第14話

外に出ることはできない。



助けも来ない。



それがわかったあたしたちは、澪の死体に目をやらないよう、みんな俯いた状態で椅子に座っていた。



こんな異様な空間にいると、澪の死体が動き出すんじゃないかという怖い妄想までしてしまう。



あたしは小刻みな震えが止まらない自分の体を抱きしめた。



「大丈夫か?」



そう聞いてくれたのは旺太だった。



旺太の顔色はもう戻っていて、あたしの隣に座った。



「うん……」



あたしは少し無理をして笑顔を浮かべた。



優しい旺太に心配はかけたくない。



けれど、震えは止まらなかった。



「嫌じゃなかったから、おいで」



旺太はそう言い、あたしに向かって両腕を開いた。



その意味を理解して、ドキッとするあたし。



異性に抱きしめられた経験なんてないし、どうすればいいのか反応に困ってしまう。



でも……今は少しでも近くで誰かのぬくもりを感じていたい。



そう思い、あたしは思い切って旺太の腕に身を預けた。



男の人の体は想像以上に大きくて、ゴツゴツとしている。



旺太があたしの背中に手を回すと、更にあたしの心音は早くなった。



それでも旺太の胸に顔をうずめると、守られているという安心感から体の震えが徐々に治まって行くのを感じる。



「大丈夫、心配するな」



何の根拠もない旺太の言葉だったけれど、耳元でささやかれると本当に大丈夫な気になって来る。



旺太の大きな手があたしの背中を何度も撫でて、その度にあたしは落ち着いていった。



人前で男の子に抱きしめられるなんてすごく恥ずかしいけれど、気分の悪さも消えて行った。



「もう、大丈夫みたいね」



そう言ったのは愛奈だった。



あたしは旺太から離れ、愛奈を見る。



愛奈は笑顔を向けていた。



「心配かけてごめんね」



「心配なんてしてないわよ。この空間ではみんなの体調が同じになるの、忘れた?」



そう言われてハッとした。



「じゃぁ、みんなも気分が悪かったの?」



「そういう事よ。だけど、1人の気分が良くなればそれが連動されるみたいね」



そっか。



じゃぁ旺太があたしを抱きしめたのはあたしのためだけじゃなかったんだ。



そうとわかると少しガッカリして、自意識過剰だったかなと思い、恥ずかしくもなった。



旺太はあたしから離れると、椅子から立ち上がった。



「もし、この空間が実験で作られたものだとしたら、その犠牲者が出たことになる」



旺太の言葉に、みんな真剣な表情を浮かべる。



「普通、死人が出たりすれば実験は取りやめになることだろう。だけど、この空間はまだ終わっていない。と、いう事は……これは普通の実験じゃないと言う事だ」



「生死を問わない人体実験。もしくは、金持ちのゲームに参加させられているか……」



優志が呟く。



「ゲーム?」



あたしは眉を寄せてそう聞いた。



「そう。金持ちがこういう隔離空間を作り、俺たちプレイヤーを放り込む。そして俺たちが右往左往しているのを見て面白がっているんだ。



外に出たらゲームオーバーというルール設定の下、賭けているかもしれない」



「そんな事、本当にあるのかよ」



朋樹が言う。



「裏社会では時々ある話らしい」



優志の言葉にあたしは目を見開いた。



そんなゲームが実在しているなんて、趣味が悪すぎる!



もし、自分たちがそのコマにされているのだとすれば、許せないことだ。



「人体実験でもゲームでもいいけど、ここから出る方法はなにもないのかしら」



愛奈が窓に触れてそう言った。



澪が出て行った窓はまだ開けられた状態になっていて、それはまるで闇の中へ誘っているように見える。



「とりあえず、危ないから窓は閉めるね」



あたしは立ちあがり、窓に近づく。



その時だった。



「いいよ、俺が閉めるから」



と、窓の近くにいた優志が窓へと手を伸ばした。



その瞬間、優志の体がフワリと浮いたのだ。



「え……?」



あたしは目を丸くして優志を見る。



まるで時間が静止しているような感覚だった。



しかし次の瞬間、窓へと伸ばしていた優志の手が暗闇へと引き込まれるのを見た。



優志の体は抵抗する暇さえ与えてもらえず、一瞬にして窓の外へと投げ出されてしまったのだ。



それはほんの一瞬の出来事で、あたしは唖然としたままついさっきまで優志が立っていた場所を見つめていた。



「優志!!」



旺太の声でハッと我に返り、窓を見る。



しかし、そこにはもう暗闇が存在しているだけで優志の姿を見つけることはできなかったのだった。

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