第19話 復讐の果て 3 都市デューン
「おい、アトス・・・・。アトス!」
「うわっ!」
スフィーティアの美しい顔がいつの間にか目の前に迫っていて慌てて、後ろに腰を引いた。
「どうしたんだ?急にボーっとして」
「いや、何でもねえよ。それより、
そう言うと、アトスは立ち上がり部屋を出て行く。平屋建ての建物から出ると、パチンと頬を両手で叩く。
「何やってんだ?俺は!あいつは、まだ小娘だぞ。大人の俺が何ドギマギしてやがるんだ。しっかりしろ!」
スフィーティアは、剣聖の正装に着替える。滑らかな手触りの厚手の白いブラウスに袖を通す。下は、
※ 剣聖のロングコートは、防御力強化など特殊加工が施された剣聖団の開発した機密装備品である。紛失するなど許されないことだ。この後スフィーティアは、きっと剣聖団本部に始末書を提出したことだろう。しかし、スフィーティアが置いて来たコートは、竜の遺体と同じように回収班が回収に来たことだろう(※第2話参照)。願わくは、少女の遺体も丁重に葬ってもらいたい(※第17話参照)。
ふと、右人差し指にはめられた赤いリングが目に入った。アライン・エル・アラメインがスフィーティアに託したマスターピースだ。
スフィーティアは、その指輪をはめた時にプワーッとアラインの
そして、平静さを取り戻すと、スフィーティアは、剣聖剣カーリオンを腰に差し、黒い板の間の小家屋を後にした。
ガラ、ガラ、ガラーッ!
スフィーティアが引き戸を開け外に出ると、アトスが待っていた。
「行くか」
アトスと並んで、舗装された通りを歩いて行く。平屋の木造家屋が多く立ち並んでいる。時々2、3階建ての瓦屋根の大きな建物も見えるが、豪商だったり、役場などであったり街の重要施設であったりするようだ。高い
ガラマーン族は、人間族よりも身長が低く、濃い褐色の肌をしており、長い耳と赤い目をしている。そして、非常に好戦的であるというのが
「ちょっと、そこのきれいなお嬢さん!」
商店街を歩いていると、店先で呼び込みをしていたガラマーン族の中年の女がスフィーティアに声をかけてきた
「私のことか?」
街の様子を確認しようとキョロキョロと歩いていたスフィーティアが、声をかけられ足を止めた。
「あんた以外にいるかね。どうだいうちの団子食べてかない?おいしいよ」
そう言って、長い串に茶色い大きな団子を3個差したものを差し出した。日本人の知るみたらし団子の3倍位はある大きさだ。スフィーティアは、見たこと無い食べ物だったため物欲しそうに眺めている。
「何だ。欲しいのか。そう言えば朝飯も食べてないか」
「おばちゃん、
「毎度!」
差し出された団子を受け取ると、スフィーティアは、大きな団子を優雅にパクリと口にする。スフィーティアの眼が大きく見開いた。
「美味い・・」
「だろう!」
ガラマーン族のおばちゃんは嬉しそうだ。そして、ここからは、早かった。あっという間に一串を食べ終わる。
「アトス、もう一本だ」
「ええ、そんな大きいの、まだ食うのか?この後、別に朝飯あるんだぞ」
「問題ない。もう一本だ」
「毎度!」
スフィーティアは、これもあっという間にもう一串も食べてしまう。
そして・・・・・。
「もう一本!」
「もう一本!・・・」
結局、スフィーティアは、10串も平らげてしまい、アトスが呆れた表情で見ていた。
後のことだが、スフィーティアは、団子が余程気に入ったと見え、製造方法の情報を仕入れ、自ら美味しい団子の開発に励んだとかいないとか・・。
団子店を出ると、二人は、街の中心の方にある首長の家を目指し歩き始めた。
「なあ、スフィーティア。俺がお前をここに運んだのは、何もお前を休ませるためだけじゃない」
アトスが、歩きながら話し始めた。
「ここには、辺境を行く
「そうか」
スフィーティアが頷く。
「見ろ。あれがオムの館だ」
アトスが指さす方を見ると、高い塀に囲まれた館が見えてきた。大きな門まで来ると、ガラマーン族の門衛はアトスに挨拶すると木の扉を開いた。門をくぐると、石畳の通路の先に、合掌造りの
「
「ああ、本当にきれいだ」
スフィーティアは、自然とパッと花開いたような笑顔になった。
「おまえ、いつも氷のような表情をしているが、その方がずっといいぞ」
「え・・。ううん、よ、余計なことを言うな!」
スフィーティアは、恥ずかしかったのか、顔が少し赤くなり、眼を逸らす。
「褒めてんだよ」
「知らん。行くぞ」
そして、スフィーティアは、さっさと歩き出した。
二人は、大きな茅葺屋根の建物の玄関を潜った。そして、広い畳の間に案内された。
