第21話「とてもいい笑顔」

「――母さん、友達を連れてきたよ」


 秋人は夏実を連れた状態で、厨房にいる母親へと声をかけた。


「あっ、来たのね。ちょっとこれだけ仕上げたら行くから、先に奥の部屋に入っといて」


 どうやらナポリタンを作っている最中だったようで、秋人は夏実と一緒に事務の部屋に移動した。

 すると、数分後に母親が顔を出す。


「はい、お待たせ~。それで、君が――」

「――はい、秋人君と仲良くさせて頂いている、新海夏実です! 本日は、よろしくお願いいたします!」


 夏実はビシッと立ち上がり、緊張した面もちで声を張り上げた。

 そんな夏実を見た秋人の母親は、目を輝かせる。


「まぁまぁ、随分とかわいい――あれ?」


 しかし、なぜか急に首を傾げた。


「あなたって……もしかして、私と会ったことがある?」

「――っ! い、いえ、あの、人違いかと……!」


 秋人の母親の言葉に対し、夏実は慌てて首を左右に振る。

 だけど、夏実の容姿に見覚えがある秋人の母親は首を傾げてしまった。

 だから、秋人が口を挟む。


「夏実が、昔俺とよく遊んでいた女の子に似てるんだろ? 言っとくけど、別人だよ」

「……へぇ、そんな偶然あるのね。まぁ、いいわ。とりあえず、秋人は厨房に行ってきて」

「えっ?」


 夏実の面接を見守るつもりでいた秋人は、母親の思わぬ言葉に戸惑ってしまう。


「私が抜けてるんだから、責任者が必要でしょ?」

「いや、いつもそんなこと言わな――」

「いいから、よろしくね?」


 有無を言わさない笑顔。

 ここで逆らったら後が怖い。

 そう思った秋人は、渋々重い腰を上げた。


「えっ、行っちゃうの……?」


 秋人が傍にいてくれると思っていた夏実は、出て行こうとする秋人を不安そうに見つめる。

 それにより秋人はやっぱり残ろうかと思ってしまった。


 しかし――。


「ごめんね? でも、普通面接は一人で受けるものだから」


 母親の有無を言わさない雰囲気に、夏実は黙りこんでしまった。


「とりあえず、変なこと言わないでよ……?」


 昨晩のやりとりが記憶に新しい秋人は、不安を拭いきれない様子で母親に声をかける。

 すると、母親は呆れた表情を秋人に返した。


「心配しなくても、まじめに面接するわよ」

「…………」

「何よ、その心配そうな表情は。いいから、あんたはさっさと厨房に行きなさい」


 シッシッと手で母親にやられ、秋人は渋々部屋を出ていく。

 そして、秋人が部屋を出たのを確認すると――


「――で、青葉さん家の娘さんだよね?」


 母親は、とてもいい笑顔を夏実に向けてきた。

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