第6話

あたしたちがどうしてこんなところに集められたのか。



その疑問は解けないまま、時間は流れていた。



ただ、さっきよりも会話をしたお陰で今ではあちこちから他愛のない会話が聞こえてくる。



少しずつ互いの存在に慣れて来たみたいだ。



そんな中、優志が手をグーパーさせたり足踏みをしたりを繰り返し、首を傾げている。



「ねぇ、さっきから何をしているの?」



その行動が気になって聞いてみると、優志は動きを止めてあたしを見た。



「何か体に違和感があるんだ」



違和感がある。



と言いながらも優志はどこか嬉しそうに頬を赤らめ、口元を緩めている。



「違和感?」



あたしは首を傾げる。



それって体調が悪くなってきたってことじゃないよね?



今の優志を見る限り、さっきまでより元気そうだし。



「それってどんな違和感?」



そう聞いたのは澪だった。



「なんだか、普段よりも体が軽い感じがする。すごく調子がいいんだ」



優志はそう言い、その場で飛び跳ねて見せた。



それはごく普通にできる程度の動きで、珍しくもない。



だけど優志は飛び跳ねるごとに「ほら、見て!」と、興奮気味に声を上げた。



もしかして、優志は普段から病弱なのかな?



だからこの程度ではしゃいでいるのかも。



元気なのはいい事だけれど、今の状況で元気になってもどうしようもない。



あたしは優志から視線を外してため息をついた。



「実はあたしもさっきから体の調子がいいなって思ってたの。とても足が軽いわ」



そう言ったのは澪だった。



澪は目を輝かせて立ち上がり、優志と同じようにその場で飛び跳ね始めた。



その光景にあたしは目をパチクリさせる。



なんだか小さな子供が2人で無邪気に遊んでいるような光景に見える。



とてもほほえましいけれど、今はそれ所じゃないでしょ。



「ちょっと、揺れるからやめてよ!!」



朋樹がキレるかと思っていたけれど、愛奈の方が2人に声を荒げた。



その声に2人は同時に縮こもってしまった。



「ねぇ、体の調子がいいってどういう事?」



旺太が聞くと、2人は目を見かわせて同時に首を傾げた。



「わからないけど、なんだか普段より調子がいい感じがするんだ」



「あたしもそう! でも普段と何がどう違うのかはわからない」



自分でわからないってどういう事よ。



そう思ったあたしだったけれど……。



心の中の何かがなくなり、スッと軽くなっている事に気が付いたのだ。



何がなくなり心が軽くなっているのか?



そう聞かれてもわからない。



でも、確かに普段とは何かが違うのだ。



2人のように体調がいいとかじゃなくて、心が健康な状態になっている気がする。



だけど……あたしは心に何か重たいものを持っていたんだっけ?



そう思っても、なにも思い出せないのだ。



優志と澪のやり取りと離れた場所で見ていた朋樹が不意に立ち上がり、近づいて来た。



朋樹の威圧感のある歩き方に、自然と2人の会話は止まる。



しかし、朋樹の口から発せられたのは意外な言葉だった。



「俺は自分の力が無くなった気がするんだ」



その言葉に優志は目を丸くして「へ?」と、まぬけな返事をした。



うるさくした事を怒鳴られると思っていたから、拍子抜けしたようだ。



「さっきドアを開けようした時に思ったんだ。全力でドアに体当たりしても、いつもの手ごたえがないのはなんでだってな」



確かに、それはあたしも思っていた事だ。



6人で体当たりをしてもビクともしないドアなんて、電車で使われているだろうか?



安全のため普通のドアより強度はあるかもしれないけれど、キズ1つ付かないのはどう考えてもおかしい。



「なぁ、ちょっとお前で試してみてもいいか?」



朋樹はそう言い、優志へ向けて拳を突き出したのだった。

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