#036 奇襲

 現代より80年ほど前の時代では、第二次世界大戦が勃発しておりその中で太平洋を挟んだアメリカ合衆国と大日本帝国との戦闘が始まったばかりの頃。両国は艦隊決戦による敵艦隊撃滅のため大口径の主砲を搭載し重装甲の艦体を持つ戦艦を中心とする艦隊を指向する海軍軍戦備・建艦政策および戦略思想である大艦巨砲主義を持ち合わせていた。


 そんな時代の海軍が、なぜこの世界に・・・?


 披露宴会場を出て真っ先に向かったのは、ファルシア王国内にある丘だ。その場所から双眼鏡を覗いて辛うじて見えている無人島の沖を見て見ると、コロラド級戦艦の4隻(1番艦コロラド、2番艦メリーランド、3番艦ワシントン、4番艦ウェスト・ヴァージニア)の艦影がうっすらと見えた。


 コロラド級は41センチ連装砲塔を8門持つビッグセブンの艦艇である。ビッグセブンとは1921年、ワシントン海軍軍縮条約は建造中の艦船を全て廃艦とし、米英:日:仏伊の保有艦の総排水量比率を5:3:1,75と定めた。未完成だった戦艦陸奥を廃艦にしたくない日本は強引に保有を認めさせたが、その代償としてアメリカに3隻、イギリスに2隻の戦艦新造を認めることになった。結果として米英日で保有された16インチ(41センチ)砲搭載戦艦7隻が「ビッグセブン」と呼ばれた・・・と、まぁそういう訳だが。


 それにしてもコロラド級の3番艦は、史実では予算などの都合から次級のノース・カロライナ級戦艦の2番艦になった筈だ・・・。


++++++++


 ――って、不思議に思っている場合じゃない!


 王城が占拠されて空挺部隊が敵側に居るなら、学院が危ない!今すぐに戦闘機隊が無人島から離陸しても、間に合えばまだ何とかなるが間に合わないとなると、披露宴会場をなんとしてでも死守しないといけない気がする!いや、防衛戦の状況で勝機があるか無いかの瀬戸際だ。


「――よし、治安維持隊はここに居る人達をなんとしてでも守り抜け!」

『『は、はい!』』


「カトリーナは、学園長に連絡して。 避難先の候補として。行けるか?ああ、それと現在の状況を逐一ちくいち報告してくれ!」

『了解』


 無線で指示を出して再度、披露宴会場を見渡していると屋根に張り巡らされたガラスが割れて特殊部隊の身なりをした敵兵が一人だけ素早く降下してきた。


「――I descended to a place that seems to be a reception hall. Ask for instructions. (――披露宴会場と思われる場所に降下しました。指示を求めます)」


 敵兵の一人が右耳に人差し指と中指を当てて、その場にいる治安維持隊にもわかる英語で誰かと話し始めた。


「…Understood. (・・・了解致しました)」


 そして開口一番に「Tell a man named Altria Lamis to die now (アルトリア・ラーミスという者に告ぐ、今すぐに死んでもらう)」と言い周囲を見回し始めた。


++++++++


 アルトリアが前に出ようとした時、カトリーナに止められて「行ったら、何されるのかわからないのよ?」と耳打ちで言われた。


「覚悟はしている、だから任せてくれるか?」

「はぁ・・・、分かったわよ。ただし、負けないでよね?」

「ああ、OKだ」


 アルトリアは潔く前に出て、「I am Altria Lamis. (俺が、アルトリア・ラーミスだ」とはっきりと告げると敵兵が「Yeah, you--Hmm? It's strange, you can feel the atmosphere of the Yellow Monkey. (そうか、貴様が――ん? おかしいなぁ、貴様からはイエローモンキーの雰囲気を感じる)」と現代で日本人や中国人などのアジアに共通する黄白人種を指す言葉を言われた。


 間違ってはいないが、久々の前世を感じる言葉に少々嬉しかった。しかし、敵兵が言っている言語は明らかに英語だ。しかも発音からしてアメリカ英語だろう。


 いや〜、懐かしい。


「Is it the Yellow Monkey・・・, I'm not wrong. Yup. (イエローモンキーか・・・、あながち間違ってはいないな。 うん)」


「Do you really understand English? (まさか、英語を理解していると言うのか?)」


「Did you notice it now? Well, at least you also understand the security forces here? (今頃気づいたのか? まぁ、少なくともここに居る治安維持隊も理解しているぞ?)」


 敵兵は驚きのあまり言葉を失ったが、構わずにアルトリアが「You look like an American because you use American English. If it is a mistake, can you deny it? (貴男あなたは、アメリカ英語を使うからしてアメリカ人と見る。 間違いであれば、否定しても良いぞ?)」と続けた。


「Huh・・・, no way. It turns out that he is a soldier of the earth, and the first person to see me is the first person except God. (ハッ・・・、まさか。地球の軍人だと分かり、俺を見てきたのが神を除いて最初の人だとは)」


「Is that right? Hey, did you summon the fleet that is being deployed off the uninhabited island? (そうだろ? なぁ、無人島沖に展開中の艦隊は、アンタが召喚したのか?)」


「No, that's the Seventh Fleet. (いや、あれは第7艦隊だ)」


 第7艦隊・・・確か、前世の地球時代においてハワイのホノルルに司令部を置くアメリカ海軍太平洋艦隊の一つだった筈。


 そんな凄い艦隊がなぜ異世界に・・・?


 いや、まさか・・・憶測おくそくでしかないが、艦隊ごと異世界に転移したのか?

 アルトリアは尚も思考し続けて居たが、理解できなかったので首を振った。

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