人腕フクロウのクロフ 〜ようこそカザミド冒険団!〜

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

人腕フクロウはかく語る

「あのさ、アンタさ、まずもってオイラのこと見て出オチ担当だと思ったろ?

 そういう態度がさ! 人を傷つけると思うんだ! オイラ鳥だけど! フクロウだけど!」


 冒険者の一団が半ば貸し切る、安宿の一室。

 そこに不自然に置かれた止まり木に、一羽の喋るフクロウがいた。

 ただし右肩から先に翼はなく、代わりに生えるのは、人間の右腕だった。


「おまえ! キモイと思ってんだろ!

 そうだよオイラだってキモイと思ってるよ身長より腕のが長いもんな!

 バランス悪すぎて止まり木に止まってても手をついてないとそっちに倒れちまうんだよ!」


 右腕でばしばしと止まり木を叩き、左の翼をふぁさふぁささせる。


「こんなナリだからフクロウだってのに飛べやしねえ!

 足で歩くにも腕が重くてやってられねえ!

 だから移動の仕方は、こうだ!」


 フクロウは――人腕フクロウのクロフは、右腕を伸ばして止まり木の離れたところをつかんだ。

 そのまま腕を曲げ、体を手の位置まで引き寄せる。

 再度腕を伸ばし、つかまり、曲げ、体を引き寄せる。

 その繰り返しで、止まり木をうぞうぞと伝い、テーブルの上に乗り、さらにうぞうぞと動いた。

 簡単に言えば……尺取り虫の動き方である。


「おまえー!! 今『キモッ……』みたいな目で見たろ!!

 分かってるよ!! 自分でキモイ動きしてるの分かってんだよ!!

 でもこういう動きしかできねーんだよチクショーめ!!

 好きでこんなヘンテコリンな姿してねーんだよアンポンタン!!

 本当はもっとクールでチョイワルなハンサム盗賊ローグだったんだよバーカバーカ!!」


 クロフはぎゃーぎゃーわめいて腕を振り回した。

 腕より体の方が軽いのでこてんと転び、すぐに手をついて立ち上がり、またぎゃーぎゃー腕を振った。


「こう見えてなー! 人間だったころは凄腕の盗賊だったんだからな!

 大陸一の鍵開け技術って言われて扉だろーと宝箱だろーとなんでもござれだったんだぞ!

 黄金の腕って言われて、この手でつかみ取れないものなしなんて言われてたんだぞ!」


 そしてクロフは、すんと沈み込んだ。


「ま……つかみ取れないものがあったから、今こうなってんだけど……」


 そのまま、沈黙。

 しばらく、静寂が流れて。

 クロフはゆらゆらと体をゆすり、右手でわしゃわしゃと羽をかきむしり、やがて沈黙に耐えられなくなって、また喋り出した。


「まだ人間だったころさ、妹分がいたんだよ、盗賊のさ。

 まだ未熟だったけどさ、オイラによくなついてきて、腕前を磨くのにも意欲あって、ずっとオイラにくっついて行動してた。

 危ないトコにも行くからさ、まあ心配もあったけど、いざってときはオイラが守りゃいいだろって、まあ、慢心してたんだろーな」


 クロフの瞳は、遠くを向いて。


「その日は山岳地帯にあるダンジョンを攻略しようとして……めちゃくちゃ険しい道のりでさ……

 深い崖があって、細い道で、そこでうっかり魔物と遭遇して……やりあってるうちに、足場が崩れて……」


 クロフは右手で、顔を覆った。


「手を伸ばしたけど、間に合わなかった。

 後悔した。何が黄金の腕だと思った。自分が本当につかみたいものはすり抜けちまった。

 こんな役立たずの腕なんて、切り落としちまおうって思った

 でもそうしなかった。そんなことをするのは、あらゆることを試してからでいい。

 噂だけは知ってた……死者をよみがえらせる禁断の秘宝……オイラはそれが眠ると言われるダンジョンに挑んで……そして失敗して、呪いを受けて、このザマさ」


 そしてクロフは、右手を広げてみせた。


「とんだお笑いぐさだろ?

 あらゆるものを失って、残ったものは皮肉にも、この役立たずの右腕だけだ。

 片腕だけじゃ鍵開けだって満足にできねーし、切り落とそうにも右手で右手は切れやしない。

 笑えよ。この滑稽な有様を、笑いたきゃ笑えばいい」


 クロフは自嘲して。

 それからふっと、息を吐いた。


「ただ……こんな有様のオイラを、この冒険団は迎え入れてくれた。

 笑わなかったのかって? いんや、めちゃくちゃ爆笑されたよ。

 それはもう、なんだかこっちが気持ちよくなるくらいにな」


 クロフの視線が、まっすぐに、こちらを向いた。


「あらゆることを試すのは、今でもやろうと思ってる。

 そのためなら、コメディリリーフやって飯の種にするのだって、悪くないって今じゃ思ってるさ。

 そしてそうやって生きてくにゃ、仲間は多い方がいい。そうだろ?」


 クロフは格好つけて笑ってみせて。

 そして右手を、こちらに差し出した。


「ようこそ、カザミド冒険団へ。

 ここは半端な者たちが集まる、最高に充実した集団パーティだぜ」

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