尿をたれて投げつけたら、より効果があります。相手に出会いそうな前にあらかじめ瓶にでも入れて用意しとくんですよ。それで毎度投げつける。気がふれたふりでもいい。糞尿の在庫には事欠かないだろうし有効なリサイクルだと大真面目に言いました。

解決法が現実的ではないと却下されることが殆どですがね。死ぬほど悩んでるんなら出来るはずです、と説得しても無理だと言い張る。では借金を抱えるふりして肩代わりを頼むというのは?相手が金持ちでなければ有効だと思います。金の切れ目が縁の切めと言いますから、相手の本性を見極めるのにもいい手段です。むろん偽の借用書でも作成しておくんですよ。相手には払えそうにない額の借用書をね。それでもメゲナイ相手なら、きっと真実の愛です。あとカウンセリング、これは類まれな美少年の悩みでした。中学2年生だったかな?クラスの男子たちに放課後、学校のどかの部屋に連れ込まれ制服を脱がされイタズラされる、誰にも恥ずかしくて言えない、どうしようでした。

その時に言ったアドバイスは、風呂をしばらく入るのをやめなさい、です。異臭がしたらさすがにイタズラする気もなくなるだろうという意図で汚れ役になりなさい!誰にも言いたくないなら逃げられないなら奇想天外な方法だけど効果はてきめん、とアドバイスしました。汚れた下着のままならより結構とも付け加えました。

彼らのその後は知りません。私もカウンセリング業から占い師に転向しました。趣味で片手間に始めた占いが当たると評判になってメディアにも取り上げられ、予約も一杯になってきたからです。当たるも八卦といいますが私は占いに自信がありましたから。時にははっきり、他人のオーラを感じますから。

その占いも廃業して施設に入りました。有名占い師か引退したことを廻りは特に知りません。新しい占い師が次々に現れる世界ですからね、今やもう私は過去の人間です。

施設の仲間に頼まれても占いはやりません。言いましたが私自身怖いんです、悪いことを予感するのが。凡人がやはり良いです、知らぬが花という諺もあるでしょう。細菌が裸眼で視えるようなもんですから。視えないから耐えられる事は世の中にたくさんあるんですよ。対処できる超人的な力があれば別ですがね。


現在はもう廻りの波動は感じないようにしてます。それでも何か得体の知れないモノを感じるから自分でも恐怖。今は・・・邪なモノが、暗黒星がこちらに近づいている。それだけは分かりますが周囲の仲間には言えません、怖がらせるだけだから。


とにかく不安です。悪いことが起こりそうで。


7美幸のつぶやき

ホストだった彼の店に通い詰めて・・あたしの売れっ子のキャバ嬢だったからお金も続いたのよ。主婦さんなんかが見栄張って通うには高級ホストクラブだったから経済破綻した客も多かったと思うよ。なかにはお客さんのダンナらしき男が店に乗り込んで来たこともあった。


「マサミという名前のホストはいるかー」


と、大声で喚き散らして、マサミが出ていくと


「お前か~女房をだまくらかして貢がせた奴は」


赤筋たてて怒ってたよ、赤鬼みたいに。


ちんちくりんなダンナだったよ、マサミにはまるのも仕方ないかな・・・奥さんの気持ちは理解できるけど当時は恋敵だったから嫌な印象しかなかった。マサミの追っかけはいっぱいいたけど奥さんも凄かった。彼女がマサミに車をプレゼントしたと聞いた時は負けたと思ったね。国産車だったらしいけどさすがに自分には・・・それもマサミの何気ない一言が発端で。


