第24話 復讐の果て 8 黄金竜
「うぐゎっ!」
スフィーティアは、異形のサファイア・ドラゴンの肥大化した右手による強力な一撃を喰らい、木々をなぎ倒しながら森の奥まで弾き飛ばされ、森の斜面にめり込み止まった。1km以上は弾き飛ばされたようだ。凄まじい
スフィーティアは、苦悶の表情だ。これは、弾き飛ばされた衝撃による痛みと言うよりは、オギルにより左大腿に受けた赤い弾丸による毒の影響だ。前に受けた赤い霧のように媚薬効果による興奮作用だけではない。身体を蝕む毒も仕込まれ、体力を急激に低下させ、立つことも出来なくなる。
「こんな毒などに・・・」
スフィーティアは、立とうとしても立てない。おまけに意識まで朦朧としてきている。ここをドラゴンに、いや、魔獣にでも襲われれば、スフィーティアと言えどもとてもまずい状況だ。
(この程度のことで、やられてたまるものか!)
意識が低下している中でも、自分を鼓舞する。それでも周囲で雷鳴が轟いているのが、スフィーティアにもわかった。
(何だ?雷が落ちているのか?立つんだ!立て!)
スフィーティアは、上体を起し、剣を杖にして、何とか立ち上がる。そして、上空を見上げる。
「あ・・」
ズドドドドーーーンっ!
目の前に轟音と共に雷が落ちた。
衝撃で、スフィーティアは、飛ばされ、岩肌に激突してうつ伏せに倒れ込んだ。
「うう・・」
眼を開けると、
やはり、ドラゴンだ。しかし、異形のサファイア・ドラゴンほど大きくはない。サイズ的には、通常のエメラルド・ドラゴンよりも小さいかもしれない。しかし、このドラゴンは、黄金色に輝いているのだ。姿も美しいとスフィーティアは、思った。ヘリオドール・ドラゴンだと思うが、頭部から伸びる角が短い。しかし、感じる竜力は桁違いに大きいものを感じた。
スフィーティアは、自分の命運はこのドラゴン次第だと感じた。
「お、お前は・・」
『剣聖よ、お前の
心に直接響き渡るような声が、スフィーティアに届いた。
「何?」
『お前の
「!」
(そうだ。私の竜力が、こんな媚毒薬などに負けるものか!)
スフィーティアは、上体を起すと、膝をつき、左大腿の傷口を見た。露出した肌が赤く
黄金の竜に、敵意はないようだ。見上げると、スフィーティアを見下ろしている。黄金の竜が目を閉じると、少し、竜の光の強さが増し、粒子となり、黄金竜の身体から降り注ぐ。スフィーティアは、その光を浴びると、意識がハッキリとしてくるのを感じた。
(やれる!)
スフィーティアは、傷口に両手を当てると、目を閉じて手に竜力を導こうと意識を集中した。スフィーティアの手が明るく輝く。その光を体内の血流に導くように意識を集中していく。
「ふう・・」
ゆっくりと呼吸して、静かに竜力を体内に流しこんでいく。しかし、この竜力の使用も度を過ぎると、『
(温かい。この竜の光。私を助けてくれているのか・・)
10分位そうしていると、スフィーティアは、眼を開け、立ち上がった。
「ドラゴンであるお前に礼を言うのも変だが、助かった。ありがとう」
スフィーティアは、黄金竜を見上げ、頭を下げた。
『礼など要らぬ。借りを返したまでのこと』
「借りだと?お前と会うのは初めてだ」
『・・・』
スフィーティアには、黄金竜が微笑んだように見えた。
黄金竜は、翼を羽ばたかせると、ふわーっと上空高くに舞い上がった。
『おまえの求めるものは、ここには無い。さっさと立ち去れ』
「待て、借りとは、なんだ?」
そう言い残すと、黄金竜は、いつの間にか暗くなった空に線を描き、消えて行った。
「あの竜は・・、まさかな」
スフィーティアは、思い当たる名を口に出そうとしたが、打ち消した。
「何だ?あの雷は?次々と森に落ちてるぞ。スフィーティア!」
アトス・ラ・フェールは、異形のサファイア・ドラゴンが放った爆炎ブレスがミドガルズオルムの森の街道を焼いたのを確認すると、スフィーティアとオギルの戦いが始まったと確信した。様子を確認するため、相棒のユニコーンに乗り、ミドガルズオルムの森の周囲を森の上空に入り過ぎないように注意しながら飛んでいた。ミドガルズオルムの森は、中でなくてもその上空もドラゴンなどが襲ってくる恐れがあるため危険なのだ。
そして、一際大きな落雷が、辺りをつんざく轟音響かせた。
「あれは!スフィーティア、無事なのか」
アトスは、内心気がかかりでしょうがなかった。もっと、上空深く入って行こうかどうか迷っていた。
その時、大きな異形のサファイア・ドラゴンが目の前を浮遊し、通過して行くのが見えた。
「何だ。あれは?ドラゴンなのか・・・」
その通常のドラゴンとは異なる異質な姿に違和感を感じた。その大きさ、赤と青と色違い、手足、翼のアンバランスな配置があるものの、ドラゴン以外は考えられない。目を凝らすと、その背中に背の高い緑色の顔をした男が立っているのが見えた。
「あれは・・。ガラマーン・パラサイトのオギルか!スフィーティアは、どうした?」
異形のドラゴンは、森を出て東の方角にドンドン遠ざかっていく。その方角にはデューンの
「ダメだ。あんなものを放置はできねえ。スフィーティアは、無事だ。あいつがそんな簡単にやられるわけはない。行くぞ、相棒!」
クウォーン!
