第36話
でも、あたしは先輩の事は好きじゃないし、会話だってしたことがない。
「どうせデマだろ。それか、こいつが自分で書き込んだんだろ」
彼女はそう言い、あたしの頬をナイフで叩いた。
「そ、そんな事してない!!」
必死に誤解を解こうとする。
その書き込みだってどうせ嘘だ。
書き込みが原因でこんな事をするなら、今すぐにやめてほしい。
でも……。
「デマでも関係ない。今はお前が憎くて仕方がないんだよ!」
彼女はそう言ったのだ。
「でもあたしは本当になにも知らな……!」
左の頬を切り裂かれ、あたしは言葉を失った。
あたしにここから逃げる権利なんてない。
そう言われた気がした。
あたしはただの八つ当たりの的なんだ。
腹が立つ事があったから、いじめる。
あたしはその攻撃を受けても、ひたすら耐えるだけ。
反論することも、抵抗することも許されない。
1人があたしを後ろから羽交い絞めにし、彼女があたしの体を切りつける。
残りの2人はその様子を写真におさめ、ゲラゲラと大声で笑うだけ。
ここにはあたしを助けてくれる人は、誰もいない……。
日が傾き、体中に切り傷ができたときあたしはようやく解放された。
羽交い絞めにされていた腕が解けると、力なくその場に倒れ込んだ。
「じゃぁ、また明日ここでね」
彼女はそう言い、仲間たちと一緒に屋上から姿を消した。
ドアの鍵が閉められる音が聞こえてきて、あたしはグッと唇をかみしめた。
ここまでしておいて殺さないなんて、卑怯だ。
ここまで血を流させておいて、殺人犯にならないなんて、おかしい!!
溢れ出す涙をこらえながら、あたしはヨロヨロと立ち上がりドアノブに手をかけた。
案の定、ドアは閉められている。
『また明日ここでね』
彼女はそう言った。
明日になればまた同じようにいたぶられるという意味だろう。
あたしは屋上のフェンスに手をかけた。
下を見下ろせば、さっきまであたしをイジメていた4人が並んで帰って行く様子が見えた。
人殺し……。
お前たちは全員人殺しだ!!
胸の奥で燃えるような怒りが湧いてくる。
肩で大きく呼吸を繰り返し、4人を睨み付ける。
そして、勢いよくフェンスをよじ登り始めた。
ガシャガシャと音を立てながら乱暴に上って行く。
「人殺し!!!!」
あたしは周囲に響き渡る声でそう怒鳴っていた。
4人が驚いてこちらを見る。
「お前ら全員人殺しだ!!!!!」
叫びながら涙が出て来た。
この中で一番愚かなのはあたしかもしれない。
でも、それでもいい。
今まで我慢してきた怒りがすべてぶちまけられている。
あたしはフェンスをよじ登ると、躊躇することなく屋上から飛び降りたんだ。
あたしが死んだら、全員呪い殺してやる。
そう、心に誓って……。
ふと気が付くと、目の前に電車の窓が見えた。
先に死んで行った澪、優志、朋樹の体がその窓にへばりついている。
あたしは体の力をフッと抜いた。
やっと思い出せたよ。
みんな。
そして次の瞬間、あたしの思考回路は消えた。
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