第35話
今までだって、こかされたり叩かれたりすることはあった。
でも、道具を使ってあたしをいたぶるような事は、一度もなかった。
「可愛くしてあげるよ」
リーダー格の子が、カッターナイフを受け取ってあたしの目の前にかざす。
「やっ……!」
突き付けられた切っ先から逃げるように顔をそむけたその瞬間、あたしの右腕をナイフが切り裂いた。
分厚い冬服を簡単に貫通し、腕に痛みが走る。
「あーあ。動くから変な場所が切れちゃったじゃない」
彼女はそう言い、笑った。
あたしは唖然として彼女を見つめた。
人を切りつけておいて何も思わないのだろうか。
4人はただクスクスと笑い声を上げているだけで、誰1人としてこんなバカなことやめよう。
と、言う人はいなかった。
このままでは殺される。
本能的にそう感じていた。
「やめて……」
か細い声で言うと、彼女は「なぁに? 聞こえないよ?」と、楽しそうに言った。
そして、またナイフを振り上げたのだ。
あたしは目を見開きその場から動けずにいた。
そして次の瞬間、ナイフはあたしの右頬を切り裂いていた。
同時に前髪も切れ、バッサリと黒髪が地面に落ちた。
「あはは! ほら、スッキリした!」
頬の肉が削げて、それが前髪と一緒になって落ちているのが見えた。
恐怖と不安と痛みが同時にあたしに襲い掛かり、声にならない悲鳴を上げた。
殺される!
本当に殺されてしまう!!
ジタバタともがくように出口へ向かって進むあたしの前に、彼女が立ちふさがった。
「ねぇ、テスト期間は終わって明日からしばらくは自由登校だよ。誰も、あんたが学校に来なくても不思議がらないよね」
その言葉が不気味に脳裏に響く。
「むしろ、今まで普通に登校して来てたのが不思議なくらいなんだからさぁ……あんた、もう学校に来なくていいんじゃない?」
そう言う彼女の目にはあたしに対する憎しみがこもっていた。
どうして?
いつ、どこであたしは彼女に恨まれるような事をしたんだろう?
記憶をたどってみても、思い当たる事なんてなにもない。
目立つ行動はしていないし、彼女たちのグループには自分からは関わらないようにしてきた。
それなのに、なんで……?
涙で視界は揺れてナイフの動きに気が付かなかった。
彼女が振り回したナイフはあたしの髪を切り、そして肩を裂いた。
思いっきり力を込めて振り回されているため、その傷はザックリと深い。
血はあっという間に制服を染めていく。
「先輩はこんな女の何がよかったんだろうね」
彼女の言葉にあたしは顔を上げた。
先輩って、一体誰の事だろう?
そう思っていると、1人がスマホを開いて画面を確認し始めた。
「○○先輩は永井穂香の事が好き。この書き込み、本当なのかな?」
あたしは大きく目を見開いた。
○○先輩というのは学校内でも有名なイケメンで、狙っている女子生徒は多い。
そして彼女もまた先輩の大ファンだった。
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