第32話
そしてある時は、あたしに着飾るように命じて来た。
女は綺麗でなきゃいけない。
綺麗でなきゃ男は離れていってしまうから。
小さな部屋のドアが開き、光がさしこんだ。
あたしは顔をあげドアを見る。
そこには仁王立ちをして、アイスピックを持っている母親の姿があった。
光がさしこんだ事で膨らんでいた期待は、一瞬にして恐怖へと変わっていく。
母親が部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、あたしはビクンッと身を震わせた。
無意識の内に、ピアスの穴に触れていた。
このピアスの穴は母親に無理やりあけられたものだった。
消毒もせず、ピンセットをねじ込まれたため何日も熱を持ち、膿がでてきたのだ。
痛みと、耳が落ちてしまうんじゃないかと言う恐怖を一瞬にして思い出していた。
「お母さんやめて! ピアスの穴なんていらない! あたしの体に穴をあけるのはもうやめて!!」
母親の持っているアイスピックがギラリと光る。
あんなもので穴を開けられるなんて、耐えられない……!
部屋の奥へと逃げるが、すぐに距離を縮められてしまう。
この部屋の出入り口は、母親が入ってきたドア1つだけ。
窓は狭すぎて逃げ道にはならない。
恐怖で喉が張り付き、悲鳴を上げることもできなかった。
そして……目の前に母親がいた。
母親はお酒くらい息をあたしに吐き掛け、そして言った。
「口を開けろ」
それが何を意味しているのかをすぐに理解したあたしは、懸命に首を振った。
嫌だ。
それだけは、絶対に嫌だ。
ブンブンと首をふるあたしを、母親が殴りつけた。
「口を開けろ!!」
血走った目があたしを睨む。
それでもあたしはいう事をきかなかった。
すると次の瞬間、母親はあたしの口を片手で掴み、無理やりこじあけたのだ。
「あがっ……」
食事もロクにしていないあたしは、力では抗う事ができない。
無理矢理舌を引き出され、嗚咽する。
唾液顎を伝って落ちていく。
ギラリと光るアイスピックの先端が目の前に掲げられた。
その、瞬間。
ザクッ!!
と身を切る音がして、アイスピックがあたしの舌を貫通したのだ。
「あ……あ……」
銀色のアイスピックを伝い、真っ赤な血が流れおちていく。
あたしは小刻みに痙攣を起こしながら、舌に走る痛みに涙が滲んだ。
「可愛くなりましょうねぇ」
母親は鼻歌を歌い始める。
あたしがいう事を聞いていい子にしている時、まるで子守唄のような歌声で歌を歌うのだ。
舌に貫通したままのアイスピックをグリグリと回転させ、その穴を広げていく母親。
口の中には血の味が広がり、全身に痛みが駆け巡る。
見開いた目を閉じる事さえできず、あたしは上機嫌にほほ笑む母親の顔を見ていた。
アイスピックを回転させるだけではこれ以上穴が広がらないと感じた母親は、一度あたしの舌からアイスピックを引き抜いた。
その瞬間、痛みでビクンッと体を跳ねさせる。
そしてまた、アイスピックが突き立てられた。
あたしの舌に開いた穴は徐々に広がり、ボトボトと大量の血が落ちていく。
ザクッザクッ!
と、一心不乱にあたしの下にアイスピックを突き立てる母親。
意識は朦朧としてきて、雪の寒さも消えていく。
気が付けば、あたしの舌はほんの数センチの幅でつながっている状態になっていた。
大きく開かれた穴はもうピアス穴でもなんでもない。
「もう少し広げようか」
母親がそう言い、あたしは目を見開いた。
振り上げられるアイスピック。
「あぁぁぁぁぁ!!」
叫び声をあげた次の瞬間、開きすぎた穴があたしの舌を切り落とした。
舌の半分ほどがボトッと落ちる。
母親は満足そうにほほ笑み、あたしに背中を向けた。
いやだ。
行かないで!
あたしを1人にしないで!!
あたしは苦痛に呻き、血と涙の中をもがき苦しむ。
切断された舌からは止まることなく血が流れ出す。
体に力は入らなくなり、あたしはその場に横倒しに倒れたのだった。
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