「車ほしいな、外車じゃなくていいからさ」


マサミは冗談で言ったはずだ、あるいは昔からのレーサー願望?セナの熱烈ファンだったもの。彼が事故で亡くなった時は店しばらく休んでたもの。それに彼は強度の色弱で運動神経も鈍く免許は取らないと話してたから。奥さんの一方的な好意をダンナに責められ、マサミも交えて騒動になったみたい。とにかくその後は金銭問題も解決して奥さんの姿も消え、店も平和を取り戻した。あたしは段々と年を重ねていきキャバクラからソフト風俗に河岸を変えた。つまりデリヘル「熟女の館」、にね。マサミに会えるんなら何でもできた。彼の誕生日に張り込んでドンペリプラチナをオーダーしたことがある。車は無理でも、これならいいかと思って。

頬にキスされて、一緒になろうかと言ってくれた。冗談リップサービスだと分かってたけど超嬉しかった!それをネタに、あたしはどんどんエスカレートして店に通った。風俗で稼いでホストクラブで散財、ありきたりのルーティンな日々だった。でも彼が一線をひいて裏方に隠れてしまってからは面白くなくなった。おんなじ店には行ってたけど指名の相手なんか誰でもよくて専らマサミの話題ばかり。彼が店に巡回に来る日程聞き出して会話するのだけが楽しみになった。風俗ばれて親族や友人にも縁きられたけどせいせいした。マサミさえいたらかまわないの、この世で運命のオンリーワンの人だから。


ホストクラブは繁盛してたよ、彼の躾が良かったんだね。店を誰かに譲りマサミが姿を突然くらました時は辛かった。携帯は営業用で通じないし、店に長年通ったけれどプライベートな情報は何も知らないし誰も教えてくれないからで、あたしは万策尽きて興信所を思いついた。

凄いね~彼の居場所は直ぐにわかったわ。入居したというホームまで面会に行った。彼は相変わらず年はくったけどイケメンでほっとした。一回は会って話もできたけれど最後に言われちゃった。


「もう来るな。おじいさんになっていく姿を見られたくない、老醜をさらしたくないんだ。君にはとくに」


そう言われたけど、面会日かかさず作って定期的に通ってる。あたし、どんなに彼がおじいさんになってもいいの。だって生涯のダーリンと信じているから。


「熟女の館」も引退したし、お金は老後に備えて少しは稼いだし。

風俗なんて自慢できる商売じゃないけど女の純情マサミに捧げたのよ。

女の細腕で一人でがんばって生きてきたのよ。

マサミ以外の他の男じゃダメだったもの、周囲に見放されても悔いはないわ。

彼に嫌がれても迷惑でもね。

打たれ強いんだから、あたし。


だから、また会いに行くわよ!


8施設の面会日


面会は基本事前予約が原則だ。施設にはコンシェルジュが日中待機しており、9時から5時までが面接時間、当然だが4時半までに入館しなければならない。施設は365日間フル稼働している。

もとサラリーマンにはクラブで知り合った人達が面会に集団で来る。踊りでブイブイ言わせた輩みたい、ステディな市井の人間と異質の匂いを身にまとっている。もと演歌歌手には歌仲間たち、雀荘店主にはお兄さんと嫁さんが面会に来るけれど、もと占い師に会いにくる人はいない。情報を封印というか遮断しているのかもしれない。もとホストには美幸だけが会いに来る。

オババ様やオジジ様の他の面々も面会者は百種百様だ。家族や親戚総勢の人もあるし、ぽつんと親友めいた人だけの人もいる。面接日には過去の彼らの生きざまが見えてくる。


「あたしも、ここ入りたいなあ!」


美幸がため息をつく。


「この施設、素敵だもん。温泉はあるし、三度の食事も一流シェフさんが作ってくれるんでしょう?建物もりっぱだしパーラーもロココ調で雰囲気いいし。入居に条件とかあるの?」


