第9話
その後、朋樹は澪とも腕相撲を勝負していたが、結果は同じ引き分けに終わっていた。
「この空間は普通じゃないわね」
愛奈がそう言う。
「なにがどう普通じゃないのか、それが問題だな」
旺太が腕組みをして答える。
朋樹の力が弱くなっているというよりは、みんなの力が平等になっている。
そんな感じがする。
さっき、試しにあたしと愛奈で腕相撲をしたけれど、やっぱり引き分けに終わってしまった。
「俺の体調がいいのも、みんなと同じになったってことなのかな?」
「たぶん、そういう考え方であってると思うよ」
あたしは優志の言葉に頷いた。
「プラスの部分もマイナスの部分もなくなって、みんなが同じになってるって事だな」
旺太がそう言う。
「でも、そんな事普通じゃあり得ないよね」
澪が、小さな声でポツリと言った。
その言葉にみんなが黙り込む。
普通じゃあり得ない。
それはもうみんな心の中でわかっていたことだと思う。
普通じゃないということは、この空間が異質であるという事だ。
「ここは、一体どこなんだろう……」
優志が呟いた。
「わからない」
あたしは左右に首を振る。
「でも、あたしたちがここに集められたってことは、きっとなにか理由があるはずだよね?」
愛奈がそう言う。
確かにそうだ。
理由もなくこんなわけのわからない空間に集められるとは思えない。
「この空間が現実とは違う空間だと仮定しての話だけど、まずはこんな空間を作れる人間がいるのかどうか、それが疑問だな」
旺太がそう言った。
その通りだ。
みんなの力が平等になる空間なんて、今まで聞いた事も見た事もない。
「たとえば、無重力空間だと力は平等になるんじゃないか?」
朋樹がそう言う。
「でも、ここにはちゃんと重力があるわ」
愛奈がそう言い、その場で飛び跳ねて見せた。
「重力がある状態で筋力が統一される空間……か」
旺太は呟き、左右に首を振った。
そんな難しい事考えたってわからない。
この中で一番頭がいいだろう、澪もさっきから困った顔をしている。
「たとえば、このどこかの金持ちがこの空間を作って、俺たちが実験台にされてるってことはないか?」
朋樹が予想外の言葉を発した。
「実験台!?」
優志が青ざめて朋樹を見る。
「たとえば、の話だ。なにも知らない俺たちがここでどんな反応を見せるのか、どんなふうに生き延びるのか。それを見ている人間がいるかもしれないってことだ」
「だとすれば、監視カメラがどこかにあるかもしれない」
愛奈がそう言い、天井を見上げた。
あたしもつられて視線を上げる。
天井にはエアコンと電気が設置されているだけで、特に変わった部分はない。
それでも念の為、あたしと愛奈は椅子に上がって天井を確認した。
「なにかありそうか?」
言いだしっぺの朋樹は何もせず、聞いてくる。
「なにもない」
愛奈はそう言い、椅子を下りた。
「こっちにも、カメラみたいなものはなかったよ」
みんなの所へ戻ると、全員が難しい顔をして黙り込んでしまった。
「でも、こんな空間を作れる人が目に見える監視カメラを付けるとは思えないよね」
場の空気を変えようと思い、あたしはそう発言した。
「あたしも、そう思う。それに、こんな空間を作るなんてきっと数人じゃ不可能だから、大きな組織が関係しているかもしれない」
澪が真剣なまなざしでそう言った。
確かに、お金持ちの個人でできる反中はとっくに超えている。
組織ぐるみなら、あたしたちが実験に使われているという説も、少し現実味が帯びてくる。
なにを研究している組織なのか、それは全く見当もつかないけれど。
「もう少し、考えてみる必要がありそうだな」
旺太がそう言ったのだった。
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