その大きな部屋の向こうは、引き戸式の戸が開けられており、緑と岩、敷き詰められた石等が見事に調和した風雅な庭園が広がっていた。ここの主の風流な性格が伺える。
庭の方から、背の高い恰幅のいい商人風装束をしたガラマーン族の男が現れた。
「まあ、座ってくれ」
言われるまま二人は、畳の上の座布団が敷かれたところに腰かけた。
「わしは、
「こいつは、スフィーティア。俺の仕事仲間だよ」
アトスは、スフィーティアが剣聖であることは、言わなかった。
「ほう、もう元気になったかね」
「はい。薬を頂戴したとのこと。感謝します」
スフィーティアはお辞儀をした。
「しかし、お主は、惚れ惚れするほど美しいのう」
オムは、尖がった髭をしごいている。しかし、その眼光は何かを確認するかのように鋭いものだ。
「こいつは、そんなこと言われても喜ばねえよ」
「ウワッハッハッハ!よいよい。さあ、朝食でも一緒にしよう」
首長のオムは豪快に笑う。
3人は、黒い板の間の広い食堂に移った。そこには大きな長いテーブルがあり、3人は腰かけた。オムは、上座から話しかける。
「さあ、遠慮せず食べてくれ」
スフィーティアは、出されたものを黙々とキレイに平らげていく。
「おまえ、10本も団子食べてるのによく食えるな・・」
アトスは、呆れた表情で見ている。
「造作ない」
スフィーティアは、ナプキンで口を拭いている。
「ウワッハッハッハ!ここの団子を10本も食べたとな。これは、見事、見事」
「首長、ここのガラマーン族は、私の知るガラマーン族とは随分違うように見えます」
スフィーティアが話題を変える。
「お主には、そう見えるかな。確かに人間族の我らのイメージは、攻撃的で
オムは、ため息を付き首を横に振る。
「ガラマーン・パラサイト」
スフィーティアが、応じた。
「何故、その名前を?そう、恥ずべき連中だ。同族の風上にもおけぬ。あまりに目に余るので、我らは、奴らに人道に
オムは、深いため息をついた。
「しかし、最近奴らの拠点の集落が、何者かによって壊滅し、オギルはどこかに消えたと聞いたが・・」
オムは、スフィーティアとアトスを交互に見た。
「そのオギルの行方を俺たちは、追っている。何か知らないか?」
アトスがオムと眼が合い訊く。
「ふう、お主の実力をわしは知っているが、お主ではオギルは倒せまい。スフィーティア、お主はもしや・・」
「剣聖です。オギルはドラゴンと結託し、罪もない人を大勢殺し、女性を凌辱した。その上・・。奴を排除しなければ、私の任務は終りません。行方を知っていれば教えください」
「そうか、お主は剣聖だったか。で、あのオギルも逃げ出さざるを得なかったのかの。まあ、剣聖であれば、問題なかったかと言えばそうでもなかろうが」
「オム首長は、
「うむ、この近くにミドガルズオルムの森があるからな。剣聖が数年前までやってきておったようだ。と言っても、お主らは、表立って行動しないから、会ったのは数人だ。中には、ドラゴンに殺られる者もいたようだがな。しかし、その中で忘れられないのは、お主のように輝くような金色の髪をした美丈夫だ。名前は名乗らなかったからわからんが、周辺を荒らしていたドラゴンからこの町を守ってくれた。そいつは、
「マスター・・・。その剣聖のことをもっと話してください!」
スフィーティアが詰め寄る。
「あ、ああ。構わんがの。もう5年ほど前になるかの。その男は、ここからそう遠くない所にあるミドガルズオルムについて、尋ねてきた。無口な男であった。ミドガルズオルムは、足を踏み入れて帰って来たものが無い地だ。ドラゴンもそこから現れると言われるが、確認はできないところ。止めたが、男はそこに向かったようじゃ。男を見なくなって暫くすると、
スフィーティアは、こんな辺境の場所で彼女のマスターである『ユリアヌス・カエサル・ブルーローズ』の情報を聞けて、心が躍った。マスターが来た場所に自分もいると思うと嬉しくさえ思えた。
その様子をジッと見ていたアトスが割って入る。
「なあ、思い出話よりも、今大事なのは、オギルの行方じゃねえか?」
「ああ、そうだったな」
「オギルの行方はわしにもわからんよ。わしのところにも情報はないぞ。ただ、オギルは、ミドガルズオルムに出入りしていたという。何故そんなことができるのかわしにはわからん。
「ああ、そうしてみよう」
オギルの屋敷を二人は出ると、門前でアトスはスフィーティアに提案した。
「
「わかった。頼む」
「ああ。宿で待っていてくれ」
アトスは、スフィーティアと別れると、都市デューンの東端にある
(つづく)
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