第50話~旺太side~

優志を呼ぶ事のできなかった俺は、どうすることもできないまま朋樹の顔を思い浮かべていた。



そしてたどり着いた先は、見た事もない公園だった。



ランニングコースがあるような大きな公園で、広場では少し早い花火をしている若者たちがいた。



俺はその様子を横目で見ながら、池の方へと進んで行く。



直感的に、朋樹がここにいることがわかっていた。



大きな池の前で立ち止まると、数人の酔っ払いが立ち小便をしているのが見えた。



酒臭い息を吐き出し、大きな声で笑いながら歩いて行く。



その背中を見送った時池の付近に大きな看板が出ている事に気が付いた。



それは暗くても見えるように、上からライトで照らされている。



その看板に目を見張った。



《行方不明者を探しています!



高橋朋樹さん16歳。



身長180センチ。体重80キロ。



3月5日頃公園で目撃されたのを最後に行方がわからなくなっています》



そんな文章の下には、近くの警察署の電話番号が書かれているのだ。



「嘘だろ……」



俺は呟き、その看板に近づく。



看板には大きく朋樹の顔写真が張り出されている。



間違いなく、俺の知っている朋樹だ。



この看板があるから俺はここへ着いたのか?



そう思った次の瞬間、俺は電車内で見た光景を思い出していた。



あれは前の車両に移動した時、朋樹は顔を真っ赤にして苦しんでいた。



それはまるで呼吸を止められたような苦しみ方で……。



俺はそっと池の方へと視線を移した。



まさか……。



まさか、まさか!!



ダッとかけだし、池の中を覗き込む。



しかし池の水は濁っていて中まではほとんど見えない状態だ。



俺は躊躇することなくその池へと飛び込んでいた。



水音は立たず、スッと水をすり抜けるようにして足が池の底に付いた。



池の底の方は更に見通しが悪く、大きな石がゴロゴロと転がって歩きにくい。



朋樹がこのどこかにいるはずだ!



そう思い、見えない視界の中手探りで歩いて行く。



大きな池だが流れはない。



この池の中に沈んでいるのだとしたら、その場からほとんど動いていないだろう。



そしてこの池にはボートは置かれていない。



それから推測して考えると、朋樹の体は池の端を歩いて行けばみつかるはずだった。



俺はジッと前を見据え、朋樹の体を探し始めたのだった。


☆☆☆


真っ暗な池の中では時間の経過も感じられず、俺は時々時計を確認した。



あれから30分経過している。



普通に歩く速度で30分経過しているから、池は一週しているはずだった。



けれど、どこにも朋樹の体は見つからない。



もしかして、朋樹はここにはいないのか?



焦りに似た気持ちが歩調を早めた、その時だった。



俺の足に何かが触れてこけそうになった。



立ち止まり足元に目をやる。



しかし、視界が悪く見えなくて俺はその場でしゃがみ込んだ。



その瞬間……目が、合った。



大きく見開かれた目から眼球が転げ落ちそうだ。



ブヨブヨに膨れ上がった顔と体。



魚につつかれところどころ皮膚がえぐれている……そんな、朋樹がいた。



「う……っ」



俺は思わず口を手でふさいだ。



朋樹の体は服が石に引っ掛かり、浮上できないままでいたのだ。


「朋樹……」



俺は名前を呼ぶ。



乱暴な性格で愛奈と喧嘩ばかりしていた口の悪い奴が、まさかこんなことになっているなんて……。



俺は石にひっかかっている朋樹の服に手を触れた。



ここから連れ出してやりたいが、俺の手はやはり朋樹の服をすり抜けてしまった。



それでも懸命に朋樹へと手を伸ばす。



両手で朋樹の体を抱きしめるようにして引っ張る。



俺の手は朋樹の体をすり抜ける。



また手を伸ばし、またすり抜ける。



何度も何度も繰り返しているうちに、いつの間にか俺は泣いていた。



歯を食いしばり、触れることのできない朋樹の体に手を伸ばす。



「朋樹!」



どれだけ強く願っても、俺が朋樹に触れることはなかったのだった。


☆☆☆


池から上がってきた俺はその場に立ちつくし、看板になっている朋樹の写真を見つめていた。



朋樹はここにいる。



誰か、早く見つけてやってくれ。



水中で膨れ上がり、見る影もなくなってしまった朋樹。



俺は頭をふってその顔をかき消した。



次は愛奈だ。



そう思い、目を閉じたのだった。

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