第13話 宿命を燃やして 4

 また、ある日剣聖団本部でアラインと会った時のことだ。


「スフィーティア、お前は子が欲しいと思ったことはあるか?」

「え?」

 そのいきなりの質問に驚いて私はアラインをジッと見た。少し顔に朱が差しているように見えた。

「ああ、勘違いするなよ。今どうとかではないからな」

 アラインは、頭を搔きながら視線を逸らす。

「勿論、私も剣聖が結婚どころか恋愛も対象外なのはわきまえている。でも、いずれ私達も剣聖を退く時が来るだろ。それも、そんなに先の話ではないはずだ。剣聖を退いた後の私達の余命は長くない。竜力使用の力の代償だ。でも、その短い期間に我々は子を為し、次代の剣聖を残す」

 

 アラインはここで、間を置いた。

「まあ、そこまで生きられる方が少ないがな。任務で命を失う剣聖がほとんどだ。だからこそ、私は自分の子が見てみたい。余生を迎えたら、子を作る。そのために頑張っているんだよ」

 アラインは屈託ない笑顔を私に向けた。

「アライン・・。それってまさか、アレ・」

「シーっ!」

 アラインは赤くなりながら私の口を抑え、辺りを見回す。

「誰かに聞かれたらどうする。まだ、私の妄想だ」

「そ、そうですか。実現するといいですね」

「え?お前、本当にそう思っているのか?」

「勿論。何故です?」

「いや、アレクセイあいつとお前は仲がいいからな。その・・、お前もあいつのことを・・」

「はあ?何でそうなるんですか?私は、アレクセイかれのことをそんな風に見てませんよ。気にかけてくれるのはありがたいけど、最近はちょっと鬱陶しくて困ってますよ」

 私は、首を横に振る。

「そ、そうなのか!」

 アラインは、私の両肩を掴み顔を近づける。

「え、ええ」

「はっ、はっ、はっ、はッ!そうか、それは良かっ・・・」

 アラインは、少し赤くなりながら咳ばらいをして続けた。

「ああ、しかし、なんだ。あいつも可哀そうにな」

「彼も私のことをそんな風には見てないでしょう」

「いや、あいつは、お前のことを想っているさ」

「そうでしょうか?」

「そうだよ。スフィーティアは、そういうのは鈍感だな。ハハハハ」

 そう言って、屈託なく笑うアラインが思い出された。


 また、ある日私は剣聖団本部の庭園で、アレクセイとアラインが話をしているのを見かけた。私は木の陰で立ち止まる。

「アレクセイ、お、お前に話しておきたいことがあるんだが・・」

 アラインは、緊張している様子だ。

「なんだい?あらたまって」

 アレクセイが不思議そうにアラインを見た。

「私は・・、その、私・・・・は、だな・・・、その・・」

 アラインは普段からは想像できないほど緊張している様子で中々言いたい言葉が出てこなかった。

「いつもの君らしくないな。ハッキリ言ってよ」

 アレクセイが、屈みアラインに顔を近づけた。アラインは、ちょっと驚いたようで、一歩下がった。

「ああ、わかった。では言うぞ」

「うん」

「お、お前の子を産みたい」

 アラインは驚くほど小声で恥ずかしそうに声を発した。

「え、何だって?」

 アレクセイには聞こえなかったようだ。しかし、本当に聞こえなかったのか?

「お前の子が産みたい」

 さっきよりも少し大きな声でもう一度言う。

「え?よく聞こえないよ」

 アレクセイが耳をアラインの方に向ける。これにアラインは苛立ったようだ

「お前の子が産みたいんだよ!」

 アラインは顔を真っ赤にしてアレクセイの耳元で大きな声で言った。

「え?」

 アレクセイは、ポカンとしてアラインを見た。

「も、勿論今すぐにということではないさ。剣聖を退いた後にということだ。その時私は、自分の子が欲しい。その・・、次代を作るのも私たちの役目だからな。で、その、お前となら・・」

 アラインが恥ずかしそうに続ける。

「アライン、言っている意味わかっているのか?」

 ここで、アレクセイがアラインの肩を抱き、そしてアラインの顔に顔を近づけて言った。

「それは、僕と君がをするということだぞ」

 小声で囁くとアラインの顎を左掌で上げた。そして、唇を尖がらがせてアラインの唇に近づける。

「だ、ダメだー!」

「うぎゃー-!」

 ここで、アラインの右フックがアレクセイの左頬に命中し、アレクセイは吹っ飛び倒れる。


「わー-ッ、ごめん。つい・・」

 アラインがアレクセイの傍に駆け寄る。

「イテテテ。酷いなあ。でも、いいよ」

「え?」

「剣聖を退いたら子を作るんだろ?いいよって言ったの」

「本当か!」

 アラインは驚いて大きな声をあげる。

「うん、それはとてもいい考えだよ。私たちは次代の剣聖を生まなくてはいけないんだ。引退したらと子作りをすればいいんだな」

「はあ?」

「ハハハ、アライン、良いことに気づかせてくれてありがとう。よーし、引退後は色んな女性とたくさん子を作るぞ!でも、まずは君と子作りするから、安心してくれ」

 

 クズだ。この男・・。

 

 アレクセイは本気でそう思っているようだ。当然、アラインの怒りがこみ上げ、わなわなと震えた。

「この!最低野郎!」

「うぎゃあ!」

 今度は、アラインの左アッパーがアレクセイの顎にヒットし、大きく弧を描き、木陰の傍で黙って見ていた私の傍に落ちてきた。


「やあ、スフィーティア。君も引退後は僕と子っ・・。ウグッ!」

 私は、アレクセイの顔面を思い切り踏みつけ、全部を言わせなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 やがて、スフィーティア・エリス・クライは、ガラマーン・パラサイトの集落にたどり着いた。

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