第20話 復讐の果て 4 師の跡
スフィーティアは、小家屋の宿に戻っていた。ブーツを脱ぎ黒の板の間に上がると剣を置いた。
「ふう」
深い深呼吸と共に、ゴロンと仰向けに寝転んだ。ひんやりとした板の間の感触が心地よく感じる。
低い天井を見つめていると、
「マスター。あなたは、今どこに・・」
ユリアヌス・カエサル・ブルーローズは、5年前に突然消えた。任務中に消息を絶ったのだ。その任務が何で何処で消息を絶ったのかをスフィーティアは、何度も剣聖団本部に尋ねたが、伏せていて教えてはくれなかった。スフィーティアは、ユリアヌスが死んでいるとは思っていなかった。だから、任務をこなしつつユリアヌス消息の手掛かりを探っていた。そして、今日、ユリアヌスの足取りを
何か関連があるのか?
首長オムが言っていた
そして、ミドガルズオルム?
その時だ。突然スフィーティアの左腕の透明なリングが瞬いた。
ピピピピピピ・・・。
「私だ」
スフィーティアは起き上がり、リングに触れた。
「姫様、今回もご無事で何よりです」
リングの少し上に黒いモーニング服を着た細目で銀髪の男性の小さなホログラムが浮かび上がった。
「爺か。何かあったのか?」
それは、クライ家の執事を務めるダン・フォーカーからのものだ。
「任務を果たされたばかりと存じますが、本部から新たな指令が届いておりますので、転送します」
すると、ダンのホログラムが消え、指令の文字が空中に浮かび上がる。
『指令315
剣聖スフィーティア・エリス・クライあて
ヴァランタイン共和国のバース地方南東の山岳部に、巨大な赤いドラゴンの目撃情報を入手した。貴殿は、速やかに現地に赴き、情報収集に当たり、報告せよ。なお、今回の任務は、討伐ではない。接触しても戦闘は回避すること。早まった行動は禁ずる。
以上』
指令が、煙のように消えると、ダンのホログラムが再び浮かび上がる。
「爺、まだこちらの任務は終わっていない」
「アライン様の消息を確認し、ドラゴンの討伐も果たしたのでは?アライン様のことは残念なことですが・・」
「放置できない事態となっている。ガラマーンの中に竜力を使用する者がいた。また、このガラマーンと共にアラインを追い詰めたサファイア・ドラゴンの追討が済んでいない。私は、引き続き任務を継続すると本部には伝えてくれ」
「一応助言いたします。その事実関係を本部に伝えるだけになされたらいかがでしょうか?本部の方で対処しましょう」
ダンは、説得する風もなく淡々と話した。
「悠長に構えていられない。私が追う方が早い。それに、アラインは、私の師匠のような存在だった。私の気持ちの問題だ。
「御意。そう言うと思っておりました」
ダンの細い目元は、緩んでいた。
「それと、
ダンのホログラムはスーッと消えた。
少しして、スフィーティアの後ろに頭から黒い装束に身を包んだ若い小柄な女が、音を立てることもなく、現れ、膝をつく。
「スフィーティア様、お失くしになられたロングコートをお持ちしました」
先ほどダンが言っていた
「ヨウか。上がってくれ」
スフィーティアが、振り返り、近くにくるよう促す。
「失礼」
足音も立てずに、近づき、スフィーティアに剣聖のロングコートを差し出す。しかし、スフィーティアは、コートをすぐに受け取らず、ヨウを見つめる。ヨウと呼ばれた黒子はスフィーティアの心情を察した。
「コートをかけられた少女は、丁重に弔いました。ご安心ください」
「そうか。よかった」
そう言うと、スフィーティアは、コートを受け取り着る。
「それと、こちらを」
ヨウは、始末書を差し出した。
「うう・・」
ガタガタガタ・・。
玄関の引き戸が開く音だ。
「誰かきます。失礼」
そう言うと、ヨウは、黒いマントに身を包むと姿が消えた。
アトスが、部屋の戸を開き、入って来た。
「誰かいなかったか?話し声が聞こえた気がしたが・・」
「いや、気のせいだろ」
スフィーティアは、始末書を丸めながら首を横に振る。無かったことにしようとしているのか?
「ふーん、そうか・・」
そうは言いつつも、アトスは一方向を見ていた。特にそこには何もないのだが・・・。
「まあ、いい。それよりも、
「ミドガルズオルムか。わかった。行くぞ!」
スフィーティアは、始末書をゴミ箱に放り投げた。
「いけませんよ!」
黒子のヨウが突然姿を現した。
「うわ!何だ、お前は?どこから現れたんだ?」
アトスが慌てる。
「スフィーティア様、新たな指令が届いているはずです。何で、あんな危険な場所に行こうとされるのですか!」
「アトス、この子は
スフィーティアは、苦笑いしている。
「黒子?ああ、剣聖の裏方の仕事をするとかいう。人前には姿を見せないと聞いていたが。よろしくな、ヨウ。俺は、サポーターのアトス・ラ・フェールだ」
そう言って、アトスはヨウに手を差し出す。
「何ですか、あなたは。サポーターなら、何でスフィーティア様を支えることをせず、危険な情報を持ってくるんですか!」
「と、言われてもなあ。クライアントの要望に応えるのが俺たちサポーターの仕事だからな。剣聖団がどう考えているか知らないが、今は、こいつが俺のクライアントなんでな」
ヨウは、言葉を返せず、苦虫を噛んでいる。
「ヨウ、私のことを心配してくれるのはありがたいが、私は、決着をつけるためにオギルとドラゴンを追わなければらない。本部には後追いで許可をもらうつもりだよ」
スフィーティアは、心配するなと言う様にヨウの頭をポンポンと触った。
「スフィーティア様・・・」
ヨウは不安な表情を見せる。
スフィーティアが意志を曲げないことはヨウはわかっていた。アトスの方を振り向き、言った。
「サポーターさん、いいですね。スフィーティア様は無茶ばかりされるのですから、しっかり見張っていてくださいよ!」
「え?」
「いいですね!」
ヨウは、人差し指をアトスに突きつける。
「ああ、わかったよ。任せておけ!」
「ヨウ、その言い方だと私は、まるでコマッタちゃんのようじゃないか」
「実際、スフィーティア様は、コマッタちゃんですからね」
「ハッハッハ、これはいい。スフィーティアがコマッタちゃんか。あっはっはっはっ!」
「アトス。貴様、何を笑っている」
スフィーティアの眼が吊り上がる
「そうですよ。私以外に言われると腹立ちますね!」
ヨウの眼がキラリと光った
「ちょっと待て、何だ?その手は?うわーーーーーーっ!」
アトスの身に何が起こったかは、想像して欲しい・・・。
そして、スフィーティアは始末書を書かされたのだった。
始末書からは逃げられない。
(つづく)
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