もとホストが答える。


「保証人はいらない。ただ入居費が高いよ、××円、今後の病院代も葬式代も込みだから長生きすりゃお得じゃないかな?」


美幸の絶叫。


「ウソーそんな高いんだ!」


「早死にしたら少し還付はあるみたいだよ、でも最新医療も整ってるからなかなか死ねないと思うよ」


「もし入居できたら、あたしもマサミと住めるんだね。夢のようなパラダイスじゃない?」


「いやいや僕は遠慮してほしいな、平穏に暮らしたいもの。君が来たら平和な余生の計画が狂っちまう」


「心配しなくても大丈夫、面会で会えるから我慢するわ」


「頼むからそうしてくれよ」


もとホストと美幸はひたすら温度差のある会話をしていた。境界線を作ってはいるが、やはり旧知の仲。昔と違ってどこか親しげではある。皆、年をとって寂しいのだ。誰かが面会に来てくれるのを待っているのだ。


「でも何かしてお金貯まったら入れるよね」


「宝くじでも当てたら?」


「そんな夢みたいなものより、もっと確実なものがあったわ!」


急に思いついたように美幸は大声をあげた。


「なんだよ、確実なものって・・・」


「う~ん、今は内緒。さっそく行動するわ、今日はもう帰る」


そう言うと、美幸は施設をあとにして矢のように姿を消した。昔から思いついたが吉日の女だった。


「いつか絶対ここに入るから待ってて」とマサミに言い放って。


9謎の不審者


夕飯時の和やかな時間。

施設内に非常ベルがけたたましく鳴った。


「不審者が侵入しました、各自部屋の鍵をかけてください。侵入される危険があります」

「繰り返しアナウンスします。不審者が数名侵入した模様」


施設のセキュリティは万端のはずだ。高い鉄格子の門前には警備員が夕刻まで裏口の見回りまでして安全確保を努めている。夜は堅く施錠される、猫の子一匹も入れないように。なのに防犯カメラに施設に承認されていない人物が映ったのだ、それも数名。


施設の入居者が食堂に出た隙を狙って、隠れていた場所から各自の部屋を物色しに現れたのだろう。しかしホームのどこに隠れていたのか?


すぐに判明した。

昨日、一週間後にせまっている春分の日の慰安会の差し入れが大きな箱で四個宅配便で届いていた。ドライフラワーみたいなグッズや仮装の衣類の箱の中に人が丸まって隠れていたのだろう。差出人も有志のボランティア、としかない。受け取った係りの人達は完全に油断していたのだろう。必ず明日飾り付けに出向きますから、箱はそのままにしといてください、と告げて彼ら自身が奥の吹き抜けの倉庫に片づけたのだ。たぶん宅配人を装った犯行グループだろう。二人いた宅配人はとうに施設から帰り、倉庫の隅っこにぐちゃぐちゃな箱が残されていた。だから、おそらく四名ホームのどこかに隠れている。


次々に真相が判明する。

彼らは倉庫に近い、夜は人の利用しない共同トイレに身を潜め、食堂に行こうと自室から出る入居者を狙った。鍵をかけられる前に後ろからし入居者のふりしてスタンガンで襲い、彼らの部屋に連れ込んで、というか戻ってもらい、しばらく目覚めないよう睡眠薬をかがせ猿ぐつわをして物色に明け暮れていた。入居者は百人も居るのだから、軽装をしていたら見分けがつかないだうと踏んでいた。宅配人二人は年配者だった。


四名はそれぞれの入居者の部屋に隠れていた。そりゃ一番安全な隠れ場所だ、お年寄りの人質もいるし。ずさんだったが、いちおう計画は練られていた。しかし、たちまちセキュリティ会社の警備員や通報した警察が施設にやってくる。

施錠した各部屋を合鍵で開けて安全確認をする。だから犯人は容易に見つけられた。でも人質が一緒だ、揃いにそろってか弱そうな女性。


犯人の一味はナイフを持っている。そしてギャーギャー騒いでる。


「俺ら底辺はもと日払いの土方仲間、こんな立派なホームに入れる奴らが羨ましかった」


「身寄りのない貧乏人の憧れの場所だった、どんな奴が入居してんのかっていつも噂してたよ」


「だから刑務所にパクられたら楽になる、少なくても三食はついてんだろ?俺たち身寄りのない者どうし文化住宅に住んでたけど日雇いの仕事にもあぶれて、もうお先真っ暗だったのさ。身内はいないし、金もない。年はくうばかりで未来に何の希望もない。もう強盗するしかないと思ってここを狙ったのさ、さぞ金目のものがありそうでな。だけどロクなもの、ないじゃないか」


