第25話 復讐の果て 9 流血のドラゴン

「スー、ハー、スーッ・・」

 スフィーティアは、黄金竜を見送った後、竜媚毒薬りゅうびどくやくの影響がないか呼吸を整えて身体の状態を確認していた。


(大丈夫だ。毒の影響はもうない。しかし、鎧形態アーマーモードを維持しすぎだ。早く決着をつけないと)


「行くぞ!オギル、今度こそ決着をつける」

 スフィーティアは、背中の光る透けた翼を羽ばたかせると、一気に上空高く飛び上がり、周囲を確認する。すると、異形ドラゴンの咆哮を耳にし、そちらの方角に目を向けた。


「何だ、あのドラゴンは?先ほどのサファイア・ドラゴンなのか?」

 遥か遠くに小さく見えるドラゴンの姿をスフィーティアは的確に捉えていた。

「アトスもいる。急がねば!」


 

「なんて血の匂いだ。あれは、血が煮え立ちながら垂れ流されているのか?」

 アトスは、もはやサファイア・ドラゴンとは全く言えなくなった異形のドラゴンと十分な距離を保ちながら、観察している。


「そして、頭にいるあの野郎だ」

 アトスは、ドラゴンの頭の上から上半身だけ出ているオギルを見た。オギルも身体は緑色の肌から真っ赤な血に染まっていたが、特にドラゴンのように血が肌からボコボコと吹き出しているわけではない。

 そうこうしているうちに、が動き出し、大きな翼をバフゥっとアトスの方にはためかせると、大量の赤い煮え立った血がアトスに降りかかる。


「うわ、なんかこれはやばいぞ!ユニコーン、離脱だ」

 ゴッドハンドを傘がわりにして、また、左腕の盾で避けるが、血がゴッドハンドから滴り落ちて来て、アトスの左肩の辺りに当たる。皮の鎧を焼き、アトスの肩に達すると、激痛が走った。


 ブシャッ!

「うぐわっ!」


 そして、傷口から出血し始め、アトスは、堪らず盾を落としてしまった。

「なんだこいつは?血が止まれねえ」


「ウヒヒヒッ。この竜の血は、出血を強いるのじゃ。浴びたら、そこからどんどん出血し、放っておいてもお前は死ぬ」

 オギルが不気味に笑っているようだが、顔が真っ赤に染まっていて、よくわからない。


「クソっ!変な真似しやがって・・」

 アトスは、傷口を押さえているが、血は止まらない。その間も、流血のドラゴンは血の雨をアトス目がけて上空から降らせる。アトスは、意識が集中せず、ゴッドハンドを出せずにいた。ユニコーンは、それを交わしてながら距離を取ろうと必死だ。しかし、ドラゴンも追って来るので、引き離せない。


 そして、後方の血のドラゴンから強烈なまとまった血の放出があり、アトスとユニコーに降りかかって行く。

「やべえ。こいつは避けられねえ!」

 アトスは、眼を閉じた。


 空がキラリと光ると、流血の血の筋がアトスにかかる直前、剣がアトスの目の前を一閃した。忽ちドラゴンより放たれた流血は凍り付いた。



 パリパリパリッ!キーッ!

 凍りついた血は、粉々になり、地上に落下していく。


 アトスが目を開けると、目の前に白銀の鎧に身を包んだスフィーティアがいた。

「アトス、待たせた。お前、その血は?」

 アトスが出血を抑えようと左肩の傷口に手を当てているが、出血は止まらない。

「気をつけろ、スフィーティア。あのドラゴンが垂れ流している血を浴びると、出血し、止まらなくなるぞ。ハアハア・・」

 アトスの息遣いが荒くなる。

「見せてみろ」

 スフィーティアが、アトスの肩の傷口を確認すると、血がジュワーっと出て来る。スフィーティアは、傷口に左手を近づけると、青白く掌が光り始めた。その手で傷口を押さえると、忽ち傷口が凍りつき、出血が止まった。

