第43話~旺太side~
校門から教室までは一瞬にして到着していた。
距離が短いと、その分早く付く事ができるみたいだ。
生きていた頃にもそんな能力があれば遅刻なんてしなかったのにな。
そんな事を思いながら、自分のクラスだったA組へと足を踏み入れた。
前のドアから入ってすぐの場所に日めくりカレンダーがあり、俺はそれに視線をやった。
3月24日。
「今日は3月24日なのか……」
そう呟き、自分が死んだ日から19日が経過していることを知る。
49日のうち、19日が終わり、残り30日。
そういう計算になっていたわけだ。
俺は卒業式も終業式きも終わり、休みに入っている教室の中をゆっくりと歩く。
そして、自分が使っていた窓際の一番後ろの席に立った。
ここは俺の特等席で、お腹がいっぱいになった午後は教科書を立てて先生にバレないように昼寝をしていた。
隣の席だった野球部の安田とは特別仲が良くて、いつもバカをやっては怒られていたっけ。
思い出し、自然と頬が緩んだ。
俺の机にはもう花もなくなっていて、次の2年生を受け入れる準備ができている。
それが、少しだけ寂しかった。
時間の流れには逆らう事はできないんだ。
俺は時計を確認した。
まだ5分も経っていないけれど、何も得られない場所で時間を消費するのはもったいない。
少し名残惜しいけれど、次は職員室へ向かうことにした。
俺は教室を出て廊下を歩いて行く。
さっきみたいな瞬間移動を使ってもいいけれど、移動している最中に知り合いや担任だった先生とすれ違う事があるかもしれないと思い、歩いて行く。
一応重力を感じているから立ったり歩いたりできているんだと思うけれど、まるで体重がないように体が軽く、弾むように歩く事が出来る。
まるでアポロの月面着陸だ。
そんな事を思って階段を下りると、目の前が職員室。
変わらない場所にあるその部屋にホッと胸をなで下ろした。
職員室の前で立ち止まり、一瞬考える。
ここはノックが必要なんだろうかと。
でも俺は死んでいるし、死んだ人間がノックをして職員室に入るなんて、先生たちは驚きで気絶してしまうかもしれない。
そもそも、俺の事は見えないかもしれないし。
そう考え、俺はノックをせずにドアに手を伸ばした。
すると、その手はスッとドアをすり抜けていってしまった。
「ドアを開ける必要もないのか」
俺は呟き、ドアをすり抜けて中へと入った。
職員室には数人の先生がいるだけで、静かなものだった。
その中に俺の担任だった先生の姿はない。
さすがに休み中だと出勤してくる先生も少ないようだ。
それに俺が入ってきても誰もこちらを見てこない。
やっぱり、俺の姿は見えないと言う事か。
俺はまっすぐに担任だった先生の机に向かった。
女の先生で若くて綺麗だったため男子生徒からはものすごい人気が高かった。
ただ、その分ナメられることも多かったらしく、俺は先生が影で泣いている所を目撃したこともあった。
教室では懸命に我慢していた涙が、ワッと溢れてしまったのだろう。
その姿を見た俺は先生になんと声をかけていいかもわからず、黙ってみなかった事にしてしまった。
どうせ死んでしまうなら、あの時声をかけておけばよかった。
そう思い、先生の机を見た。
先生の机にはクラス写真が飾られていて、その中の俺は安田を一緒ふざけたポーズをとっている。
それを見て思わず噴き出す俺。
そういえばこの時俺のピースした指が安田の鼻に入って、あいつ鼻血出したんだっけ。
懐かしさに目を細める。
安田に会いたいな……。
そう思い、俺は目をとじて安田の顔を思い浮かべたのだった。
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