第14話 宿命を燃やして 5
スフィーティア・エリス・クライは、ガラマーン・パラサイトの集落にやって来た。集落は木材や土の塀で囲われている。集落には雑然と大小区別なく木造の家屋や建物が立ち並んでいる。静かだが、炊き出しのような煙が家々から上がっていた。集落への入り口の大きな門は開いており、門番などもおらず、外部からくる者を警戒している風もないようだ。
ここに先ほど盗賊等が話していたゲーマンの女達が連れて来られているはずだ。そして、アライン・エル・アラメインの消息もわかると思った。背中に携えたアラインの赤湾刀が、微かに反応しているように感じた。
ガラマーン・パラサイト
ガラマーン族の一部族だ。ガラマーンも一枚岩でない。複数の部族がある。その中でも
集落の門をくぐると、小柄な濃い緑色肌の赤い眼に耳長の亜人達が、立ち並ぶ家や小屋から出て近づいて来た。
「オンナ!」
「オンナ、オンナ!」
スフィーティアを見ると、緑色の小人の集団は興奮し始め、スフィーティアにじりじりと近づいて来て、周りを取り囲む。
「小人共。私に近寄るな。痛い目を見るぞ」
スフィーティアが牽制する。
「オンナ、オンナ、イイオンナ!」
スフィーティアの美声に興奮し、一斉に跳びかかって来た。そして、小人共はスフィーティアに抱きつき、胸を揉みまわしたり、お尻を撫でたり、大腿をに手を這わせたりし始めた。
「忠告はしたのだがな。下種が、離れろ!」
スフィーティアは、そう言うと、足にまとわりついた者は、蹴り飛ばし、胴体にまとわりついたガラマーンは、腕で引きはがし投げつけ、お尻にまとわりついた者は、地面に圧し潰した。
まとわりついたガラマーン・パラサイトを全て引きはがされた。引きはがされたパラサイトは泡を吹いて気絶している。これに、周りのパラサイト達は警戒し、
「お前たちの
そこに、奥の方から一際長身で細身のガラマーン・パラサイトが現れた。白い髭と太い眉を生やしていて眼は開いているのかどうかもわからないほど細い。身長は、スフィーティアと同じ位だろうか。右手に先に赤い宝玉を埋め込んだ身長位に長い灰白色の杖を持っている。
「騒がしいと思えば、ヒトが自ら我らの地に足を踏み入れるとはな。しかも、女がやって来るとはな。我らの子をなしたいのかな?歓迎するぞ。ウヒヒヒ」
気味の悪い薄ら笑いが、不揃いな先のとがった歯を見せ、漏れる。
「馬鹿なことを。私は剣聖。子などできぬ」
「さあ、それはどうかな。さぞかし丈夫な子をなせようというもの。お前であれば、わしが直々に相手をしようぞ。ウヒヒヒ」
スフィーティアはその提案を聞き流した。
「貴様がここの長か?」
「まあ、そのような者だな」
「私は、剣聖のスフィーティア・エリス・クライという。仲間を探すためにここに来た」
「
「赤黒髪で褐色肌の女性だ。私と同じように白いコートを着ていたと思う」
「おお!その女なら、わしらが保護しておるぞ。案内してやろう。こちらじゃ。ウヒヒヒ」
オギルは、先頭に立ち先を行く。そして、いつの間にかスフィーティアを囲むように横と後ろにガラマーン・パラサイト等が武器を持ち、続いた。
スフィーティアは、雑然とした木造の家々が立ち並ぶ道を進んだ。とても衛生的とは言えない街だ。汚物なども所々に散らかり、ハエなどが舞っている。時々大きな建物の横を過ぎると、中から女の悲鳴のような声が漏れ聞こえる。スフィーティアは、奥に進むにつれ、空気の淀みのようなものが強くなるのを感じ取っていた。それは、彼女にとっても望ましいものではないが、平然とした態度を取っていた。
しばらく町の中心に向けて歩いて行くと、一際大きな館にたどり着いた。ここだけ、木造ではなくレンガで作られた洋館のような建物だ。手下のパラサイトが、恭しくオギルを迎え扉を開く。
中は暗い。窓は小さく、あまり外の光は入って来ないようだ。しかし、それよりもこの館の中から漂ってくる空気が生暖かく身体にまとわりついて来るような不快なものであることをスフィーティアは、意識せざるを得なかった。
洋館の中を進むと、通路の両端にある部屋部屋から女の喘ぎ声や悲鳴が絶え間なく聞こえてくる。体臭と汗の匂いが鼻に突く。それに加え、あの体に纏わりつくような嫌な生暖かい空気が纏わりつき意識を揺らがせるようだ。スフィーティアは、若干意識して気分を落ち着かせていた。普通の人であれば、この空気が起こす興奮作用に耐えられないのではないだろうか?
