第28話「見惚れる少女」
「うぅ……ごめん、秋人……」
午後になってから、夏実は午前の失敗に関して秋人に頭を下げて謝った。
そんな夏実に対し、秋人は優しい笑顔を向ける。
「初日なんだから、気にしないでいいよ」
「秋人……」
秋人の顔を見た夏実は、胸の前でギュッと拳を握った。
そして頬を赤く染め、潤った瞳で秋人の顔を見つめる。
「その……バイトの時の秋人、なんか優しいね……」
「そう?」
「うん、学校の時と全然違う……」
夏実は学校での秋人も好きだけど、アルバイト中の秋人も素敵だと思っていた。
学校では明るくて元気が良く、トラブルが起きても頼りになるという感じだ。
だけどアルバイト中では、大人のように落ち着いていて、頼りになるというふうに夏実は感じていた。
どちらも頼りになることは変わりないが、まるで別人を相手にしているように思ってしまう。
「まぁ、母さんが店長だからね。学校みたいに能天気でいるわけにはいかないんだよ。お客様の前でバカ騒ぎなんてしたら、従業員に示しが付かないし」
「ふ~ん、そうなんだ……」
まだ知らなかった秋人の顔を知り、夏実は嬉しそうに微笑んだ。
そうして二人が話していると、突然お店のドアが開く。
「「いらっしゃいませ~!」」
ドアが開いた音を聞き、半ば反射的に挨拶をした秋人と夏実は、訪れたお客を見て笑みを浮かべる。
「――よっ、二人とも」
喫茶店を訪れたのは、いつも学校で一緒にいる冬貴だった。
その後ろからは、ピョコッと春奈が顔を出した。
「ふ、二人とも、こんにちは」
春奈は若干緊張した面もちで、礼儀よく頭を下げた。
「来てくれたんだな、二人とも」
「まぁ、約束だしな」
「助かるよ。夏実、二人を席まで案内して」
秋人は笑顔を二人に向けた後、案内は夏実に任せた。
夏実はコクコクと頷き、冬貴たちを空いている窓際の席へと案内しようとする。
しかし――。
「…………」
なぜか、春奈は夏実の後を追わず、ジッと秋人を見つめていた。
「どうかした?」
「えっ――ふえっ!? な、なんでもないよ……!」
秋人に声をかけられた春奈は、なぜか急に顔を赤く染めてブンブンと首を横に振った。
誰がどう見てもテンパっており、秋人は心配になってしまう。
「何かあったの? 遠慮せずに言ってくれたらいいよ?」
「な、なんでもない……! ただ、ボーッとしてただけだから……!」
春奈はそれだけ言うと、埃が立たないように注意しながら、慌てて夏実と冬貴の後を早歩きで追い始める。
いったいなんだったのだろう、と秋人は不思議に思いながら、そんな春奈の後ろ姿を見つめるのだった。
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