第11話「夏休み、それぞれの予定」

「そういえば、みんな夏休みの予定とかあるの?」


 昼休み――いつものように、春夏秋冬グループの面々は机をくっつけてお弁当を食べていると、ふと思い立ったように夏実が質問を投げてきた。


 こういう場合、まず最初に答えを求められるのは秋人で、次に冬貴。

 その次が夏実で、最後が春奈となっている。


 これは、主に秋人たちの性格と、グループ内の立ち位置によって暗黙的に決まっていた。


「俺はほとんどは母さんの手伝いかな。普段平日は夜しか手伝えないのに、結構遊ぶ時間とかもらってるから、大型休みくらい手伝わないと」


「秋人のお母さんって、喫茶店してるんだよね?」

「そうそう。だから何か予定があれば、お店の手伝いを休ませてもらう感じにすると思う」


「ふ~ん……冬貴は?」


 秋人の予定を聞いた後、夏実は冬貴へと質問を投げる。


「俺は塾かな。こういう大型休みは塾の日数や時間が一気に増えるから」

「うひゃ~、冬貴って平日も塾行ってて時々しか遊べないのに、夏休みまでするんだ……」


 信じられない。

 とでも言いたげな表情で言う夏実。

 そんな夏実を、冬貴は呆れたような表情で見つめながら口を開いた。


「むしろ、こういう休みだからこそ頑張るんだよ。受験は早くから準備しておかないと」

「勉強ができると大変だね~」


「他人事でいる夏実の将来が心配だよ。それで、夏実はどうなんだ?」

「う~ん? 私は、帰省して――」


 自分の番が回ってきた夏実は、去年と同じ夏休みの予定を口にしようとする。


 親元を離れて一人暮らしをしている夏実は、こういった大型休みは帰省することになっていた。

 そして実家で休みを満喫するのだけど、ふとここで思いとどまる。


 一つは、普段クラスの盛り上げ役である秋人と冬貴が、夏休みでも頑張ろうとしているのに、自分一人遊んで過ごすのはどうなんだ、という考え。


 もう一つは、このまま帰省してしまうと、秋人と遊ぶ機会がないまま夏休みを終えてしまう、だ。


 夏休みはイベントがたくさんあるのに、去年それで夏実は凄く悔しい思いをした。

 その時と同じ轍を踏んでもいいのか、という理性が夏実の言葉をとどまらせたのだ。


「夏実は帰省するんだろ?」


 言葉を途中でやめた夏実に対し、秋人は首を傾げた。

 すると、夏実はブンブンと一生懸命首を左右に振って、急いで口を開く。


「うぅん、今年は帰らない……!」

「えっ? 帰らなくて大丈夫なのか……?」


 ただでさえ女子高校生が一人で暮らしているということは変わってるのに、その上帰省をしないと言いだしたので、秋人は夏実のことが心配になった。


「う、うん」


 しかし、夏実は大丈夫という意味で首を縦に振った。

 その様子に若干躊躇があったことから、秋人には夏実が無理していることがわかった。


「いや、夏休みくらいはちゃんと帰ったほうがいいんじゃないか? 夏実もお母さんとかに会いたいんだろ?」

「でも……こっちに残りたい……」

「夏実……」


 夏実が残りたいと言ったので、秋人は冬貴を見る。

 そしてアイコンタクトでお互いの考えを共有し、夏実に笑顔を向けた。


「そっか、じゃあ何か困ったことがあれば遠慮なく連絡してな。夏実が困ってるなら、バイトがあっても手助けするから」

「秋人……」


「まっ、折角の休みだし、親がいない状況で羽を伸ばしたい時もあるよな。これなら、みんなで夏祭りとかもいけるから、たまにはいいんじゃないか?」

「冬貴……」


 二人が後押しするように言ったことで、夏実は嬉しそうに頬を緩める。


「う、うん。みんなで、夏休みあそぼ……!」


 そして、春奈も取り残されないように話に加わった。


「春奈ちゃん……! そうだね、いっぱいあそぼ!」


 普段遠慮しがちの春奈も誘ってくれたことで、夏実は元気よく頷いた。

 しかし――。


「あっ、でも……私も、塾がいっぱいある……」


 冬貴と同じ塾に通っている春奈は、当然塾の日程も冬貴と同じだった。


「うぅ……暇なの、秋人だけ……」

「あれ? おかしくないか? 俺、店の手伝いがあるって言ったよな?」

「でも、誘ったら都合を合わせてくれるんでしょ?」


 夏実の言葉に不満を覚えた秋人がつつくと、夏実はニコッとかわいらしい笑みを返してきた。

 その笑顔に秋人は照れ、思わず目を逸らしてしまう。


「ま、まぁ、予め連絡をくれてたらな」

「よし、毎日空けといてね!」

「手伝いの時間ねぇじゃねか!?」

「あはは」


 秋人がツッコミを入れると、夏実は楽しそうに笑った。

 夏休みぶ秋人たちと遊べることになって、凄くご機嫌そうだ。


「とりあえず、夏祭りは絶対にみんなで行きたいよね」


 本当なら、秋人と二人だけで行きたい。

 そういう思いはあるものの、現状それは難しい。

 それに、春夏秋冬グループでも夏祭りに行きたいという思いはあるので、ここはみんなで行くようにして話を進めた。


「そうだな、毎年冬貴と二人だけで行ってたから、四人で行くのは楽しそうだ」

「まるで、俺と二人きりだとつまらないという言い方だな?」

「幼い頃から一緒だから味気ない」

「同感」


 秋人と冬貴はお互い苦笑いを浮かべた。


「春奈ちゃんも大丈夫?」

「う、うん……! お祭り、楽しみ……!」


 秋人が声をかけると、春奈は頬をほんのりと赤く染めながら、はにかんだ笑顔を見せた。

 どうやら春奈も行きたいらしい。


「じゃあ、夏祭りの日程は毎年ほとんど変わらないけど、一応確認してグループのチャットに貼っとくな」

「うん、よろしく秋人」


「任せとけ。後は、みんながタイミング合う日とかで、遊園地とか遊びに行こうか」

「遊園地!? 行く!」


 秋人が遊園地を話題に出すと、夏実は目を輝かせて喰いついた。

 それにより反射的に秋人は身を引いたが、気を取り直して、笑顔で口を開く。


「そ、そうだな。行こう」

「やったぁ!」


 秋人の返事を聞き、夏実は凄く嬉しそうに喜んだ。

 その様子はまるで幼い子供のようで、秋人はかわいいと思ってしまう。

 そんな秋人の気持ちに気付かず、夏実は笑みを浮かべたままもう一つ要望を言ってきた。


「後、夏っていえばやっぱあれだよね! 海! みんなで海に行きたい!」


 夏実がそう言うと、クラス内にいる男子の視線が全部、夏実へと向くのだった。

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