そりゃそうです。金目のものは専用の施設内貸金庫にありますからね。金銭ばかりじゃなく宝石なんかも。窃盗はなくても、紛失する人が多いから用心の為です。


お年寄りのレディは犯人の傍らで横たわり、猿ぐつわをはめられたまま横たわっている。駆けつけた警察官や警備員も手出しができない。


「もう俺たち、死んでもいいんだからな。早く逮捕しろよ」と居直ってヤケになっているようだ。


そのころパトカーの音を聞いて、異変に気付いた入居者たちは戦々恐々としていた。施設内アナウンスは、不審者侵入、部屋の鍵を各自施錠して部屋の中から出るなと強く放送されている。解のスピーカーがあるまで従うしかない状況だ。


時は刻々と過ぎていく。


犯人の要求は変化していく。


やはりは空腹だし眠いから開放しろ、金銭たっぷり用意しろ、人質は誰か連れていく、と滅茶苦茶な要求をしている。捨てるものもないから、もうどうでもいいんだろう。やぶれかぶれに違いない。食料もせがんでくる、まず人質に味見させてからとのたまう。犯人同志は携帯で話をして対策を相談している。充電器も用意していた。とりあえずの用意はあるが思いつきで計画したずさんな犯行には違いなかった。先のことは考えていない。今しばらくどうにかなれば良さそうだった。



10地震起こる!


暗黒星が近づいてくる。


もと占い師は自室で押し寄せる波動に打ち震えていた。施設内スピーカーやパトカーのサイレンで不審者の侵入は分かっていた。敵はそれより怪しい、今までの相手とはわけが違う危険な相手だろうと予測していた。しかし、もと占い師にも正体は見えなかった。いつもなら簡単に透視できるが今回は只者ではない。見えない大きな力を体中に感じる。


何かが近づいてくる。


ぞくぞくするように怖い。


侵入者の比ではない、もっと巨大な力・・・今まで私が経験したことがない相手・・何か?


とつぜん、ぶつかるような衝撃があり、部屋が揺れた!


「キャー」

あちこちの部屋から雄たけびが聞こえる。


横揺れは止まらない、だんだんと加速していく。各部屋のモノは崩れ落ち散乱する。


停電して辺りは真っ暗になる。

警察官はむろんホームの入居者は、懐中電灯、ペンライト、ろうそくの類を探し回る。

不測の事態に備えて用意はしていたが、あまりに急だ。


侵入者らはお手上げ状態のようだ、天災は予測してなかったはずだから。


警察が携帯をかけたり無線を飛ばす。

しかし不通だ。スマホもパソコンも反応しない。

文明の利器は今や何も役にたたない。


原始人と化した入居者や警察や犯人一味まで、途方にくれていた。玄関も裏口も先刻の衝撃でつぶされてしまい、びくとも開かない。窓も変形されて開かないし、ただ窓から見える住居の明かりは消えてなかった。では停電ではない?このホームだけなのか?


もと占い師の脳裏に視えてくる。


楕円形の飛行船がホームの建物に近づき、そして、ゆっくりと落下して直撃する光景が目の前に描かれる。だから地震が起きたように感じたのか・・・


しかし飛行船に乗ってた人は?もしかしたら宇宙人の襲来ではないか?  


