第19話
夢なら早く覚めてくれればいいのに、あたしの目は一向に覚めなかった。
時間の感覚はどんどん麻痺していき、暗闇に閉じ込められてから何日も経過しているような錯覚を覚える。
「もう少し、あたしたちの共通点を探さない?」
重たい沈黙を破ったのは愛奈だった。
「共通点?」
あたしはかすれた声で聞く。
「そう。あたしたち、今日の記憶がとても曖昧だよね? だから、もう少し前にさかのぼった事を思いだしてみない?」
もう少し前にさかのぼった事……。
あたしは自分の記憶をたどり始めた。
昨日の事も、その前の日の事も、正直曖昧にぼやけてしまって思いだす事ができない。
でも、更に昔の事なら……。
「あたし、学校でテストを受けている時の記憶があるわ」
あたしはそう言った。
「テスト?」
「うん。確か一学期の期末テストだよ」
「あ、それ俺も受けた記憶がある」
そう言ったのは旺太だった。
「まじ? 俺はないなぁ……あ、もしかして学校サボってた日にあったのかな?」
と、朋樹。
「一学期の期末テストっていつあるの?」
学校に行っていない愛奈が首を傾げて聞いてくる。
「あたしの学校では2月下旬か3月の頭まで」
「俺も学校もそんなもんだな」
「じゃぁ、2人とも同じ時期の記憶があるんだね」
愛奈はうんうんと頷きながら話を整理する。
「で、あんたは?」
朋樹へ向けて雑に質問をする愛奈。
「俺もたぶんそのくらいの記憶だろうな。テストなんてダルイし、受ける気ねぇし、1人で家にいたけどな」
「なるほど。じゃぁあんたもだいたい同じ時期の記憶が残ってる」
「愛奈は?」
そう聞くと、愛奈は難しそうに眉を寄せた。
「たぶん、同じくらいの時期だよ。外から入って来た風はまだ冷たかったから」
愛奈の言葉にあたしは首を傾げる。
外から入って来た風で季節を感じるというのは、あたしにはピンと来ない。
2月や3月はまだ寒い日があるから、窓もそんなに開けないはずなのに。
「みんな同じ時期から記憶が飛ぶっていうのは、やっぱりおかしいわね」
愛奈がそう言い、あたしは自分の思考回路を遮断した。
そうだ、今はみんなの共通点を探すのが先だ。
「もしかして、その時期に俺たち全員眠らされて、今はすっげぇ未来で、色々開発が進んでて。で、実験台にされてるとか?」
朋樹が真剣そのものの表情で言う。
「朋樹、それはさすがにないだろ」
旺太は含み笑いでそう言った。
朋樹の豪快な推理にここへ来て久しぶりにみんなの顔に笑顔が浮かんだ。
「でも、それもないとは言い切れない状況よね」
笑いながらも、愛奈が言う。
「そうだね。ここがどんな空間なのかわからないんだから、朋樹の推理が当たっているかもしれないし」
あたしも頷き、そう言った。
すると朋樹は少し自慢げな表情を浮かべて「だろ?」と、言った。
「話を戻すけれど、テストは最後まで受けたのか?」
旺太があたしにそう聞いて来た。
「えっと……」
あたしは眉間にシワを寄せてテスト期間中の出来事を思い出していた。
テストは土日を挟んで7日間あり、毎日3科目ずつ受けていた。
確か最後に受けた試験は保健体育だった。
「うん、受けたよ」
あたしは頷いて答える。
「それって、何日?」
「確か……3月4日だったかな?」
そう言うと、旺太が何かを考え込むようにうつむき、黙り込んでしまった。
「旺太、どうかしたのか?」
朋樹が聞く。
「あぁ。3月4日。俺もそのくらいにテストが終わったと思うんだ。学校が近いから期間も近いのはわかる。でも……それ以降の記憶がないんだ」
旺太の言葉に、あたしは3月5日の記憶をたどってみた。
しかし……5日の記憶はなにも思い出せないのだ。
それは1人で知らない世界に閉じ込められてしまったような、すごく不安な気持ちだった。
「旺太、あたしも5日の記憶がない……」
旺太にすがるようにそう言うあたし。
「みんなは?」
旺太が朋樹に聞く。
朋樹も愛奈も、元々日付の感覚が鈍っていたから3月5日と言われてもピンとこないみたいだ。
でも、2人とも季節的にはあたしたちと同じ記憶を持っている。
それなら、無くなった記憶も同じタイミングの可能性は十分にあった。
「3月5日に、一体なにが起きたんだ?」
旺太がそう言うが、どうしてもその日の出来事を思い出す事はできなくて、あたしは首を左右にふったのだった。
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