第23話
車掌さんを殴ろうとした朋樹が拳を握りしめたまま、車掌さんが立っていた場所をジッと見つめている。
「朋樹、大丈夫か?」
さすがに心配になり、旺太が声をかける。
しかし、朋樹はそれに反応しない。
自分の拳と、車掌さんが立っていた場所を交互に見つめている。
「ねぇ、朋樹?」
愛奈も声をかける。
その時、朋樹がこう言った。
「残り30はお前たちの償い」
「え、なに?」
愛奈が聞き返すと、朋樹がようやく顔を上げた。
しかし、その顔は真っ青で唇が小刻みに震えているのがわかった。
「朋樹、大丈夫?」
あたしもその場から立ち上がり、朋樹に近づく。
すると朋樹が「俺に近寄るな!!」と、叫んだのだ。
その目には涙が浮かんでいて、今までの朋樹じゃないように見える。
「どうしたんだよ朋樹」
旺太は眉を寄せて朋樹を見た。
「残り30はお前たちの償い。スーツの男はそう言ったんだよ」
朋樹が旺太に向けて言う。
しかし、旺太はその意味が理解できず、困った顔をこちらへ向けた。
あたしにも、朋樹が何を言っているのかわからない。
「思い出した……思い出したんだよ、俺……」
朋樹の声は震えはじめ、そして突然開いている窓へ向けて走ったのだ。
「ちょっと、危ないでしょ!?」
愛奈が朋樹を止めようとする。
しかし、朋樹は愛奈の静止を振り払った。
「俺は喧嘩だ。それを思い出せば、すべて終わり……。俺は思い出した。だから、ここから出なきゃいけねぇ」
「何を言っているの、朋樹!」
愛奈が叫ぶ。
朋樹はチラリと愛奈へ視線を向けて……闇へと手を伸ばした。
瞬間、朋樹の体は闇の中の何かに引っ張られるようにして外へと引き込まれていったのだった……。
「うそ……でしょ?」
愛奈が脱力してその場に座り込んだ。
朋樹が何かを思い出した。
そして自分から進んで闇の中へと入って行ってしまった……。
気温は戻ったと言うのに空気は凍り付いているようだった。
「愛奈……」
あたしは愛奈の横に座り込み、その肩を抱いた。
「なんで……なんでこんなことになるのよ……」
愛奈の肩が小刻みに震えはじめる。
朋樹とは喧嘩ばかりしていたけれど、それほど相手の存在を気にかけていたのだろう。
愛奈の頬にはいくつもの涙が伝って落ちて行った。
外に出れば、待っているのは死のみ。
澪と優志を見ていて、あたしたちにはそれが痛いほど理解できていた。
愛奈の肩をさすっていると、旺太がネジで床に傷をつけ始めた。
見るとさっき車掌さんの言っていた呪文のような言葉を書き出している所だった。
「残り30はお前たちの償い。思い出したら終わり。朋樹の残した言葉は絶対ヒントになるはずだ」
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