「大当たり!あんた、鋭い読みだぜ」


もと占い師の真後ろには、いつのまにかユニフォームを着た男性らが立っている。頭まですっぽり、赤青黄色緑白の全身スーツを着ている。総勢五人、昔テレビで見たゴレンジャーそっくりだ。


「あんたたちは・・・」


もと占い師の問いかけに、ゴレンジャーが次々に答える。


「我ら五人は300万光年先から生命体を求めて飛行船でやってきた」

「つい運転ミスをして落下してしまった」

「すぐに復旧できるから安心しろ」

「地球人のなかには特殊な君のような能力がある者もいるんだな、我らと波動があう超能力者が存在するとは驚きだぜ」


一息つき、もと占い師は答える。


「私たちとスムーズに会話できるのは、何故か?」


ゴレンジャーらが声を合わせて即答。


「宇宙翻訳機があるからに決まってるじゃん、地球人遅れてる~うちらは他の生命体の宇宙人らとも交流してんだぜ。もう百の星は越えてる」


「そうなんだ、全然知らなかった・・」


「それよりよ、強盗でも入ったのか?もめてるじゃん」


「よく分かるな」


「あたりきよ!地球人の心の中なんてお見通しよ、エスパー試験一級なんだぜ」


「すごいな」


「ただよ、仲間同士の胸の内は読めないけどな。宇宙人のみ、という規定がある」


「プライバシーを重んじるんだな」


「そういうこと」


「で、復旧終わったら次の宇宙人に会う約束がある。タイムイズマネーだ。我々のスペアのユニフォームを迷惑かけたから貸してやる。超能力あるから強盗らなんか蹴散らしてしまえ。では復旧も終わったようだから我々はいったん退散する。いっとくが勧善懲悪の効力しかないからな!五つユニフォームあるから五人選別しとけ。では、さらば」


プッと、ゴレンジャーの姿は消える。

夢でも見たか?リアルすぎるんだが。

同時に電気も復旧して明かりは灯るし建物いつのまにか、もとの姿に戻っている。


ともかくケータイが復旧したから仲間らを招集する。

自室に全員忍び足でやって来る。


「あれ~地震で滅茶苦茶だったんじゃないの?」

「全然元通りじゃない、まさに占い師さんの力?」

仲間らが尊敬したように騒ぐ。


「いいから向こうを見ろ」


皆が覗くと犯人らが警察を威嚇している姿が頭の中に視える。


「応援を頼んだら、ただじゃおかんぞ。万歳したまま隅に固まっていろ」


警察官は三名、応援を頼まなくても不審に思って援護射撃はじきに来るだろう・・


仲間たちに頼む。

「わけは聞くな、皆そのユニフォームに着替えてくれ。あ、私は白にする。ラッキーカラーなんだ」


もと演歌歌手は赤、もとホストは黄色、もとサラリーマンは緑、もと雀荘店主は青色のユニフォームに着替える。うだうだ言いながら。


「もしかして慰安会の時に着る服なのかな?でも、なぜこんな非常時に・・」


しかし全員着替えるや否や、身体が馬力に満ち溢れていくのが分かる。ほうれん草を食ったあとのポパイみたいに。

おまけに他人の考えが読めるのだ。

エスパーに変身した五人は犯人らが立て込んだ部屋に乗り込む。


「あ・・あ・・お前らは何だ?その恰好、まさかゴレンジャーか?」


犯人らはシニアだから詳しい、自分たちと同じゴレンジャー世代だ。

なのに、私らは優雅な高級施設に住み犯人らはボロ屋住まいで明日の米にもことかく暮らし・・アリとキリギリスの童話を思い出したが強盗をしでかす奴らには同情できない。


「こ・・このナイフが見えないのか」


犯人らは各部屋の人質にナイフで威嚇している。


「お願い、殺さないで~」


人質の女性の泣き叫ぶ声。

ナイフをあてられたら、そりゃ怖いだろうな。


ナイフよ、こちらに飛んで来い!

私は心の中で念じた。とたん自分の足元に飛んでくる。

犯人のいる部屋に廻り、同じように念じてナイフを回収する。


「凄い、マジックですか?」


「いいから、あとは人質の開放に行け。そのユニフォームには神通力があるから犯人なんか直ぐにお縄だ」


はたして皆、めいめいの部屋で犯人を取り押さえて事件は無事解決!

