第17話 復讐の果て 1 追撃

 スフィーティアは、ガラマーン・パラサイトの集落を出ると、助けた少女の傍まで来ていた。少女は、スフィーティアが脱いで着せていた白いロングコートに包まれ、横たわっていた。コートを取ると、夜の月明りが、少女を照らした。少女の腹に穴が開いており、そこからの大量出血で少女は死亡したようだ。


 スフィーティアは、跪いて少女の手を取った。

「すまない。助けられなかった・・」

 そう詫びるスフィーティアの肩は、微かに震えていた。


 スフィーティアが暫く少女の傍で跪いていると、そこにアトス・ラ・フェールがやって来て、後ろからスフィーティアに声をかけた。

「悲惨なものだった。年端も行かない少女の腹からガラマーン・パラサイトの赤子が突き破って出てきやがった。その赤子は始末した。この少女はお前が逃がしたんだろ?」

「アラインだけでなく、私は、この少女も助けられなかった」

 スフィーティアは、横たわる少女の青白くなった顔を見つめる。

「あまり考え込むなよ。お前のせいじゃないだろ。悪いのは、ドラゴンとガラマーン・パラサイトだ。それもお前が倒したんだ」

「いや、まだだ。あいつを倒していない」

 スフィーティアは、立ち上がった。


「あいつ?」

「ガラマーン・パラサイトのおさオギルだ」

「ああ、あの背の高いガラマーンか。不気味な奴だったな」

「今回の件は、あいつが張本人だ。逃がしはしない。それに、ドラゴンはもう一体いて、そいつは生きている」

 そう話すスフィーティアは、調子が悪そうだ。顔が微かに赤みを帯びていた。

「サファイア・ドラゴンの討伐がまだだ。私は任務を継続する」

 スフィーティアがふらつくと、アトスが支えた。

「おい、大丈夫かよ。なんか調子悪そうだぞ」

「だ、大丈夫だ。アトス、お前はもうここでいい。ありがとう」

 スフィーティアは、アトスを押し離すと、ふらつきながら歩き始めた。


「ハア、ハア・・」

(何だ?身体が熱くて重い・・。まだあの薬の影響が残っているのか?)

オギルが彼女に使った竜媚気りゅうびきの影響が出ているようだ。鎧状態アーマーモードの竜力が高まっていた時には、影響は出なかったが、正装状態つうじょうに戻り、また媚薬効果がまた出てきたのかもしれない。

「おい、待てよ」

 アトスが、スフィーティアの手を取る。


 ビクッ!


「さ、触るな!」

 スフィーティアは、アトスの手を振り払うと、バランスを崩し後ろに倒れそうになる。

「ああッ!」

 アトスが、転びそうになる彼女の腕を取り、引き寄せると、抱き止めた。

「おい、お前。身体が熱いぞ。熱でもあるだろ?」

 そう言って、アトスは、スフィーティアの額に手を置いた。

「うわっ、あちッ!何て熱だ!」

 

 ビクッ!

「うっ!」

 スフィーティアの顔が火照り紅潮している。


「ハア、ハア・・。離してくれ、頼む、今は、本当にダメなんだ・・」

 スフィーティアは、アトスの腕から離れようと、ジタバタする。アトスが手を離すと、スフィーティアは、グラッと来て倒れそうになった。

「何言ってんだ。ふらついてんじゃねえか!」

 アトスが、慌てて抱き寄せると、彼女の腰の辺りに手を回した。


 ビククッ!

「ああぁっ!」

 スフィーティアは、そのまま気を失ってしまった。


「おい、しっかりしろ、スフィーティア!」

 アトスが、スフィーティアを揺らすが目を覚まさない。

「何が、どうなってるんだよ、一体。とりあえずこいつの熱を冷ますのが先だ」

 アトスは、スフィーティアを抱き上げると、勢いよく口笛を吹いた。


「ピューピュピュー♪、ピューピュピュー♪」

 すると、空から銀髪の一角羽馬ユニコーンが降りて来てアトスの目の前で止まった。


「よしよし、相棒」

 アトスは、一角羽馬ユニコーンの顔をやさしく撫でると、ユニコーンは嬉しそうにいなないた。アトスは、スフィーティアをユニコーンの背に上げ乗せる。


 アトス・ラ・フェールは、聖魔道教団の聖魔騎士。聖魔騎士は、その功績で聖魔道教国教皇王から天馬ペガサス一角羽馬ユニコーンが与えられる。それこそが、聖魔騎士たるあかしでもあるのだ。ただ、聖魔騎士というアトスが一角羽馬ユニコーンを依然所持しているのは何故なのだろうか?


「頼むぜ。相棒。デューンまでだ」

 アトスは、自分もスフィーティアを抱くようにユニコーンに跨ると、手綱を引き大空へ飛び立つように合図を送ると、ユニコーンは前脚を大きく上げた。


 ヒヒーーンッ!

 ユニコーンは翼を一羽ばたきさせると大きく上昇していく。そして、星空を一直線に翔け抜け星へと消えて行った。


                                 (つづく)

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