#034 THE EXERCISE

 その後の展開が早かった。オットーが皇帝を降りたことにより、ポートリマス帝国の元軍務関係の兵士達は次々と自白もしくは自首して行った。


 そして、空席となった帝王の座には第二帝女であるしリリア・ポートリマスが就くはずだった。しかし、それは彼女が初めから望んでいなかった。


 むしろ、「アルトリアの軍隊に裏方として入りたい・・・でしゅ」と頬を赤くしながら言って駄々をこねたらしい。


「――それで、逃げてきたのか?リリア」


 ポートリマス帝国奪還作戦を終えた2週間後、俺が執務室で休息を取っていると大荷物を抱えたリリア・ポートリマスが治安維持隊に引っ張られて入って来ていた。


「・・・だってだって、城に居たら軟禁なんきんと一緒です!」


 それを屁理屈へりくつと言うのだが・・・、まぁ。言わないでおこう。


「じゃあ、ちょっと待っていろ。 今、確認してくるから」


 しばしの無言の後、結局折れたのは俺だった。


 執務室にある黒電話の受話器を手に取りダイヤルを回した後、「すまん、俺だ。 裏方の仕事で募集して居る部署はあるか?」と話し始めて数分後には、「ああ、そうか。 いきなりですまない」と落胆した声色で受話器を置いた。


「――一つだけあるが、その前に一つだけ聞くぞ」

「コクッ、コクッ」


 リリアが二つ返事で答えたのを確認した後、「力仕事が良いか?」と聞くと「無理・・・です」と返事を返してきた。


「そっか。 じゃあ、今、新しく治安維持隊の事務員を募集していたからそこに派遣だ。 業務は簡単、事務作業と隊員達の派遣だけだ。」


 すると、リリアが目をキラキラして擦り寄ってこようとしたので「止めろよ、今は。 それに、俺には婚約者カトリーナ・メルフォンが居るからダメだな」と言った。


 すると落ち込んだ表情になり大人しくなった。


 リリアは美少女だ、金髪で身長は見た目で約156センチだと思う。そして赤目だ、赤目の人は何事にも挫けない度胸を持って居るって幼い頃に読んだ絵本に書いてあったはずだ。


 それに、前世でも部下にいた日本の博多出身だと言う女兵士と飲みにいった時に「そういえば、隊長で良ければ私を貰ってくれます?」と言われたことがあった。


 その時は「無理だ、それに俺は隊長でお前は伍長だろ?」と言ったのだが、酔っていたのか女兵士は「えぇ〜、良いじゃ無いですかぁ。 私なら、このボンキュボンの体で――」と言って来た。


 それに対して「ダメだ」と、軽くあしらったことがあったが――まぁ結局、その女兵士は翌日に行ったアフガンの戦線で両脚に重傷を負って日本に帰還した事で会う事が無かったが・・・。


 懐かしい故郷地球での思い出に浸っていると、リリアが「行って来ますね、面接に」と微笑んで執務室から出て行った。


++++++++


 数日後、特別作戦傭兵連隊が所有し海上特別作戦傭兵大隊や航空特別作戦傭兵大隊の基地などがある無人島で大規模な演習を行っていた。


「こちらJACKAL、TIRPITZ。HMDバイザーに表示する場所に支援を頼む」

『――支援砲撃位置を確認、射撃開始する』


 直後、訓練用の砲弾を装填した戦車部隊からの支援砲撃が次々と指定した地点に降り注ぎ始めた。


「目標地点の破壊を確認、敵想定。騎竜軍が制空権を確立している航空支援を要請する」

『こちらA-10ウォートホッグ、了解。 空域到着まで約5分』


「――了。 追加情報、敵騎竜軍は火炎弾を使用している。機銃掃射による戦闘を許可する」

『――COPY了解


 骨伝導無線を切るとすぐにM1918BARやASh-12.7をM16っぽく容姿改造した完全架空のMAR-127などがアルトリアのハンドサインによって一斉に火を噴き、皆が銃口を向けた先にある標的の人形を撃ち抜いて行った。


「――撃ち方止め、敵想定。反応有り、ゲリラ部隊と視認」


「C4爆薬でドアを吹き飛ばしましょうか?」

「ああ、そうしよう。 敵想定、建物内に潜伏し始めた。強行突破をする」


 隊員の一人がC4爆薬を、丁寧に音を立てず貼り付けてアルトリアたちが待つ場所まで戻ってくると、「――カウントダウン3、2、1、点火!」と言って起爆装置についているボタンを押した。すると、ドアが吹き飛び約1秒後にはアルトリア隊が中に突入して仮想ゲリラ兵を素早く鎮圧ちんあつした。


 室内を見回して「クリア!」「クリア」「クリア!!」と女兵士達からの返事が聞こえた後、アルトリアはそれを承諾して「OK! ルームクリア!!」と点呼した。


 一方、沖合では戦艦長門を旗艦とした模擬もぎ上陸支援砲撃の最中さいちゅうだった。


「――上陸中のJACKALより無線です、〈ワレ、コレヨリ撤退トスル〉です」


「分かったわ。 全艦に連絡、艦砲射撃一時中断。味方の撤退支援を始める、戦闘用意!!」

「はっ、はい!」


 その後、一度止んだ砲撃が今度は三式榴弾を仮想とする敵陣地目がけて撃ち込み始めた。


++++++++


 一方、航空母艦赤城と加賀、飛竜、蒼龍からなる正規空母艦隊の艦載機である零式艦上戦闘機とジェット戦闘機からなる航空機部隊は旧式となった戦闘機を騎竜と見立てて模擬制空戦闘を繰り広げていた。設立から早1年、旗艦を務めていた戦艦金剛は旗艦を最新型戦艦の長門に譲りまた、ジェット戦闘機はF-22ラプターF-35ライトニングⅡと言ったステルス戦闘機に、艦上機は零式艦上戦闘機二〇型から五二型へと変化していた。


 航空機たちが模擬制空戦闘を繰り広げていると、『AWACSから全戦闘機へ、演習終了を告げる。各機、速やかに帰投しろ』という無線が入ったので旧式も新型も関係なくそれぞれが最寄りの場所に帰投して行った。


 地上の河川では、河川特殊作戦舟艇SOC-Rがアルトリア隊を回収している最中さいちゅうだった。


「――早く乗り込め!」


「全員乗った!出してくれ!!」


 小さく右転舵して水面をV字に切り裂きながら高速航行するSOC-Rの船上では、汗を滝のように流しているアルトリアの姿があった。


 “THE EXERCISE”と表記された演習は、現時点での戦力を改めて再認識するという名目で行われた。


 最初は部活として建ち上げられた特別作戦傭兵分隊が軍隊として魔術学院の守護者最後の砦となるまでにはまだまだ時間が要る。でも、そんな中で汗水を流し様々な理由で入隊する美少女や訳アリ少女、教師と言う立場から治安維持隊の隊長になる女性などの全員が居るから――いや、いたからこそ今やフォルシア王国の正規軍という肩書を背負った特別作戦傭兵連隊になった。


 だが、俺は・・・まだ引退しない。


「(100歳まで生きて、後世に引き継がせていく!)」


 夕日が西に沈んで行く光景を見ながら、隣に歩いて来たカトリーナ・メルフォンの肩を右手で抱き寄せた。

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