第31話「お礼に着て見せてあげる」
「あっ、そうだ……!」
「ん? どうかした?」
何かを思いついたような声を夏実が出したため、秋人は不思議そうに尋ねる。
すると、夏実は照れくさそうにはにかんだ。
「ふふ、ご飯を食べてからのお楽しみかな」
「ふ~ん……?」
秋人は夏実の態度を不思議に思うけれど、折角機嫌が直っているので、そのまま自由にさせてみることにした。
それからは、スパゲッティを食べ終えた夏実は秋人の分の皿も一緒に洗った後、秋人を休憩室に残して一人部屋を出て行った。
夏実が戻ってきたのは、それから数分が経った頃だ。
「じゃ、じゃ~ん、どうかな?」
休憩室に戻ってきた夏実は、自身が身に着けている服を見せつけるかのように、両手を広げてクルッと一回転した。
顔は、照れくさそうに赤らんでいる。
「な、夏実、その服は……」
夏実が着ている服を見た秋人は、驚きを隠せない。
そして、視線は完全にその服へと奪われてしまう。
「今なら他に人いないから、アルバイトでフォローをしてもらったお礼に着てみたの」
そう言う夏実が現在着ている服は、店長からもらったメイド服だった。
同級生の中でも可愛い部類に入る夏実には、フリルが付いた可愛らしいデザインのメイド服が良く似合っている。
「そ、そうなんだ……」
夏実のメイド服姿を可愛いと思ってしまった秋人は、何を言ったらいいのかわからなくなってしまう。
そんな秋人の顔を、夏実はニヤニヤと笑みを浮かべながら覗き込んだ。
「ん~? どうしたの~? 顔、赤いね~?」
秋人が今何を考えているのか、夏実はわかっているのだろう。
意地の悪い笑みだが、今の秋人にはそんな夏実の表情でさえ、魅力的に見えてしまった。
「べ、別に、なんでもないし」
しかし、今までの関係があるため、秋人は素直になれない。
プイッとソッポを向き、夏実から視線を外してしまった。
「むぅ……」
素直に褒めてくれないことに、夏実は不満そうに頬を膨らませる。
そして、秋人が向いているほうへと回り込んだ。
「こっちを、見てよ……!」
夏実は秋人の両頬を手で挟み、逃げられないように顔を固定した。
それにより、秋人は視線を逃せなくなってしまう。
「そ、そこまでするほどか……!?」
「だって、折角着たのに……!」
夏実としては、ただ秋人に喜んでもらって、褒めてほしいだけだ。
それなのに、秋人が逃げるから拗ねてしまっている。
「素直に感想言わないなら、このまま秋人の足に座るよ……!」
「いや、それはおかしいだろ!? なんでそんなことするんだよ!?」
「秋人が絶対に逃げられないようにする……!」
顔を赤くして必死な様子を前にした秋人は、これが冗談じゃないと察した。
今までの行動を踏まえても、ここ最近の夏実なら本当にやりかねない行為だろう。
だから、諦めてゆっくりと口を開いた。
「その……か、可愛いよ……」
まるで消え入るような小さな声。
しかし、秋人と顔が当たりそうなほどに近い距離にいる夏実には、十分聞き取れた。
そして――。
「~~~~~っ!」
顔を真っ赤にして、悶えてしまう。
両手で自分の顔を押さえ、椅子に座ってパタパタと足を動かしていた。
スカートなのにそんなことをするものだから、正面に座る秋人にはモロに見えてはいけないものが見えてしまった。
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