第34話

暗闇の中、あたしの心は温かかった。



また旺太と出会えて、旺太にときめくことができた。



それが嬉しかったんだ。



旺太はまだ思い出せていないみたいだけれど、あたしたちは……あたしたち6人は、もうここで何度も繰り返しあっているのだ。



その度に、あたしは旺太に惹かれている。



この気持ちがすべて消えてしまうのは悲しいけれど、きっと次出会ってもあたしは旺太に恋をするだろう。



落ちていく感覚を感じながら、あたしは自分の右腕にナイフで切られたような傷がつくのを見た。



その痛みは全身に駆け巡り、顔をしかめる。



なんとか旺太を思い出し、思考回路が持って行かれないようにするけれど、それもうまくはいかないみたいだ。



どうあがいても、この中で過去の苦痛から逃れる事はできないようだ。



切られた腕からは血がにじみ出て、流れていく。



イジメが始まったのはネット上だった。



しかし、あたしがスマホを持ち始めてからそれは急速に形を変えていった。



あたしが自分の悪口に気が付いてしまったことで、周囲からの遠慮がなくなったのだ。



間接的だったイジメは直接的なものへと変わり、足をひっかけてこかされる程度のものがあっという間にエスカレートしていった。



それを見ていた友人たちは、自分に飛び火することを恐れてあたしから逃げていく。



家にいても、そいつらはいつもあたしを狙っていた。



《家にいるんだろ? 出てこいよ》



《逃げられると思うなよ》



休日でもそんな威圧的なメッセージが、次々と送られてきた。



時には見ず知らずの他校の生徒に指をさされて笑われたりもする。



イジメている生徒の友人関係だ。



どこにいても、あたしは常に怯えていなければいけない状況になっていた。



いつどこで、どんな人が自分を傷つけてくるかわからない。



その結果、顔を見られないようにうつむいて歩くようになっていた。



背中をまるめ、前髪を伸ばし、なるべく人と目を合わせないようにする。



いつの間にか笑顔は消えていて、好きだった音楽を聴いても心は動かなくなっていた。



スマホを開くこともほとんどなく、着信の度にビクビクするのが嫌で電源を落としっぱなしにしていた。



そんな時だった。



3月5日。



あたしはその日、クラスメイト4人の女子たちに呼び出されたんだ。



それは嫌な予感しかしない呼び出しだった。



4人のメンバーはネット上で一番多くあたしの悪口を書いていて、信用できる人間ではなかった。



だけど、ここで呼び出された場所にいかなければ何をされるかわからない。



放課後になり、あたしは渋々言われた通り屋上へと向かったのだ。



外の風はまだ少し冷たくて、あたしは身を縮めた。



テスト期間中は部活も休みになるので、放課後の学校はすごく寂しい。



そんな中、4人はあたしを待っていた。



「なに?」



小さな声で恐る恐るそう聞く。



前髪の隙間から、彼女たちの顔を見た。



彼女たちはニヤニヤといらやしい笑顔を浮かべていて、あたしは吐き気を感じた。



今からあたしをどういたぶってやろうか。



そう考えているのが目に見えてわかる。



「その前髪、ウザイね」



リーダー格の子が一歩前へ出てそう言った。



あたしはそれと同時に後ずさる。



屋上の出入り口はあたしの後方にある。



いざとなれば逃げられる場所まで後退しようと思った。



しかし……仲間の1人があたしの後ろの回り込んだのだ。



ハッとして振り向くと、その手にはカッターナイフが握られているのが見えた。



その刃が太陽に照らされてキラリと光り、あたしは青ざめる。



まさか、そんなものを持っているなんて思いもしなかった。



カッターナイフを持ったこがニヤリと笑う。



「ねぇ、バッサリ切ってあげようか?」



そう言い、刃を伸ばす。



怯えたあたしはその場に尻餅をついてしまった。



それを見て笑い始める4人。



まさか、本気でそんな事したりしないよね?

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