警察の出番は手錠をかけるラストだけ。

犯人もろくに抵抗しなかったよ、だって刑務所に入って三食付きの夢はかなったのだから。

それに飛ぶナイフなんて奇術見たら脅えるよ、おまけにゴレンジャーのユニフォーム、たまげたに違いない。あとは仲間同士、同じ刑務所であることを願うだけだ。


それにしても、いろいろなつぶやきが聞こえたな。


犯人らのつぶやき


「もう何でもいいからよ、刑務所に入れてくれ。殺傷なんてしないから」

「腹がすいてるし水も飲ませてくれ~」

「この先、生きていくのが疲れたからよ」

「こんな天国みたいなホームにはいりたかったなあ」

「でも、さっき地震あってあたりが散乱してたけれど、あれはどうなったのかな?幻を見たのかなあ。ゴレンジャーの服着た魔術師もいたし」


警察官のつぶやき


「・・たしかに地震あったよな。俺たちは夢を見たのか?」

「でも建物はぜんぜん壊れていない、どういうことだ」

「あのゴレンジャーの魔法見たか?ナイフが飛んでいた・・」

「ケータイも無線も通じなかったから現実だ」

「犯人は捕まえたから、この話は今は保留にしよう、気が変になったと思われるだけだ」

「セキュリティ会社も頭を抱えている、損壊した建物の証拠が何者かに消滅されたそうだ」


犯人らも警察官も狸に化かされたような事件を生涯忘れないだろう。

結果として単なる強盗未遂事件で、一滴の流血もなく丸く終わった。


11慰安会


春分の日が来た。

あれこれあったが、ついに慰安会が開かれる。

ただ飾り物だけは縁起でもないから廃棄された。

事件のことは何故か外部には出ていない。

ウソのような話で宇宙人が画策したのか証拠は消されてしまった。誰一人けがする事なく衝撃の音も近所の誰ひとり記憶にない。入居者や関係者も覚えていないようだ。ただ特殊な能力を秘めた五人だけは知っている。


飛行船が建物に落下して、宇宙人に会ったなどという話を誰が信じるだろうか。


地味な慰安会が始まり、居住者の家族や友だちが面会に来る。その中に今年は珍しい面会者があった。大阪からやってきた、もと演歌歌手の弟家族だ。家族でディズニーランドに行くらしい。そのついでに寄ったのかもしれないが、久々の出会いを皆嬉しそうにしている。もと歌手は弟に小遣いまで渡していた。もと雀荘店主には例年通り、雀荘仲間。マージャン大会を開いて大盛況。もとサラリーマンの所には今年も誰も来ないけれどマージャンのメンバーに寄せてもらえて楽しんでいる。もと占い師の私も同様だ。孤独に生きていくのが一年草の私には似合っている。しかし私には、かけがいのない仲間がいるのだ。あと、もとホストには美幸が春分の日だけでなく、年中面会に来る。今回はホストにこんな報告をしにきた。


「あたし結婚するわ、90歳のおじいちゃんと。子供も先に死んだらしいし未婚だったからら孫もいないし、ちゃんと介護してあげて遺産もらうことに決めた。億万長者よ~彼も余生を楽しめって言ってくれてるの」


