第9話 平和の代償 4
カガの町では、町民が族長を取り囲み詰め寄っていた。
「ん?地鳴りが止んだ・・」
「揺れも収まったようだぞ」
町民等が辺りを見回す。
「エリよ。やってくれたか」
サトウは安堵し、静かに呟いた。
「族長、土地神様が殺られたというのか?」
町民等が、信じられないという様に族長に問う。
「ああ、そのようじゃ。竜狩りの娘が勝ったのじゃよ」
「いや。人間が土地神様を倒せるなんて信じられん」
「そうだ、そうだ。一時揺れが収まってもまたいつ起こるかわかったものではない」
「土地神様は神だ。倒されても復活するんじゃないのか?」
「そうだ、証拠が無いと信じないぞ」
「土地神様の祟りが起こったらどうするつもりだ!」
地鳴りや揺れが収まって恐怖は止んだかもしれないが、長い間信仰にまでなり、カガの人々の常識となっていたことを覆すのは容易なことではなかった。
「うわ、何だ。あの光は?」
その時だ。土地神を祭った山の頂上付近から一筋の光が上空に舞い上がったかと思うと、町の方に落ちてきた。
そして、町民等が族長サトウを取り囲む広場の真上でその光は止まった。それは、光り輝く白銀の鎧を身に纏った女神をも嫉妬させそうなほど美しい女性だった。光の翼からは、光の鱗粉が翼を羽ばたかせる度に零れ落ちる。
「おおー、何という事だ!女神さまが降臨された!」
「ありがたや、ありがたや」
町の者は、皆ひれ伏し、手を合わせている。
「おー、生きているうちにこのような美しい女神様を崇めることができるとは」
あまりの感動に、失神しそうな者までいた。
族長のサトウとマイ以外の集落の人々が女神と見まがう宙に浮くその美しい女性にひれ伏した。
「人々よ。私は、神などではない。私は、剣聖スフィーティア・エリス・クライ。竜を狩る
スフィーティアは凛とした美しい声で町民等に呼びかけた。そして、続ける。
「この地の竜、あなたたちが崇める土地神は、私が滅した。
あなたたちの大切な幼き命を生贄に捧げるようなことはするな。例え同じようなことが起こっても、仲間を生贄になどしてはいけない。自ら武器を持ち抗え。皆で抵抗しろ。自らの判断を他の力に委ねてはいけない。さすれば・・・、我らは力を貸そう」
そう言い残すと、スフィーティアは、上空を見上げると、金の翼を一羽ばたきさせると、一気に舞い上がり、夜空へと消えて行った。そして集落には、黄金色の粒子が降り注いだ。
それは、不穏な空気が支配したカガの人々の心を平静に戻していった。
そして、一人の少女が、輝く夜空を見上げながら呟いた。
「私は自由なんだ。嬉しい。もう怖くない。もう縛られないんだ」
その少女の眼からは、涙が流れ落ちた。
「ありがとう。私の身代わりになってくれて・・・」
その後、ここカガでは、少女を生贄に捧げる風習は無くなった。
次代への戒めとして、カガの人々は集落の入り口に石碑を立て、集落に現れた女神の言葉を刻んだという。
『仲間の命の上に、
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ここは、山上の土地神の洞窟の中だ。
「うぐっ!アトス・ラ・フェール!」
アトスの背中の辺りから伸びた透けた大きな右腕が、ドラグナーのシュウを捕らえた。
アトスは、透けた大きな左腕の掌に乗り、シュウの前まで運ばれた。シュウは、大きな掌の中でもがくが、抜け出せない。
「なあ、シュウよ。お前を殺さないと言ったが、事情が変わっちまった。死んでくれ」
そして、アトスは鞘から剣を抜くと、シュウの腹に突き刺した。
「ぐはっ!」
「悪いな。お前に恨みは無いんだが、スフィーティア《あいつ》の邪魔は見過ごせないんだ」
「き、き・・さ・ま。ぐほっ!まさか、教会の聖魔騎士が剣聖の犬に成り下がったとはな。はあ、はあ、はあ・・」
「
アトスが、剣で腹を抉ると、シュウは口から血反吐を吐き、アトスの服を真っ赤な血で染める。
「あの世で、ドラゴンと仲良くしてくれ」
「ふふ、俺が死んでも、他の仲間があいつを狙うだけだ。覚えて・・・お・・・け」
アトスが、剣を引き抜くと、シュウを掴んだ透けた大きな右腕が消え、シュウは、大きく開いた穴へと落ちて行った。
「なら、そいつも俺が始末してやるよ。ふう。まあ、こんなことをしてもあいつは喜ばないのは、わかってるんだが・・・・」
アトスの口から溜息が漏れた。
「ああ!どうにも俺らしくねえぜ。でも危なっかしい
アトスは、地面に降り立つと、頭を掻きながら洞窟の出口を目指した。
(エピソード「平和の代償」完)
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