【完結】「幼馴染みがほしい」と呟いたらよく一緒に遊ぶ女友達の様子が変になったんだが 【2巻発売決定!!】

ネコクロ【書籍7シリーズ発売中!!】

第1話「幼馴染みがいない――いや、過去にいたあの女の子が、転校しなければ……」

「――幼馴染みほしいなぁ……」


 お昼休み――仲良し四人組でお弁当を食べている中、昨日見たアニメのことを思い出した紅葉もみじ秋人あきとは、なにげなしにそう呟いた。

 すると、他の三人がピタッと箸を止め、硬直したようにジッと秋人の顔を見つめてくる。


「あれ、どうしたんだ?」


 三人がなんともいえない表情で自分を見つめていることに気が付いた秋人は、不思議そうに首を傾げて三人を見返した。


 しかし、思い当たることが頭を過り、ポンッと手を叩いて口を開く。


「あぁ、確かに冬貴がいるから幼馴染みはいるんだけど、俺が言いたいのは異性の幼馴染みがほしかったってことなんだよ」


 現在秋人の隣の席で食べている吹雪ふぶき冬貴ふゆきは、秋人の幼馴染みにあたる。

 だから三人に注目されている理由が、既に幼馴染みがいるのにいないと呟いたからだ、と解釈した秋人は笑顔でそれを否定した。


 しかし、そんな的外れな秋人の言葉を受けた冬貴は、気まずそうに秋人の前に座る女の子を見る。


 その女の子――新海しんかい夏実なつみは、自身の髪を指で弄りながらニコッと笑みを浮かべた。

 すると、冬貴はその笑顔に寒気を感じながら秋人に視線を戻す。


 だが、秋人は冬貴の視線に気付かず、言葉を続けた。


「いや、というか……女の子の幼馴染みはいたんだよ。でもその子、凄く仲が良かったのに、小学校に上がる前に引っ越したんだよな……。あ~、あの子が引っ越さなければ、俺今頃彼女がいたかもしれないのに……」


 秋人は幼馴染みのことに思いを馳せ、額に手を当てて悔しがり始める。

 その様子を見た夏実は、ガタッと勢いよく席を立った。


「ん? どうしたんだ、夏実?」


 急に立ち上がった夏実に対し、秋人は不思議そうに首を傾げる。

 しかし、夏実は既に秋人に背を向けており、首を左右に振って口を開いた。


「別に、話しておかないといけないことがあるのを思い出しただけ。冬貴、ちょっと来てよ」

「えっ、俺?」

「何、嫌なの?」


 冬貴が嫌そうに聞き返すと、夏実はニコッと笑って冬貴を見つめた。

 その笑顔が怖いと思ったのか、冬貴は黙って席を立つ。

 それを見届けた夏実は、後を付いてこい、とでもいうかのように教室を出て行った。


「あいつらってちょいちょいあんなふうに二人で話すよな」


 嫌そうにトボトボと歩く冬貴の背中を見つめながら、秋人は斜め前に座ってお弁当を食べる、若草わかくさ春奈はるなへと声をかけた。


「あっ……そうだね」


 春奈はソワソワと居心地が悪そうにしながらも、コクリと頷く。

 頬はほんのりと赤く染まっており、若干汗をかいているようにも見える。

 秋人と二人きりになると春奈はいつもこうなので、実は怖がられているんじゃないかと秋人は気にしていた。


「夏実って冬貴のことが好きなのかな?」

「えっ、どうして……?」


「だって、よく二人きりになるから、そうなのかなって」


「それは……ない、と思うけど……」

「そうのかな……?」


 秋人の印象では、一年生の時から夏実と冬貴はやけに仲がいい、という感じだった。

 現在男女四人で食べているのも、夏実と冬貴が一緒に食べようと言い出したのがきっかけだ。

 そして夏実はやけに冬貴と二人きりになりたがるので、冬貴のことが好きなんじゃないかと疑問を抱いていた。


(そういえば、夏実って幼馴染みの女の子によく似てるんだよな……。もし、夏実があの子・・・だったら冬貴と仲がいい理由もわかるけど……名前が、違うんだよな。あの子の名前は確か、『あおば』ちゃんだ。苗字ならともかく、名前が途中で変わることなんてほとんどないから、やっぱり別人なんだよな……)


 となると、夏実は一年生の時に冬貴に一目惚れしていたんじゃないか、と秋人は結論づけた。


「もし……夏実ちゃんが冬貴君のことを好きだったら……秋人君は、どうするの……?」

「えっ?」


 夏実たちのことを考えていると、春奈から思いも寄らぬ質問が来たので、思わず秋人は春奈のことを見つめてしまう。

 すると、春奈は慌てたように目を逸らしてしまった。


 その頬は、やっぱり少し赤い。


「どうするって………………わからない、かな……」

「わからないんだ……?」


 答えを迷った秋人に対し、春奈は困ったような笑みを浮かべた。

 そんな春奈の笑顔を見た秋人はバツが悪くなってしまう。


 どうして答えを出せなかったのか――それは、単純な話だった。

 秋人は、冬貴と付き合う夏実を想像してなんとなく嫌だと思ってしまったのだ。


 しかし――。


「でも、やっぱり応援するんじゃないかな」


 もし、本当に夏実が冬貴のことを好きなのなら、応援をするべきだ。

 秋人はそう結論付けた。


「応援、するんだ……」

「友達だからね、やっぱり応援しないといけないと思うんだ。……変かな?」

「う、うぅん、変じゃないよ……!」


 秋人が困ったように笑って首を傾げながら尋ねると、春奈はブンブンと一生懸命首を左右に振った。

 その際に女性らしいある一部分が大きく揺れるのだけど、秋人は視線が釣られそうになるのをグッと我慢して春奈の顔を見つめる。


「まぁ俺としては、この春夏秋冬グループのみんなが幸せになってくれたらそれでいいかな。だから、夏実と冬貴がくっつくならそれでいいんだ。もちろん、春奈ちゃんにも幸せになってほしいと思ってるよ?」


 春夏秋冬グループとは、秋人たち四人の名前に季節が入っていたことからそう名づけられた。


 それぞれ付き合いの長さは違い、春夏秋冬グループ自体もこの学校に入ってからできたものだ。

 しかし、それでも秋人はこのグループのことをとても大切に思っている。


 だから、みんなが幸せになってくれるのが一番だといつも考えていた。


「そ、そっか、ありがと……」


 秋人が笑顔で言うと、春奈は恥ずかしそうに頬を赤く染めて俯いてしまった。

 そんな春奈の顔を見た秋人は無性に恥ずかしくなり、冬貴たちが消えたドアのほうへと視線を逃がしてしまう。


「ほんと、なんの話をしているんだか……」


 秋人は答えが返ってこないとわかりつつも、そう呟いてしまうのだった。

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