第10話
それからあたしたちはバラバラになり、狭い車内をそれぞれで調べて回る事にした。
みんなの力が均等になるような装置が、どこかにあるかもしれない。
男子と女子に別れ、天井も椅子の下もくまなく探す。
真っ黒な椅子に細工でもあるのかと思い、持ち上げてみようとするが全く動かない。
ちゃんと、床と固定されているようだ。
「なにもないね」
隣で椅子を調べていた澪が言う。
「そうだね。普通の電車と何もかわらないみたい」
中腰になっているのが辛くなって、あたしは腰を伸ばした。
「こんな真っ暗な闇、どうやって作るんだろう」
窓の外を見て、あたしは言った。
今まで出会ったことのない闇がそこには広がっていて、恐怖さえ感じられる。
「この窓、開くのか?」
近くにいた朋樹がそう言った。
窓が開くかどうか。
それはあたしも気になっていた所だけど、闇に手を伸ばすようで怖くて触れなかった部分だ。
「外は危ないんじゃない?」
愛奈が手を止めて朋樹を見る。
「でもよ、ここから外へ出られるかもしれないだろ」
「それはそうだけど……」
そう言い、愛奈は暗闇へと目を向けた。
この中に自ら出て行く勇気は、きっと誰にもない。
「開けるだけ開けてみようぜ」
そう言い、朋樹は窓に手をかけた。
窓は上にスライドさせるタイプになっていて、それはすんなりと開いた。
「うわ、上まで全部開くのかよ」
スムーズに開いた窓に朋樹が困惑の声を浮かべる。
見ると、下半分だけ開くのではなく一面の窓が開いている。
これなら体の大きな朋樹でも簡単に外へ出る事ができる。
「もしかして、ここから出ろって事なのか?」
朋樹がそう呟く。
他に出口がない所を考えると、そういう事になる。
「出入り口も開かなかったんだよね?」
あたしは車両に2つある出入り口を調べていた旺太と優志に聞く。
2人とも同時に頷いた。
となると、やっぱり出入りできるのはこの窓だけということだ。
ジッと暗闇をみつめていても、何も見えない。
「外は危険じゃないのかな?」
澪がそう言い、開けられた窓へと近づいていく。
顔を近づけてもその髪が風に揺れることはなかった。
やっぱり、電車は止まっているみたいだ。
「誰か1人が外に出て、助けを呼んでくるっていうのはどうだ?」
朋樹が思いついたように言う。
「誰か1人って、一体誰がこんな闇の中に行くっていうのよ」
愛奈が冷めた口調でそう言った。
「スマホの明かりで歩けるようになるだろ」
そう言い、朋樹がズボンのポケットに手を入れた。
そうだ。
あたしもスマホを持っている!
「待ってよ、それならスマホで外と連絡を取ればいいじゃない!」
と、愛奈。
全くその通りだ。
どうして今までスマホの存在を忘れていたんだろう!!
そう思い、上着のポケットに手を入れる。
しかし、いつも入れているそこにスマホの感触はなかった。
「あれ? あたし、忘れてきちゃったのかな?」
「俺も、スマホがない」
「ちょっと、冗談でしょう?」
あたしと朋樹の言葉に愛奈が焦りの顔を浮かべる。
「お前のスマホをかせよ」
「あたしは持ってないから」
と、愛奈は左右に首を振る。
「は? いまどきスマホを持ってないとかないだろ」
「持ってないんだから持ってないんだってば!」
愛奈はイライラしたように声を荒げた。
一見派手なのに、友達とのやりとりにスマホを使わないなんて珍しい。
「ねぇ、澪は?」
「さっきから探しているけれど、あたしも忘れてきちゃったみたい」
「ダメだ。俺も持ってない」
と、旺太。
優志も、困った顔のまま左右に首をふった。
「そんな……」
ここにいる全員が外との連絡手段を持っていないなんて、変だ。
もしかして、これもすべて最初から仕組まれていたことなんだろうか?
だとしたら、犯人は家の中からあたしたちを見ていた可能性がある。
そう思うと、背筋がゾクリと寒くなった。
まるでストーカーにでもあっているような気分だ。
「くそっ! 明かりがねぇんじゃこの中に下りていく勇気はないな……」
朋樹が舌打ちをする。
「仕方がないよ。窓、閉めてよ」
愛奈が澪に言う。
電車内に変わった所はない。
出入り口も開かない。
おまけにスマホもない。
あたしたちは再び沈黙に包まれたのだった……。
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