第2話「告白、された……!」

「――告白、された……」

「は?」

「秋人に、告白をされた……!」


 何言ってんだ、こいつ――そんなことを思いながら、冬貴は両手で頬を押さえる夏実を見つめる。

 夏実は頬を赤くしながらクネクネと体を動かし、幸せそうに笑みを浮かべていた。

 完全に、妄想の世界に入ってしまっている。


「いや、どこに告白の要素があったんだよ……」


 冬貴は頭が痛そうに額を手で押さえながら、夏実へと問いかける。

 すると、夏実は勢いよくグイッと顔を近付けてきた。


「何言ってるの! 言ってたじゃん、幼馴染みの女の子が引っ越ししなければ、今頃彼女がいたかもしれないって!」

「だから?」


「あぁ言うってことは、秋人は幼馴染みの女の子に好意を抱いていたってことだよ! じゃないと、彼女としての相手に考えないもん!」

「…………」


「でね、冬貴は知っての通りその幼馴染みの女の子とは、この私のこと! つまり、秋人は今、私に告白をしたんだよ!」


 自身の胸に手を添え、自信ありげに胸を張りながら告白と言い切る夏実。

 しかし、冬貴は再度頭が痛くなっていた。


「話を飛躍させすぎだと思うんだが……。まぁ、そこまで言うんなら、いい加減打ち明けたらどうなんだ? 一年経っても秋人は気付かなかったんだし」

「それはだめ! 秋人に自分で思い出してもらいたいもん……!」


「いや、しかし……意地を張っていても意味がないと思うぞ? あいつが告白をしたって言い切るんだったら、ここで打ち明けて付き合うことを選んだほうがいいと思うが……」


 夏実の言ってることもわからないわけではないが、一年以上進展がなかった二人を傍で見続けてきた冬貴は、このまま夏実が幼馴染みであるのを隠し続けることは得策じゃないと思った。

 夏実が幼馴染みの女の子だったと気が付けば、秋人の夏実を見る目も変わるかもしれないのに――と。


「意地ってわけじゃないし……。それに、大切な約束だってあるから……」


 大切な約束――それを、冬貴は教えてもらっていない。

 どうやら幼い頃に秋人と夏実の間で交わされた約束のようだけど、夏実はそのことを教えてくれなかった。

 二人だけの大切な約束だから、とのことらしい。


「でも、このまま秋人に告白をするつもりもないんだろ?」

「そ、それは……! だって、望み薄だし……」


「急に縮こまるなよ……。だったら、またこのまま待ち続けるのか?」

「うぅん、さすがに私も、このままではだめだってことはわかってるから……」


 夏実は冬貴の言葉に対して首を左右に振る。

 一年間、夏実も黙って秋人の傍にいたわけではない。

 それでも状況が変わらなかった今、新たな挑戦をする必要があると考えた。


「だから、もう予防策はやめる。秋人が少なくとも昔の私には好意を寄せているってことがわかったんだから、今まで冗談ふうにアタックしていたのを、ガチのアタックに切り替える。もう、逃げない……!」


 秋人の気持ちを知ったことで、夏実は覚悟を決めた。

 胸の前でグッと力強く拳を握り、瞳には同じく強い意志を秘めている。


「そっか、少し安心したよ」


 冬貴から見ると、夏実の見た目は女子の中でもかなりレベルが高い。


 クリッとした大きな瞳に、筋が通った高い鼻。

 何より、人懐っこい笑顔は男女問わず大人気だ。


 髪型は茶髪の耳掛けボブヘアーで、幼い頃と変わっていない。

 だから、夏実が本気でアタックするのであれば、秋人を落とせるのではないかと思った。


「冬貴も手伝ってよね? 私だって、冬貴が春奈ちゃんと付き合えるように手伝うんだから」

「ばっ――! お前、誰かに聞かれたらどうするんだよ……!」


 急に春奈の名前を出された冬貴は、慌てて周りを見る。

 幸い誰も近くで話しておらず、ホッと安堵の息を吐いて夏実を睨んだ。


 すると、夏実は呆れたように息を吐いた。


「私だって誰にも聞かれたくない話をしてたんだから、周りに人がいるわけないでしょ。てか、自分のことになると必死になりすぎ」

「う、うるさいな……。他の人に聞かれたらまずいんだよ……」


「まぁ、春奈ちゃん大人気だしね」


 春菜の見た目は、簡潔に言うと黒髪ロングの童顔美少女。

 更に、胸はグラビアアイドルほどに大きく、優しい性格をしていることから男子から大人気だった。


 しかし――。


「いや、そういうことが理由じゃないけど……」

「えっ、じゃあ何?」


 他の人に知られたくない理由が他にあると言った冬貴に対し、夏実はグイッと顔を近付けて尋ねる。

 冬貴は気まずそうに一歩引きながら、首を左右に振った。


「別に、そこまで言わなくてもいいだろ……」

「なんでよ!? 協力関係にあるんだから、教えなさいよ……!」


「夏実だって大切な約束ってやつを隠してるんだから、おあいこだろ……!」

「うっ、それを言われると確かに……」


 夏実のほうが既に隠しごとをしている以上、それを持ち出されてしまえばもう何も言えない。

 気になりはするけれど、大切な約束を聞き出そうとされるのは困るので、夏実はおとなしく諦めた。


「それよりも、秋人に本気でアタックするんだろ? そのことを考えなくていいのか?」


 これ以上話題を続けたくなかった冬貴は、元の話へと軌道修正をした。

 すると、夏実は自信ありげな表情でまた胸を張って口を開く。


「ふっふ~ん、まぁ見てなさいって。絶対、秋人に意識させてやるんだから」


(あっ、めっちゃ失敗しそうだ)


 夏実の自信ありげな態度を見た瞬間、冬貴は凄く嫌な予感がした。

 だから止めようかという考えが頭を過るものの、折角覚悟を決めた夏実の意志を曲げるようなことはしたくない、という思いも頭を過ってしまった。


 それに秋人の鈍感ぶりを考えると、やりすぎくらいがちょうどいいのかもしれない。

 そう思った冬貴は、一旦静観することにした。


「まぁ、頑張って。手伝えることは手伝うから」

「うん、ありがと! じゃあ、早速行くよ……!」


 冬貴の協力も得た夏実は嬉しそうに笑みを浮かべた後、意気揚々と教室に戻っていくのだった。

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