「これで、暫くは大丈夫だろう」

「ああ、助かったぜ」

 アトスが安堵の表情を見せた。


「ウヒヒヒッ。待っておったぞ、スフィーティアよ」

 スフィーティアは、振り返ると、血のドラゴンの頭にいる赤く染まったオギルを見た。

「アトス、お前は離れていてくれ。後は、任せろ。よくオギルこいつを引き付けておいてくれた」

「ああ、頼むぜ」

 アトスは、ユニコーンを駆り、スフィーティアと流血のドラゴンから離れて行った。しかし、この闘いを見届けなければならないと思った。


 スフィーティアと血のドラゴンは、睨み合いながら地上へと降り立った。

「憐れなものだ。そんな姿になって生きて何になるというのだ。いや、おまえは既に死んでいるのか・・・」

 スフィーティアは、流血のドラゴンの心臓からいつもなら感じる力強いそれぞれの竜が持つを見ることができなかった。代わりに見えるのは・・・。黒く染まった色だ。

 これが、この竜の竜力を変換し、絶えず、身体から熱い血を垂れ流しているのだ。

「ならば、私が貴様の未練、断ち切ろう」


 血のドラゴンが流した熱い血が、ドラゴンを中心に周囲に広がり、スフィーティアの所にも押し寄せた。しかし、スフィーティアの周囲では、血は忽ち凍りつく。

「オギルよ。追い詰めたぞ。ここがお前の死に場所だ」

 スフィーティアはオギルに剣を向ける。

「ウヒヒヒッ。お前に儂を殺せるものか。さあ、今度こそ儂とまぐわおうぞ!」


 血のドラゴンが動き出した。それほど早い動きではないが、スフィーティアに近づき、左手で薙ぎ払うように攻撃してきた。スフィーティアは、カウンター気味にジャンプし、その大きな腕を斬りつけた。

「!?」

 手ごたえがなく、腕が二つに割れた。そして血だけが飛び散り、腕は、またつながった。


 着地すると、スフィーティアはその返り血を浴びていた。鎧に覆われた部分はすぐに凍りつき血は消失するが、頬に筋状に流血を浴びてしまう。そこからピュッと出血した。スフィーティアは、指で傷口を撫でると、指先からの冷気で血は止まった。


「なるほど。だが!」

 スフィーティアは、血のドラゴンに突っ込んで行く。ドラゴンが、流血を飛び散らせ、攻撃する。オギルも赤光弾丸しゃっこうだんがんを周囲に浮かび上がらせると、スフィーティアに向けて発射する。スフィーティアは攻撃を避けるように、ドラゴンの後方へと回り込む。そして、大きくジャンプし、剣聖剣カーリオンを両手持ちに掲げるとカーリオンが青白く輝きを増す。

 そして、血のドラゴンの背中目がけて勢いよく落下し、心臓の辺りの後背部をに突き刺した。やはり、手ごたえが薄く深くめり込んでいき、剣の周囲が忽ち凍りついていく。

 

 しかし、徐々に勢いを失くし、止まった。


 スフィーティアは、凍った血のドラゴンの流血の上に立った。そして、徐々に凍結した血にヒビが入って行き、パリーンッと弾けた。

「ハッ!」

 急に足元の凍結した流血が粉々に砕けると、スフィーティアの足元から、大量の流血が噴き出してきた。スフィーティアは、すぐに反応してジャンプし回避するが、彼女を食べるかのように流血が盛り上がり、頭上を越え噴き出した。頭上も含め周囲を流血に包まれる。


「チッ!」

 スフィーティアは、剣聖剣を掲げるや、光の翼を羽ばたかせると、頭上から落ちて来る大量の血の雨の中を突っ切って脱出した。


 スフィーティアは、空高く上昇し、血のドラゴンから距離を取ると、空中で止まった。


 しかし、顔や手足にかなりの流血を浴びてしまっていた。


 ブシュゥッ!

「うぐぁっ!」


 スフィーティアは、顔や手足から大量に出血し、赤く血に染まった。ガクッと力が抜け、地上に落下した。


 スフィーティアは、苦しそうに剣を杖にして立ち上がる。


 そこに、容赦なく血のドラゴンが襲いかかる。流血を体中から放出し、スフィーティアを攻撃する。


「ウヒヒヒッ。もう少しじゃ、もう少しでお前は儂のもの!」

 オギルも、赤色光弾を次々と産みだすとスフィーティアに容赦なくぶつけていく。スフィーティアは、光の盾で、ドラゴンとオギルの攻撃を防いでいるが、全ては回避できず手足などに、攻撃を受けてしまう。そしてそこからまた、出血しスフィーティアの体力を奪って行く。


 しかし、スフィーティアには、この窮地を挽回する一つの考えがあった。


 竜力を大きく消耗する技を使う。一度しか使えない大技ユニーク・スキルを使うことを。そして、先ほどからその機会を探っていたのだ。アラインが託してくれた右中指にした赤いリングをスフィーティアは、見る。指輪がキラリと光り始めた。


 スフィーティアは、剣聖剣カーリオンを一閃すると、血のドラゴンの流血もオギルの赤色光弾も凍りつき落下した。


「マスター・アライン。あなたが私に託してくれた力、今こそ使わせていただきます!」


                                 (つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る