第22話 復讐の果て 6 ミドガルズオルムの森

 ここは、暗く鬱蒼うっそうとした森の中。非常に高い(50メートルはある)木々が地を覆い、地上には光りが余り届かない。森の中は、人間も、異人種でさえ踏み入ることはない禁忌きんきの場所。侵入して帰って来た者はいないと言われる土地である。これが、ヴェストリ大陸の異人種が生息する辺境地域マーグレーブの東寄りにドカッと位置しているのだ。そこは、『ミドガルズオルム』と呼ばれた。ミドガルズオルムは、このの森だけでなく長大な山脈を抱え、高く聳え立つ活火山が連なっており、噴火を繰り返して赤い溶岩を垂れ流し、地を揺らす。正に生命を拒絶するような地獄のような風景が見られる。噂では、ドラゴンは、ここから出現するとも言われる。


 林立する高い木々がある森は、このミドガルズオルムの入り口にあたる。誰が作ったのかわからないが、辺境地域マーグレーブには、ミドガルズオルムの暗黒の森に続く街道がある。しかし、ここを利用する隊商カールヴァーンはいない。東から西に辺境を抜ける場合、大幅な遠回りになってもミドガルズオルムは避けた街道を行くのだ。いったい誰が何のためにこの街道を作ったのだろうか?


 しかし、数日前にこの街道を進み、ミドガルズオルムの中に入って行く痩せた背の高い緑色肌のガラマーンがいた。


「おのれ、剣聖め。邪魔をしをって!せっかく良い子が産み出せたものを!」

 オギルは、罵りながら森を進んでいると、突然大きな黒い狼のような獣が前と後ろから数頭現れた。これは、黒狼ルーフだ。とても狂暴な魔獣である。

「グゥゥ・・、グロロロロ・・・」

 オギルは、黒狼ルーフに道を塞がれ、立ち止まった。

「うん、なんじゃ、お前らは?散れ!用は無い」

 黒狼に向かって、シッ、シッと手を振る。

「グゥァオーーっ!」

 その瞬間、黒狼は襲いかかってきた。オギルは、慌てることもなく右手に持った赤い宝玉を埋め込んだ長い杖を地面にトンと振り下ろした。

 すると、地面から突起が幾つもオギルの周囲の地面から伸びてきて、黒狼を貫いた。

「キャインッ!」

「キャインッ!」

 黒狼等は、グタッとなり、絶命した。

 

 骸となった黒狼の脇を通り、オギルは森の奥へと歩き始めた。

「まあ、良い。剣聖スフィーティア・エリス・クライ、次こそは、儂のものにしてくれる。ウヒヒヒ・・・・・」

 オギルの不気味な薄ら笑いが、暗く静かな森の中に吸収されていった。


 オギルが街道を逸れ、獣道や太い木々の枝の上などを、暫く歩いて行く。途中道を塞ぐ草木などをかき分け、或いは、杖から火を発し、燃やして道を作りながら進んだ。


ガサ、ガサ、ガサッ・・


 枝や葉をかき分けると、丸い広い空間に出た。中央に巨大な青いドラゴンが身体を横たえていた。しかし、よく見ると手と脚が短い。と言うよりは、欠けている。尾っぽも切断され、その後生え始めているが、まだ完全ではない。大きな翼も右翼が切断されたままだ。どうやら、このドラゴンは、アライン・エル・アラメインと闘い、深手を負ったのだろう。


「何だ、まだ修復できんのか?」


グルグルルルルル・・・・。


 元気のない低い呻き声を発するのは、サファイア・ドラゴンだ。体が青いドラゴンで冷気(凍気)を自在に操る。上位個体になると、身に常時凍気を纏い、全てを凍えさせることができる。背中に固そうなたてがみと長い後ろ耳があるのが特徴である。


 オギルは、サファイア・ドラゴンに近づき、まだ生えそろわない脚の辺りを触った。

「仕方ないのう。どれ、手伝ってやろうか」

 

 オギルは、ドラゴンの脚の傷口辺りに赤い宝玉を埋め込んだ灰白色の杖で触った。すると、傷口あたりの細胞の動きが活発かしたのか、ビクビクと傷口が動き始め、盛り上がり始めた。オギルは、他の傷口にも、同じように杖を当たていく。そして、傷口から手や脚や翼、尾っぽが、見る見る盛り上がり生え変わって行った。


 ウグォウォウォウォーーーーーーーーッ!


 その急激な外部からの干渉による身体の変化に、サファイア・ドラゴンは、苦痛の絶叫を上げた。


 そして、全ての傷口が修復されると、サファイア・ドラゴンは起き上がった。しかし、その姿は、通常のサファイア・ドラゴンとは異なり、異様な姿をしていた。傷口から生えてきた手や脚は、青色ではない赤色のものだった。しかも、体に比して大きくアンバランスだ。生えてきた右翼も左翼よりも赤色で大きくアンバランスだ。尾っぽも前よりも長く赤いものだ。通常は青い眼をしているサファイア・ドラゴンだが、このドラゴンは、眼の上の方が赤く下の方が青く共存しており、その目は怪しい輝きを放っていた。


 オギルは、異形のサファイア・ドラゴンを見上げた。

「お前にくれてやった手足は、クリムゾン・ドラゴンのものじゃ。だから、前より整っておらんのは仕方ないが、まあ、良いじゃろう。これで、あのものを迎える準備が出来たというもの。ウヒヒヒッ、ウヒヒヒヒッ・・」


 オギルの不気味な薄ら笑いが、辺りに静かに反響していた・・


                                 (つづく)

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