「それはいいじゃないか、待ってるよ」


「ありがと。でもあたし、あの人も愛してるのよマサミの次に」


「わかってる、結婚式は呼べよ」


「やるわけないじゃない」


「このホームでやろうよ、次期入所ということで」


「あ、それいいかも。上の人にお願いしてくる」

美幸は踵を返し、係りの人間に頼みに行く。あいかわらず思いったたが吉日の女だ。


話し合いはもめてたけれど、ニコニコして美幸が戻ってきた。

「寄付金いっぱいします、って言ったら、入居予定な方だったら特別許可しましょうだって。でも前例はない、って首傾げてたわ。


まあ、そうだろね。葬式はあっても結婚式はね。


「だって、あたしウエディングドレス着たいも。小さいころからの夢だったの」


「いくつになっても乙女だなあ、もうすぐアラ還だろう?」


「いいじゃないの、マサミに見てもらいたいのよ」


「ところで、どこで、おじいちゃんとどこで出会ったの?」


「・・昔のお客様よ」


「キャバクラの?」


「そうよ、そのあとのデリヘルでも贔屓にしてもらったわ」


「何年前から?」


「30年以上前から、奥さんは病気で早くに亡くしたらしいわ」


「そうなんだ」


「彼からプロポーズされたの、君に遺産を上げたいって。それで、あなたが住む高級ホームに行けって。それくらい買える金はいくらでもあるって。ついでに世界旅行も行けって。だから自分が召されるまでは一緒にいてほしいって。自宅には、お手伝いさんも介護士もいるから君には苦労かけないからって訴えるの。でもあたしは自分の手で少しは介護したい、あたしが大変な時に助けてくれた人だもの」


「殊勝だな。僕は君に何もしてやらなかった、してもらうばかりで・・」


「いいの、あたしがしたかったわけだし。それにデリヘルは彼が買い占めてくれたのよ」


「えっ、そうなの」


「プロポーズもされたけどマサミと結婚したかったから断り続けていた。でも、この施設に入りたいから受けることにする」


「ごめん」


「いいの、マサミ独身主義だものね。他の女に取られないならいい」


「あの世では結婚しよう」


「本当?絶対よ」


「こんどこそ約束するよ」


お食事会が始まり、豪勢な懐石料理が出される。そのあとはカラオケ大会、最後にもと歌手の星聖夜がヒット曲をメドレーで披露する。でも今年からは追加でゴレンジャーのユニフォームを着て、五人で主題曲を合唱する。


真っ赤な太陽 仮面に受けて

願いはひとつ 青い空 

黄色い砂塵 渦巻く

街に

ピンクの頬の五人の戦士

吹かせ縁の 明日の風を

「ゴーゴゴー」

五つの力を一つに合わせて

叫べ勝利の おたけびを

秘密戦隊 ゴレンジャー


{進め!ゴレンジャーから引用}


このユニフォームを着ると本当に血がみなぎる。走ったり飛んだり、超人的な力に体が変わっていくのを感じる。

宇宙人から貰った服・・これには何か特別なパワーがある。

五人はあまり洗濯しないで死ぬまで大切に着ようと誓った。 

洗濯するとは効力が薄れるかもしれないから。


12エピローグ


あれから何年たっただろうか。

私たち五人は皆、齢百を越えた。

というかダブル還暦に近い。


美幸は90歳の旦那さんとうちのホームで結婚式をあげた。真っ白なウエディングドレスが似合い、とうはたってはいたがキレイな花嫁だった。旦那さんは年齢のわりにかくしゃくとして本当に嬉しそうだった。


「わたしはね、美幸が死ぬほど好きなんですよ。でも彼女は好きな人がいるから、せめて支援したかった。幸福に死んでいける、もう思い残すことはありません。わたしが死んだら、この施設に美幸は入りますから、よろしくお願いします」

そう託した、旦那さんは数年後に鬼籍に入った。そして彼女はホームに入居してきた。

そのあと10年以上は、けっこう皆で楽しく過ごしたよ。美幸が風邪をこじらせ急死してしまうまでは。あっという間だったよ。あとになって、うちらは後悔したね、ゴレンジャーのユニフォームを彼女に貸し忘れたことを。


うちら五人は長寿のギネスになりそうだ。

施設の入居者や関係者が次々と自分たちを置いて天国に旅立つ。

でも、ゴレンジャーのユニフォームを着ている限り、うちらは生き続ける気がするんだ。


まだまだ、ずっとね。

僕らを呼んでくれ、不滅のシニアバスターズと! 





                             




                          (おわり)

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シニアゴレンジャーズ、発進! オダ 暁 @odaakatuki

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