アトスは、ユニコーンに合図を送ると、一気に加速した。
(俺じゃ、あのドラゴンを倒すなんてできねえ。
「とは言え、一発お見舞いするさ」
アトスは、不敵な笑みを浮かべた。後方から急接近する。腰の剣を抜くと、アトスは、叫んだ
「
すると、アトスの背中あたりから巨大な透けた大きな腕が出現した。
「何じゃ?」
後ろに急に現れたものを感じ、オギルが振り返る。
「喰らえ!」
その透けた右腕の拳が、異形ドラゴンの腹の辺りに命中した。ドラゴンは飛ばされ、オギルは、バランスを崩し、ドラゴンから落下する。
「よし!」
落下したオギルを捕らえようと、左腕のゴッドハンドの手が伸びる。掴みかけたが、ドラゴンが、体当たりして、オギルを守った。
「その魔道。お主は、聖魔騎士じゃな」
オギルが、ドラゴンの肩に着地すると、アトスに細い鋭い視線を向ける。
「へっ、お見通しってか」
「悪いことは言わん。邪魔をするな。通せば、殺しはせん」
「誰が殺されるつもりで、邪魔をするかよ!」
「聖魔騎士とは、賢いと思っておったが、そうじゃないようだな」
「それは、よく言われるぜ。へっへっへっ・・」
「ならば、死ね」
オギルは、杖を上に構え回転させると、スフィーティアに浴びせた
「ガラマーンが、聖魔騎士をなめんじゃねえよ!」
アトスは慌てもせず、ゴッドハンドの左掌を前に突き出すと、オギルの赤い弾丸は、全て掌に止められ、全ての弾丸は握り潰され、消滅した。
「今度はこっちから行くぞ、オラ!」
アトスは、ユニコーンの上に立つと、ドラゴン目掛けて大きく跳躍する。ゴッドハンドの右掌を踏み台にして、さらにオギルよりも上方に跳躍した。今度は左掌がアトスの上に現れると、アトスはクルリと回転し、上に位置した左掌を蹴り、落下速度も加わり、加速する。オギルに近づくやアトスは抜刀し、その勢いに乗って、斬りつけた。
「なんと!」
オギルは、慌てて杖で剣を受けると、オギルの杖は両断された。しかし、間一髪で剣はオギルまで届かなかった。
「うぬぬぬー!貴様、よくも儂の杖を壊してくれたな!」
「知るか!てめえが
異形ドラゴンの背中の上で対峙するアトスとオギル。
「フーハー、フーハー・・・」
オギルの息遣いが荒くなっている。その表情も怒りの形相となっていた。その右手には、杖から外した赤く輝く宝玉が握られている。
「邪魔をしおって。聖魔騎士・・。殺してくれるわ!」
アトスは、オギルの様子から何かをやるつもりであることを、感じていた。
(なんか嫌な感じが、こいつからビンビン伝わって来る。どうする・・)
オギルの細い眼が赤く光っている。
(躊躇している場合じゃねえ。今こいつを止めないとやばいことが起きるぞ!)
「今だ!」
アトスは、後ろから物凄い勢いで近づいてきたユニコーンに飛び乗った。アトスとユニコーンは一心同体だ。アトスは、ユニコーンの軌道を、オギルと向き合いながらも計算していた。
ユニコーンは、アトスを乗せそのまま瞬く間にオギルに接近し、アトスは、剣でオギルの首を撥ねた・・・。
「二ッ・・」
と思われたが、首に刃が当たる瞬間、オギルは消えていた。
「何?」
アトスが、ユニコーンを旋回させ、異形ドラゴンの上の先ほどオギルが立っていた辺りを確認するが、オギルの姿はそこには無い。
次の瞬間、オギルは、異形ドラゴンの頭の上に現れた。
「まさか、ここまで追いつめられるとはのう。まあ、良い。皆殺すだけだ」
オギルは赤い宝玉を異形ドラゴンの頭に落とす。すると、宝玉が頭の中に沈んでいき、オギルは纏っていたローブを取ると、オギルの身体もドラゴンに埋もれて行った。
「ウヒヒヒッ。後悔するがよい。聖魔騎士!」
オギルの身体が腰の辺りまで、異形ドラゴンの頭の中にめり込むと、宝玉がドラゴンの中から浮かび上がって来て、オギルの前で止まる。
「うぬぬぬっ」
オギルは、宝玉を掴み、自らの胸にめり込ませた。
「うわぉーーーーーーーーーーーッ!」
オギルが、絶叫すると、異形ドラゴンの皮膚に赤い血管のような線が走っていき、元の青かった皮膚の部分も赤色に変わって行く。
クガウォーーーーン!
天地を震わすようなドラゴンの絶叫が辺りに響くと、ドラゴンの身体は完全に赤色に変化した。
それは、血の色だ。
そして、その皮膚はグツグツと煮だっているかのようにボツボツが生まれは消える。そして、ボタボタと地上に煮えたぎった赤い液体が垂れ流される。もはやドラゴンと言うこの世界最強の支配生物とは言うよりも冥界から現れた異形の怪物のようであった。
「ふざけんな!何なんだ?あれはよ!」
アトスは、困惑し背筋に冷たいものが走るのを感じていた。
(つづく)
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