第11話
どうすることもできなくてそれぞれが椅子に戻った時、澪がまだ窓を開けっぱなしにしている事に気が付いた。
「澪、窓を閉めて」
あたしは声をかける。
しかし、澪は動かない。
「おい、聞こえてるのか?」
朋樹が澪に近づいた瞬間、澪がこちらへ振り向いた。
その目は見開かれ、涙が頬を伝って落ちている。
一瞬、車内は静まり返った。
「おい、お前なにかしたのかよ!」
すぐに旺太が朋樹の腕を掴む。
でも、朋樹はなにもしていない。
ただ、澪に近づいてだけだった。
「澪、どうした?」
旺太が聞くと、澪は小刻みに震えながら左右に首を振った。
「まさか、暗闇の中に何かがいたとか、言わないでよ?」
愛奈が怯えたようにそう言い、自分の体を抱きしめた。
「ち……がう……。そんなんじゃない……」
否定しながらも、澪の震えは増していく。
「澪、ちょっと落ち着いて」
席から立ち上がり、澪に近づいた。
その時だった。
澪は微かに口角を上げてほほ笑んだ。
その顔に、あたしはなぜだかビクッとして立ち止まった。
「あたし……思い出した……」
震える声で澪は言う。
思い出した?
一体、なにを?
そう聞こうとしても、声がでない。
聞いちゃいけない。
本能的にそう感じている。
「さよなら……またね……」
澪はそう言うと、窓の外に吸い込まれるようにして闇へと消えていったのだった。
☆☆☆
車内に残された誰もが動く事ができなかった。
みんな、開けられたままの窓を唖然として見つめている。
ついさっき、澪がこの暗闇の中に吸い込まれていった。
その事実があまりにも衝撃的で、口を開く事さえ難しい。
澪の体は一瞬にして闇の中に溶け込み、足音も聞こえてこなかった。
「嘘……だろ?」
そう言ったのは優志だった。
優志は青い顔をして小刻みに体を震わせている。
「自分から出て行きやがった……」
朋樹が呟く。
「大丈夫……だよな?」
旺太が暗闇に目を向けてそう言う。
しかし、それに返事を返す人は誰もいなかった。
一寸先も見えない闇に消えていった澪がどうなったのか誰も想像もつかない。
「もし、外へ出られたならきっと、誰かを呼んできてくれるよ」
その場の雰囲気を明るくするように、優志が言った。
「そ、そうだよね! 真っ暗っていっても下は線路なのはわかってるし、歩いていけば明かりも見つかると思うし!」
あたしは優志の言葉に何度も頷きながらそう言った。
どうであってほしいという、願いも込めて。
「でも、澪の足音は聞こえてこなかったわ」
愛奈があたしの期待を砕くようにそう言った。
あたしの心臓はドクンッと跳ねる。
石が敷き詰められている線路を歩いていれば、普通足音が聞こえてくるはずだ。
電車が下りただけでも、聞こえてくるその音が聞こえてこなかった事を思い出す。
「……とにかく、澪に期待して待つしかないんじゃないかな?」
旺太が穏やかな口調でそう言った。
嫌な予感はぬぐえないけれど、今外へ出たのは澪1人なのだ。
その澪にかけるのは普通の事だった。
「じゃぁ、澪が帰ってくるまで俺たちはもう1度電車の中を調べよう」
優志がそう言ったので、あたしたちはようやく動き始めたのだった。
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