第24話

床に書き出した文字を睨み付けるようにして、旺太が呟く。



「わかんないわよ、そんなの」



愛奈が旺太へ向けてそう言った。



しかし、旺太は手を止めない。



1つ1つのパーツをどう組み立てれば答えが出てくるのか、必死で考えている。



「さっきから色々と推測で話をしているけれど、結局この世界がなんなのか決定的なものはなにもないじゃない!!」



愛奈は叫ぶ。



もう、なにもかもが嫌になっているのかもしれない。



あたしは泣き出しそうになる気持ちをグッと抑え込み、ほほ笑んだ。



「大丈夫だよ愛奈。心配しないで」



「穂香……?」



「これはただの夢だから。冷めない夢なんて、ないんだから」



そう言い、愛奈の背中をさすった。



それは自分自身に言い聞かせている言葉でもあった。



早く目覚めてほしい。



それだけだった。



「あ、もしかして……」



旺太が小さく呟き、あたしと愛奈が振り向いた。



床の文字を見ていた旺太は瞬きを繰り返し、ある文字を何度も読み返している。



「旺太、どうかしたの?」



「あぁ。優志が言ってたよな?体の調子がよくなってるみたいだって」



そう言われ、あたしは優志の言葉を思い出していた。



『なんだか、普段よりも体が軽い感じがする。すごく調子がいいんだ』



確かに、優志はそう言っていた。



その後すぐに澪が自分も調子がいいように感じていて、足が軽いと言っていた。



「それが、どうかしたの?」



「これを見てくれ」



そう言われ、あたしは愛奈と2人で旺太の隣に座った。



色々と書かれている文字の中の1つを指さす旺太。



それは、ついさっき車掌さんが言った言葉の1つだった。



《1人は病気》



「なぁ、これってもしかして優志の事だったんじゃないか?」



そう言う旺太に、あたしは目を見開く。



そう言われて見て見れば、車掌さんが言っていた言葉は6人分ある。



そして、最初この車内にいた人数は6人だった。



「朋樹はケンカだって言ってた」



愛奈が言う。



そう。



朋樹は外へ出る前『俺はケンカだ』と言っていた。



あれは、あたしたちへ残したヒントだったんだ。



「じゃあ、あたしたちもこのどれかに当てはまるってこと?」



あたしはそう言い、旺太の書いてくれた文字を読む。



『1人はイジメ。1人は助け。1人は虐待。1人は喧嘩。1人は事故。1人は病気』



「なにか、思い出すことがあるか?」



旺太に聞かれたけれど、あたしと愛奈は力なく左右に首を振った。



これがどんな意味になっているのか、あたしたにはさっぱりわからない。



「朋樹は思い出したらおわりって言ってた……あたしたち、思い出さない方がいいんじゃないのかな?」



あたしはそう言う。



澪の場合もそうだ。



思い出してしまったから外へ出る事を選んだ。



それなら、あたしたちは何も思い出さない方が……。



そう思った瞬間、ドンッ! という大きな音が車内に響いた。



思わず音がした方へ視線を向ける。



その先には……。



血まみれになった朋樹が、窓にへばりついていた……。

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