第16話

それからあたしたちは暗闇についてわかっている事を話しあっていた。



澪は自分から暗闇の中へ入って行き、そして逆側の窓へと落ちて来た。



引きずり込まれたような感じではなかった。



優志の場合は窓に手を伸ばした瞬間、その中へと引き込まれていった。



「闇の中は一体どうなってるんだろうな」



旺太が呟き、閉まっている窓に手を触れた。



窓は閉まっているから問題ないはずだけれど、それを見ているだけで心臓はドキドキした。



「優志を引き込んだのはなんだったんだろう? やっぱり、闇の中に何かが潜んでいるのかな」



あたしはそう言う。



「でも、優志の体が浮いていたのが気になるな」



旺太が答える。



確かに、優志の体は外へ引き込まれる前に浮いていた。



まるでそこだけ重力がなくなってしまったかのように。



「外へ出た人が戻ってこないんだから、外の事はわからないことだらけよ」



愛奈が吐き捨てるようにそう言った。



きっと、優志ももう戻ってはこないだろう。



みんな、なんとなくそれが理解できていた。



もし、澪のように逆側の窓に落ちてきたらどうしようかと、さっきから恐怖が募ってばかりだ。



あたしは自分の気分を変えるため、前の車両へと視線をやった。



相変わらず、そこにも暗闇があるだけで誰かが乗っているような気配はない。



「同じような闇に見えるけれど、違うのかな?」



「どうだろうな?」



旺太があたしの横に来て、同じように闇を見つめた。



ジッと目をこらしていても、何も見えないし物音も聞こえてこない。



「やっぱり、この電車に乗っているのはあたしたちだけなのかな……」



「そうかもしれないな。でも、最初に見た黒ずくめの車掌は乗っているはずだ」



「あ、そっか。乗るところみたもんね」



あの車掌さんは一体どこへ行ったんだろう?



電車がこんな状況になっているということを、ちゃんと把握しているんだろうか?



「もしかして、あの人もグルなんじゃないの!?」



ハッと思いつたように愛奈が言った。



「グル?」



あたしは聞き返す。



「そうだよ! 実験かゲームか知らないけど、そういう奴らのグルなのかも


!」


「まさか……!」



否定しようと思ったけれど、できなかった。



あたしたちはみんな電車に乗るつもりなんてなかった。



切符だって買っていない。



それなのにこの電車に乗れたのは、あの人があたしたちの乗車を拒否しなかったからだ。



「あり得るな」



朋樹が、珍しく愛奈の意見に賛成した。



「あいつは向こうの車両で俺たちを見て笑っているのかもしれない。そう過程すると、監視カメラがないのも納得できるだろ?




向こう側から撮っていればこの車両には設置しなくていいんだからな」



そう言い、朋樹が前の車両を指さす。



そう言われると、暗闇の中で薄笑いを浮かべながらカメラを構えている車掌の姿が脳裏に浮かんできた。



闇にまぎれるために黒い服を着ている。



そう考えれば、すべて繋がっていくような気がする。



でも……。



あたしはついさっき、愛奈と朋樹の怒りが自分の中に入り込んできた時の事を思い出していた。



あれは2人の感情が共有されたものだった。



だとすれば今の事考え方も朋樹の考えを共有されたものかもしれない。



あたしはブンブンと強く頭を振った。



考えれば考えるほどわからなくなる。



自分で導き出したものがどれなのか、わからなくなる。



「話を変えて悪いんだけど、ここに来てどのくらい時間が経ってると思う?」



愛奈がそう言い、あたしは顔を上げた。



「何時間かは経過してるんじゃないか?」



旺太が答える。



「それにしては、おかしいのよね」



「なにが?」



愛奈の言葉に首を傾げた。



「喉が乾いてる人、いない?」



「あたしは平気」



「俺も、大丈夫だ。朋樹は?」



「俺も今のところ大丈夫だ。でも、それがどうかしたか?」



朋樹の言葉に愛奈は大きく頷いた。



「この異様な空間にいて、喧嘩もしてるのに、誰1人として喉が渇いてないのっておかしくない? トイレも、誰も行きたいって言わないよね? そういう生理現象が来ないのって変だよね」



愛奈に言われ、初めて気が付いた。



「そう言えば、あたし一度もトイレに行ってない」



ここに来てからではなく、朝から行った覚えがないのだ。



それでも全く平気な状態でいる。



普通なら膀胱炎になっていてもおかしくないかもしれない。



「おいおい、それじゃまるで俺たちが人間じゃないみたいだな」



朋樹が顔をしかめてそう言った。



「この空間がおかしいのか、あたしたちがおかしいのか。どっちなのかしらね?」



愛奈はそう呟いたのだった。

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