第4話
車内は相変わらず暗闇に包まれ、電車も走っている様子はない。
ジッと待つ事数十分ほどで、ついに朋樹が立ち上がった。
一番短期そうな朋樹がイライラした様子を隠す事もなく立ち上がったので、あたし右隣に座っていた澪がビクッと体を震わせた。
「一体いつまでここで待てばいいんだよ!!」
誰ともなく大きな声でそう言う朋樹。
そんなの、こっちが聞きたいよ。
そう思った瞬間「そんなのあたしが聞きたいわよ」と、覚めた口調で愛奈が言った。
愛奈はフンッと鼻を鳴らし、朋樹を見る。
あたしも同じ事を思ったけれど、愛奈はそれを我慢せずに口にする。
朋樹の雰囲気が明らかに悪くなった。
全身からみんなを威嚇するような、トゲトゲしい空気が出ている。
まずい。
また言い合いになりそうだ。
こんな密室で、しかし朋樹みたいに筋肉のついている男を怒らせるのは女子にとって危険だ。
「まぁまぁ、落着けって朋樹」
そう言ったのは、あたしの左隣に座っていた旺太だった。
あたしは旺太が発言してくれたことにホッと胸をなで下ろす。
「って言っても、こんな状況じゃ荒れる気持ちになるのもわかる。一体いつまでここにいればいいのかもわからないんだからな」
そう言い、旺太はゆっくりと立ち上がりメンバーをグルリと見回した。
「気晴らしに、みんなの事をもう少し聞かせてくれないか?」
「もちろん、いいよ」
すぐにそう言ったのは、色白の優志だった。
優志の幼さの残る笑顔に周囲の空気が少しだけ和むのを感じた。
「じゃぁ優志に質問だ」
「何でも聞いていいよ」
「優志は、今日どこへ向かう予定でこの電車に乗ったんだ?」
旺太がそう聞くと、優志は眉を下げて困ったように首を傾げた。
「それが……青い蝶を追いかけていたらこの電車に乗っちゃったんだ」
優志の言葉にあたしは目を丸くした。
青い蝶ってもしかして……。
「青い蝶!? それって、もしかしてあたしが見蝶と同じかもしれない!!」
一瞬、自分の心の声が口に出たのかと思った。
しかし、そう言ったのは目を丸くした澪だったのだ。
「どういう事?」
あたしは聞く。
「あたしも、青い蝶を追いかけてここへ来たの。キラキラ輝いて金色の鱗粉が……」
「それ、俺も見た!」
今度は朋樹がそう言った。
「まじで? あたしもなんだけど」
唖然とした表情で愛奈が言う。
うそ。
まさか、ここにいる全員があの蝶を見ているってこと?
旺太があたしへと視線を移す。
「穂香は?」
「……あたしも、青い蝶を見た……」
「実は、俺もその蝶を見たんだ。あまりに綺麗でフラフラ付いて来たら、ホームにたどり着いていた」
旺太がそう言い、真剣な表情になる。
「ここにいる全員が同じ蝶を見ていたってこと? でも待って、あたしがホームに付いた時に蝶の姿はなかったよ?」
あたしが言うと、旺太は頷く。
「俺の場合も全く同じだ。ホームに入った時には蝶はいなくなっていた。だけど、この汽車に乗り込んだ時には確かに見たんだ」
「だけど、乗ってみると蝶はいなかった……」
旺太の言葉をつなぐように、澪が言った。
同じだ。
みんな、全く同じだ。
あたしは自分の背中に冷たいものが走るのを感じていた。
「まるで、ここに集められたみたいな感じね」
愛奈が呟くように言う。
きっと、それはみんなが思っていた事だろう。
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