第12話
1度調べ終えたところも含めて隅から隅まで車内を調べる。
しかし、やはり変わったところは見つけられないまま、時間だけが経過していく。
一体どれくらいの時間が経ったのかわからないまま、あたしたちはすべてを調べ終えてしまった。
「なにもないな……」
旺太が肩を落として呟く。
普段なら何もないことこそ安心するべきことだけれど、今回は例外だ。
なにか異変があったほうが、そこから解決策を見つける事ができる。
だけど、その異変が車内には見当たらなかった。
あたしも旺太と同様に肩を落とし、椅子に座った。
「澪、大丈夫かな」
愛奈が外を見てそう言う。
「あれからどれくらいの時間が経ったか、時計がないからわからないな」
旺太がそう答える。
みんなも、澪の無事を気にしている様子だ。
だけど、澪は出て行く時に『思いだした』と言っていた。
あれはどう意味なんだろう?
澪は何を思いだして外に出たんだろう?
それに『またね』という言葉の意味も気になる。
澪はまたあたしたちに会うという意思を伝えたわけだけれど、この状況なら『助けを呼んでくるから待っててね』という方がしっくりくる。
『またね』だと、すぐには再会できない事を知っているような言い方だ。
「なに難しい顔をしてるんだ?」
1人で考え込んでいると、朋樹が声をかけて来た。
「あ、なんかさっきの澪の言葉が気になって」
「言葉?」
朋樹は首を傾げて眉間にシワを寄せた。
「そう。澪は『思いだした』って言ってた。一体何を思いだしたんだろう?」
「はぁ? 知るかよそんなの。晩飯のメニューでも思い出したんじゃねぇの?」
適当な事を言う朋樹に、優志が「それは違うと思うよ」と、すぐに否定した。
みんなと一緒にいる事に慣れて来たのか、少しずつ自分の意見を言うようになっている。
「じゃぁお前はなんだと思うんだよ」
「何かはわからないけれど、あの暗闇の中へ、自分から出て行く事ができるような事を思い出したんだと思うよ」
そう言い、優志は開いている窓を指差す。
あの暗闇の中に自分から出て行くような事……。
それは一体なんなんだろう?
とてもじゃないけれど、何も見えないような闇の中に入って行く勇気なんて、あたしにはない。
だけど、澪は何かを思いだした瞬間、迷う事なくその中へ飛び込んで行った……。
「それにね、もうひとつ気になる事があるの」
あたしは優志に向けて言った。
「なに?」
「澪は『またね』って言ってた。『またね』って事は、あたしたちと澪はまたどこかで会うってことだよね? 会える事を知っている。って言う感じでもあった」
「確かに、気になる言葉だな」
優志は腕組みをして考え込む。
朋樹も旺太も、同じように考え込んでしまった。
あたしも、澪が残した言葉が何かの手がかりになるような気がしている。
「『思いだした』ってことは、澪は何かを忘れていたってことよね。それも、結構重要な事を」
愛奈がそう言い、あたしは頷く。
少なくとも、晩ご飯じゃないことは確かだと思う。
だけど、それが何かわからない事には前に進む事はできない。
肝心の澪はいないし……。
そう思った時、旺太が口を開いた。
「あのさ、実は俺も気になる事があるんだ」
「なに?」
あたしは聞く。
「この電車に乗った時からずっと自分自身に違和感があるんだ」
「体の違和感でしょ?」
あたしが聞くと、旺太は首を振った。
「俺は体の異変は感じていないんだ。でも、何かを忘れているような気がしてるんだ」
「忘れる……?」
「そう。なにか……すごく大切な事なんだけど……なんだったかな」
旺太はそう言い、頭をかきむしる。
「忘れているというか、喪失感ならあるな」
朋樹が横から口を挟む。
「喪失感?」
優志が聞く。
「あぁ。なにか、元々持っていたものを奪われた感じだ」
そう言い、朋樹は自分の胸に手を当てた。
あたしも、つられて自分の胸に手を当てる。
その瞬間、強烈な違和感が体を貫いた。
ドクンッと心臓が跳ね、血液がグルグルと駆け巡る感覚がする。
なに、これ。
高熱が出た時のように体中が熱く、けだるさを感じる。
何かを忘れている。
喪失感。
あるはずべきのものが、欠けている。
言葉のパーツがバラバラになって脳内を飛んでいる。
それらはまだ繋がらず、あたしは思わず椅子に横になった。
「おい、大丈夫か?」
すぐに旺太が駆け寄ってきてくれた。
「大丈夫……ちょっと気分が悪くて」
「無理するなよ」
「うん」
あたしたちは一体、何を忘れているんだろう……。
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