「ああ、もう駄目。助けて!」
「きゃー-っ!」
「ギャアッ!」
女の声が絶えず部屋部屋から響く、中には、死の間際のような絶叫も聞こえる。
「一体ここは何だ?」
スフィーティアが前を歩くオギルに問いかける。
「気にするな。ここだ」
パラサイトの長は、通路の突き当りの大きな部屋のドアを開けた。灯の無い部屋は、採光の窓も小さくとても暗い。鼻を突く汗や体臭の匂いがむムワッときた。
「アッ、アッ、アッ」
「もう、止めて!もう無理!」
喘ぎ声や悲鳴と身体が擦れる音やぶつかる音があちこちからする。眼を向けると、何人ものガラマーン・パラサイトが代わる代わる女を姦通していた。まだ息絶えたばかりと思われる女の死体も見られた。腹から大量の血を流している。その傍らには緑色肌の赤子が這っていた。
「何ということを!」
悲惨な光景である。
「何を言うか。ここは、我らの神聖な場所だ。見ろ、女たちの表情を。うっとりとしているではないか」
オギルは、パラサイトに犯されている女の顎を掴み、スフィーティアの方に向ける。
「お前と、そんな議論をするつもりはない。仲間はどこだ?」
スフィーティアは、内心では怒りがこみ上げていたが、平静に振舞う。今は、アラインを確認することが優先なのだから。
「お前の仲間は奥にいる」
オギルが指さした。
スフィーティアは、言われた方向に眼をやると、ハッとした。
「アライン!」
スフィーティアは、奥に駆け寄ると、黒髪に赤いメッシュの女が、壁際に上から鎖で腕を吊るされ、脚を下からやはり鎖で床に固定されていた。紫色のシャツ以外は服をはぎ取られ、陰部の辺りから白いドロっとした液体が滴り落ちている。アラインは、ここにいる女達と同じようにガラマーン・パラサイトに何度も凌辱されたのだろう。
そして、一番はむごいのはアラインの手足が切断されて無いことだった。アラインの顔色は青白くなり生きているのが不思議なほどだ。胸に埋め込まれた赤い輝石も輝きを失っている。
しかし、スフィーティアが、近寄るとアラインは目を開けた。
「スフィーティアか。情けないな、へましちまったよ・・」
アラインが虚ろな笑みを浮かべた。
「待ってください。今降ろします」
そう言うと、スフィーティアは、剣聖剣カーリオンで天井から吊るされていた鎖を切る。落下するアラインの身体を抱きかかえると、脚の鎖も切断し、アラインを解放した。
力なくスフィーティアにもたれ、ブルブルとアラインは震えていた。
「すまないな。自分では動けない」
「アライン・・」
スフィーティアは、アラインの変わり果てた姿を見て悲しくなり、アラインを強く抱きしめた。
アラインを片手で抱え、部屋を後にしようと振り返ると、オギルと他のパラサイトが出口を塞ぐように立ち塞がった。
「おっと、その女を連れて行かれては困るぞ。その女には儂の子種を注いだのだ。すぐに子をなそう。ウヒヒヒ」
「貴様!」
スフィーティアの青碧眼がつり上がる。
「ここは我らの神聖な場。お前にも神聖な儀式に加わってもらうつもりだ。そのためにここに案内したのだからな。儂が相手をしてやる。ありがたく思え。貴様なら儂の後継となるような良い子が為せようぞ。ウヒヒヒ」
前にも増して気味の悪い笑みをオギルは浮かべた。
「仲間をこんな目に合わされて私が冷静でいると思っているのか。そこをどかなければ斬り捨てる」
スフィーティアが、怒りの眼を隠すことなくオギルに向ける。しかし、スフィーティアの額からは汗が滲んでいた。ここの纏わりつくような淀んだ空気のせいだ。
スフィーティアは、カーリオンに手をかける。
しかし、パラサイトの長は、怖気づくことなく、杖をかざした。
「その女もそうであったが、やはり剣聖は一筋縄ではいかぬようだ。お前にはこの
そう言い、杖を振るうと、スフィーティアを赤色の煙が包んだ。
「うっ」
その空気を吸った瞬間、スフィーティアは、ガクッと力が抜け、膝をついた。
「き、貴様、何を!」
スフィーティアがオギルを睨む。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ここは?あれ、スフィーティア?どうして私は、彼女に抱えられて?
私は、どうしたんだ・・・・・・?
そうか・・・。
ガラマーン・パラサイトの長に・・・・、身ごもらされた。
クソ、嫌だ!小鬼の子など産みたくない、産みたくない!
あまりにも
ドクン、ドクン・・。
あれ?スフィーティアの様子が変だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オギルを睨むスフィーティア。しかし、力が出ず、立てない。
「これは、特殊な媚薬に竜の力を混ぜ合わせ強力にしたものじゃ。竜の力を使うお前達剣聖にも効くのは検証ずみじゃ。さあ、儂と気持ちよく交わろうではないか。お前は、儂のが欲しくて堪らないはずじゃ。ウヒヒヒ」
「戯言を!」
しかし、スフィーティアは、先ほどまでとは比べ物にならない位体が火照り始め、体が敏感になっているを感じていた。意識も朦朧として力が湧いてこないようだ。
「どれ」
オギルは、スフィーティアの顎を掴み彼女の顔を上げた。
「触るな!」
「ほんに、お前は美しいのう。美々しいものを
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
スフィーティアを助けるんだ!
ダメだ。今の私には力が無い。
ドクン、ドクン・・
『力ならある。お前が望めばそこに。眼を開けて見ろ。手の届くところにそれはあるぞ』
なに?
そうか・・・。もう、私には、これしか・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その時だ、スフィーティアの背中の大湾刀が赤く輝き始めた。
「赤湾刀が反応している・・」
見ると、アラインの胸の輝石も赤く光り始めた。
「スフィーティア、
アラインがそう言うと、切断されていた右腕から赤い大きな手がヌッと生えてきて、スフィーティアの背中から大赤湾刀を掴んだ。
「アライン!」
アラインが、
「
「まさか、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます