第41話~旺太side~
すべてを思いだして俺は呼吸困難に陥ったように、荒い呼吸を繰り返していた。
額にはジワリと汗が浮かび、轢かれた時の衝撃を思いだす。
「お前は苦しまなくていい」
車掌がそう言い、俺の頭に触れた。
その瞬間呼吸は整い、汗がスッと引いて行くのがわかった。
「俺は……もう死んでいるのか……?」
まだ信じられなくて、俺はそう聞く。
車掌は「そうだ」と、頷いた。
「みんなも……ここに来る前に死んでいたのか?」
「そうだ」
俺は唇をかみしめた。
涙があふれ出そうになる。
俺たちは全員死んでいた。
ここは死んだ者たちが集められる場所だったのか……。
実験でも、ゲームでもない。
ここは現実世界でさえなかったんだ。
「この場所のことはなんとなくわかった。死んだ人間が償う場所。だから、みんなここで苦しんで死んで行ったんだ。でも、わからないことはまだある」
みんな、本当に償う必要があるのか?
どうしてそれを繰り返す?
記憶を消してまで、何度も何度も同じ苦しみを味あわせる理由は?
その疑問をくみ取ったように、車掌が歩き出した。
途中で振り向き、「付いて来い」と言う。
俺はヨロヨロと歩き出した。
呼吸は正常だ。
痛みも苦しみもない。
心の痛みだって、車掌に手をかざされた事で消えていった。
俺は人助けをして死んだから、こういう痛みを免除してくれているのだろう。
車掌に付いて行くと、次のドアがあった。
「この電車2両じゃなかったのか?」
そう聞くと、「録画されている数だけある」と、答えられた。
「それってどういう……」
言いかけた言葉を俺は飲みこんだ。
開かれたドアに、俺たちがいた。
電光掲示板の文字は《残り32》
そしてその奥にあるドアも、開いていた。
ドアの向こうにも、俺たちが見える。
電光掲示板の文字は《残り33》
そして、更にその奥も……。
「嘘……だろ……」
唖然としながら前へ前へと進んで行く俺。
何両も何両も先に進んでも、俺たちがいる。
さっきまでの自分たちと同じように混乱し、泣き叫び、血にまみれた状態で苦しんでいる。
「嘘だろ!! なぁ!? これ、なんかの冗談だよな!?」
俺は叫び声を上げ、車掌にすがりつく。
「この償いは49日間続く」
「49日間……?」
「ここは生と死の間の空間。あの世へ行く49日間の旅の中で繰り返し償いをしてもらう」
「な……んで……。償いってなんだよ! 俺たちが何をしたって言うんだよ!!」
「それは、見る方が早い」
そう言うと、車掌は俺を見下ろしたのだった。
償いの意味を探して~旺太side~
俺を見下ろした車掌はこう言った。
「現実の世界を見てみるか?」
その問いかけに、俺は言葉を失う。
現実の世界……。
それは俺がいなくなた世界の事を言っているのだろう。
それを見れば償う理由がわかる。
でも、こういう聞き方をするということは、またひどい思いをさせられるのかもしれない。
心が張裂け、何度も死んだような思いをするのかもしれない。
「俺は……」
ゴクリと唾を飲み込む。
ここですべてを見ても、明日にはきっと忘れているのだろう。
記憶は消されまた自分からこの電車に乗り込んでしまうんだろう。
それでも……。
「俺は見てみたい」
そう答えたのだった。
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