第38話

俺についてこいと言った車掌は、体の向きを変えるとスーッと滑るように歩き出した。



こいつ、本当に人間なのか?



それさえ疑わしく感じられる。



目は真っ白で見えていないようなのに、何の迷いもなく車内を進んでいく。



そして、車両の継ぎ目までやって来た。



「先に行け」



そう言われ、俺は立ち止まった。



前の車両は真っ暗な闇に包まれていて何も見えない。



闇の中に入って行き、そして死んだ面々を思い出すと恐怖で足がすくんだ。



「この先に行けば何かがわかるんだろ?」



そう聞くと、車掌は頷く。



それなら、覚悟を決めていくしかない。



俺は深呼吸を1つして、闇の中へと足を踏み入れたのだった。



闇の中に足を踏み入れた。



その瞬間、周囲は明るく照らされていた。



俺は車両を移った瞬間自分の目を疑った。



目の前に穂香がいる。



穂香だけじゃない。



一番最初に死んでしまった澪も、優志も朋樹も愛奈もいる。



そして、俺も姿もあった。



俺たちはバラバラの椅子に座り、窓の外の景色を見ている。



窓の外は暗闇ではなく、田舎風景が続いている。



この電車に乗り込んできた時と変わらぬ光景があったのだ。



「なんだよこれ……」



思わずつぶやく。



そしてまるで引き寄せられるように穂香の方へと歩いていた。



穂香はチョコンと椅子に座り、窓の景色を見ている。



「おい、穂香!」



近くまで来て声をかける。



しかし、穂香は俺の声に気づかない。



聞こえなかったのか?



そう思い、穂香の肩に手を伸ばす。



その瞬間。



俺の手は穂香の肩をすり抜けてしまったのだ。



「触れることも会話をすることもできない」



そう言われハッと振り向くと、いつの間にか車掌が俺の隣に立っていた。



「どういうことだよ、それ」



「ここは過去の電車内だ」



そう言い、車掌は電車の上の方を指さした。



そちらへ視線を向けると、電光掲示板があった。



そしてそこ流れていた文字は……《残り31》の、文字……。



俺たちが電車に乗った時は《残り30》と書かれていたはずだ。



「この数字は一体どういう意味なんだ?」



そう聞いた時、電車内にドンッ! という激しい衝撃が走り、俺はバランスを崩してその場に尻餅をついてしまった。



「いってぇ……」



痛みに顔をゆがめながら、立ち上がる。



すると、窓の外は暗闇に包まれていたのだ。



ゾクッと一瞬にして背筋が寒くなるのを感じる。



電車内にいた俺たちが何事かと外を見ている。



「これって……同じ……?」



「そうだ。この電車は繰り返されている」



車掌が言う。



繰り返されている……?



「でも、俺はこんな経験をした記憶はない!!」



そう叫んだ瞬間、気が付いてしまった。



何か大事な事を忘れている。



記憶の違和感。



それはみんなが感じていると言った。



「まさか……」



ドクドクと心臓が高鳴り、嫌な汗が噴き出して来る。



「一度償いを終えると、その記憶は消される。そしてまた繰り返される」



抑揚のない車掌の声が脳内に響き渡る。



記憶は消される。



そしてまた繰り返される。



俺は……俺たちは、一体何度これを経験してきた?



グルグルと世界が回っているような感覚に襲われ、俺はその場に膝をついた。



ひどく混乱していて、これは夢なんじゃないかと思い始める。



でも……。



「窓は開くんだね」



その声に顔を上げた。

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