第27話
「どうなってるんだよ……」
倒れた愛奈を目の前にして、旺太が呟く。
なにもわからない。
この空間が一体なんなのか、どうしてあたしたちがここにいるのか。
でも……忘れていたことが1つだけ思い出されていた。
それは高校生活のワンシーン。
いつもの教室、なれた自分の席。
あたしはいつも一番後ろのその席に座っていた。
そして、うつむき、机の木目を見ていたんだ。
休憩時間になってもあたしに話しかけてくる友達はいない。
昔仲の良かった友達はいつの間にかあたしの周りから離れていき、気が付けば1人だった。
クラスの大半はスマホを持っていたあの頃、あたしはまだ携帯電話を使っていた。
携帯電話では見る事のできないサイトが増えていき、その度にあたしは友達にサイトを見せてもらうようになっていた。
最初の頃は、友達が少なくなった原因がスマホを持たないあたしをうとましく感じたのだと思っていた。
その程度で去っていく友達を、非難したりもした。
でも、現状は全く違っていたんだ。
スマホを持たないあたしをいいことに、スマホでしか見る事のできないサイトであたしの悪口が拡散されていたのだ。
それはあることないことおかまいかしに書かれていて、クラスを飛び出し他の学年からもひどい批判を書かれるようになっていた。
本人であるあたしはサイトを確認することもできずにいたから、それはとどまることを知らなかった。
いつの間にか隠し撮りをされていた写真を公開され、その写真には《キモイ》《シネ》という罵倒がいつくもコメントされてしまった。
それに気が付いたのは、あたしがスマホに機種変更をした時だった。
学校の裏サイトがあると人づてに聞いて探して当ててみると、もう自分だけではどういようもないくらいにひどい状態になっていた。
ここまで好き勝手書かれていて今まで気が付かなかったなんて、自分がおろかすぎて何日も涙は止まらなかった。
友達がどんどんあたしから離れて行った理由も、これでわかった。
あたしは最初、担任の先生に相談をした。
先生はあたしのためにサイトの利用方法について話し合う時間を作ってくれたけれど、学年を超えて悪口を言われているためあまり効果はなかった。
ただ救いだったのは、学校では孤立しているというだけで特に何かを仕掛けてくるような事がなかったことだった。
1人で教室にいる時間は苦痛以外のなにものでもないけれど、その時間さえ過ぎてしまえば大丈夫だった。
そこまで思い出した時、旺太の心配そうな顔が見えた。
「穂香、どうした?」
「う、ううん。大丈夫」
あたしはそう言い、左右に首を振る。
過去を思い出すと、今が見えなくなってしまうのかもしれない。
愛奈の時もそうだった。
あたしたちが目の前にいるのに、見えていなかった。
「穂香、俺たちはここから出よう。な?」
旺太がそう言い、あたしの手を握りしめる。
その手のぬくもりに、一瞬心臓がドクンッと跳ねた。
それは恋のトキメキなんかじゃない。
本能的に感じるなにかが、そこにはあった。
「旺太は……何も思い出さないの?」
「俺? 俺は、まだ何も……」
そう言い、うつむく旺太。
「穂香は、何か思い出したのか?」
その言葉にあたしは頷く。
そして、旺太が書いた文字の《1人はイジメ》を、指さした。
「これ、きっとあたしの事だと思う」
「イジメ……」
「そう。あたし、学校でイジメられていたの」
そう言うと、旺太は辛そうに表情を歪めあたしの手をギュっと握りしめた。
「澪は事故。優志は病気。朋樹は喧嘩。愛奈は虐待。あたしはイジメ……旺太は助け……」
「助けって、どういう意味だ?」
「わからない」
あたしは首を左右に振った。
こう見て見ると、旺太の《助け》だけ、意味が少し違っているようにみえる。
他のみんなはマイナス要素だけれど、旺太は違う。
だけど、これの意味はきっと旺太しか知らない。
その旺太はまだ何も思い出さないようだった……。
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