第13話「失われたハイライト」
「――じゃあ、行こうか」
放課後になって帰り支度が終わると、秋人は春夏秋冬グループのメンバーに声をかけた。
「うん、行こ!」
当然、この時を楽しみにしていた夏実は笑顔で頷く。
「このまま行くのか?」
「ん? あ~、俺と冬貴は家が近いから着替えてきてもいいけど、夏実と春奈ちゃんが手間になるだろ?」
「でも、水着買いに行くなら街中に出るんだし、私服のほうがいい気も……」
冬貴にそう指摘され、秋人は考え込む。
過去に、夏実と春奈を連れていることで、何度かナンパを受けたことがあった。
その際は秋人が追い返していたのだけど、制服で目を付けられた場合、下手をすると高校にまで来る可能性がある。
となれば、冬貴の言う通り私服のほうがよさそうだ。
「そうだな、冬貴の言う通りだと思う。夏実と春奈ちゃんも、ちょっと手間になるけど一度私服に着替えてくるってことでいいかな?」
「おっけ~」
「うん、いいよ」
秋人の問いかけに対し、二人は笑顔で頷いた。
それにより一旦皆家に帰り、その後私服に着替えて電車の中で待ち合わせをした。
「――あっ、こっちこっち」
秋人と冬貴が電車に乗ると、一駅前から乗車していた夏実が手を振ってきた。
夏実のところに行くと、冬貴が夏実の前に座ったことから、秋人は夏実の隣へと座った。
「これ、どう?」
すると、待ってました、とでも言わんばかりに夏実が両手を広げ、自身の服を見せつけてくる。
そのため、秋人は上から下まで視線を巡らせた。
上は白を基調としたフリルも付いているかわいらしい服。
フリルは襟元だけでなく、肩にも付いており、それより先は染み一つない白くて綺麗な肌が露わになっている。
下は、逆にシンプルな黒でできた、ミニスカートだった。
「随分と気合が入ってるな……。水着を買いに行くだけだろ?」
夏実の服装を見た秋人は、思わず首を傾げる。
まるでデートに行くような服装だ、と内心では思っていた。
「水着買ったらどうせ遊ぶでしょ? だから、ちゃんとおめかしはしないと!」
「ふ~ん……」
「何、その微妙そうな顔? ちょっと失礼じゃない?」
秋人の反応が芳しくないので、夏実は若干頬を膨らませてしまった。
そんな夏実に対し、秋人はソッポを向いて口を開く。
「いや、ナンパを追い払うのが大変そうだなって思っただけだよ」
「何よそれ……」
嫌そうな声を出した秋人に対し、夏実は不満そうにジッとその背中を見つめる。
折角頑張ってお洒落をしてきたのに、秋人がちゃんと見てくれないので不満を抱いていた。
しかし、そんな夏実を冬貴は物言いたげに見つめる。
「何?」
そして、冬貴の視線に気が付いた夏実が尋ねると、冬貴は窓の外へと視線を向けた。
「いや、結構お互い様だよなって思っただけだよ」
「何それ……! 二人とも、言いたいことがあるなら言いなさいよね……!」
何か含みのある言葉を言った秋人と冬貴に対して、夏実はそう怒ってしまうのだった。
その後、合流した春奈が三人の雰囲気に戸惑ったのは、言うまでもない。
◆
「それじゃ、まずは水着を買わないとね」
岡山駅周辺にある大型ショッピングモールに着くと、夏実は笑顔で中へと入っていく。
秋人たちはその後ろに続き、やがて水着を売っているお店へとたどり着いた。
「去年海に行った時のがあるから、俺はわざわざ買わなくてもいいんだよな」
「同感。夏実たちが選んでくるのを待ってるよ」
男二人は水着を新調するつもりはないらしく、夏実たちが水着を選ぶのを待つことにしたようだ。
すると、呆れたように夏実が溜息を吐く。
「こういう時もファッションに気を付けないと、女の子にモテないぞ~?」
「いや、普段の私服はちゃんとしてるからいいだろ……」
挑発する夏実に対し、秋人は嫌そうに肩を竦めた。
夏実としては秋人の水着姿を見たかったのだけど、これ以上言っても聞かないのはわかっているので、諦めて春奈へと視線を移した。
「春奈ちゃんは新しいの買うよね?」
「うん……多分、去年のは入らなくなっているから……」
「…………」
春奈は照れたようにかわいらしい笑みを浮かべ、恥ずかしそうに自身の体に視線を落とす。
すると、夏実は目からハイライトを無くしてその仕草を見つめた。
そして秋人と冬貴は気まずくなり、ソッと二人から目を背ける。
「わ、私も、去年の入らなくなってるから……! 多分……!」
春奈の仕草に思うところがあった夏実は、若干顔を赤くしながらそう訴える。
すると、春奈は再度かわいらしい笑みを浮かべた。
「そうだね、新しいの買わないと……」
「…………」
悪意一つない、無邪気な笑顔。
その笑顔と言葉に対して、秋人と冬貴はこう思った。
((天然ってこえぇ……))
――と。
「み、水着、選んでくる……!」
「あっ、夏実ちゃん待って……! 私も行く……!」
この場にいるのが恥ずかしくなった夏実が、顔を赤くしながら水着を探しに行くと、春奈は慌ててその後を追う。
そして残された秋人と冬貴は、お互いに視線を合わせ――。
「ま、まぁ、夏実もスタイルいいから、大丈夫、だよな?」
「そ、そうだな。春奈ちゃんが別格ってだけだもんな」
「「…………まぁでも、ケーキを奢っておくか」」
二人は額に汗をかきながら笑顔で頷き、そしてご機嫌取りのために夏実へとケーキを奢ることにしたのだった。
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