第3話

一体何がどうなっているのかもわからない状況の中、全員で力を合わせてドアを開けようとしていた。



小柄な女の子も、疲れているような男の子も、一緒になってドアに体当たりをする。



6人でぶつかるたびに車内は大きく揺れ、ドアがビリビリと震える。



しかし、それが壊れて開くことはない。



何十回目かの挑戦で、ついに「もう、ダメなんじゃない?」と、赤毛の女の子が言った。



その言葉に、みんなの動きが止まってしまった。



少しずつでもドアが壊れていれば続けていけたかもしれないが、何度やってもドアは凹みもしないのだ。



どれだけ頑丈に作られているのかわからないけれど、これほど体当たりして傷ひとつついていないなんて、異常だ。



赤髪の女の子の意見に賛同する人はいなかったけれど、みんなそれぞれにドアを離れて行った。



もう無駄だとわかったのだろう。



あちこちからため息やうめき声が漏れる。



あたしは元々自分が座っていた場所に戻り、肩を落とした。



後は車掌さんにすべてを任せるしかないけれど……あたしは真っ暗な車両をチラリと見た。



その状態だと、前の車両の方がひどい状況かもしれない。



助けが来ると信じたいけれど、その望みは薄いかもしれない。



「とにかく、自己紹介でもしないか?」



車内の重たい空気を消すようにそう言ったのは、栗色の髪の男の子だった。



男の子は大げさなくらい明るい声を出し、笑顔でいる。



あたしはその少年のような笑顔に、思わず微笑んでいた。



「そうしよう」



そして、すぐに賛同する。



他のメンバーも別に反対はしないようで、なんとなく彼の中心に集まる形になった。



「じゃぁ、言いだしっぺの俺からな。名前は植田旺太(ウエダ オウタ)17歳、松木高校の2年生だ。旺太って呼んでくれればいいから」



植田旺太君か……。



リーダーシップのありそうな人だな。



そう思っていると、旺太と視線が合った。



「次は、君」



「あ、あたし!?」



驚いて自分を指さす。



「あぁ。どうぞ」



そう言われ、あたしは咳払いをした。



「あたしは永井穂香(ナガイ ホノカ)15歳、夢高校の1年生です。あの……穂香で、いいです」



しどろもどろになりながらも、なんとか自己紹介を終える。



「ありがとう、穂香」



旺太にそう言われ、あたしは一瞬にして照れてしまった。



きっと耳まで真っ赤だ。



「次はあたしね」



赤い髪の女の子がそう言い、一歩前へ出る。



あたしと違い、みんなの前で自己紹介をする事に抵抗はないようだ。



「あたしは川畑愛奈(カワバタ アイナ)18歳。家事手伝いよ。あたしも、呼び捨てで構わないわ」



そう言うと、金髪の男の子が「学校や仕事に行ってないのかよ」と、聞いた。



愛奈は金髪の男の子を睨み付け「それがどうしたのよ」と、ツンとした態度になる。



「あぁ? ちょっと聞いただけだろうが」



いかにも喧嘩っぱやそうな金髪の男の子が巻き舌になって、愛奈を睨み付けた。



なんだかあまりいい雰囲気じゃなくなっていて、焦っていると、「まぁまぁ。次は君、どうぞ」と、旺太が金髪の男の子に言った。



「俺の名前は高橋明樹(カタハシ トモキ)16歳、谷原高校の2年だ」



「なぁんだ、16なんてガキじゃない」



愛奈がそう言い、明樹が「なんだと!!」と、怒鳴る。



この2人、相当相性が悪そうだ。



「怒らない怒らない。次は、君」



旺太が2人の間に割って入り、小柄な女の子を指名した。



「あ、あたしは中野澪(ナカノ ミオ)です。青空学園、高等部の2年生で16歳。澪、でいいです」



青空学園って聞いたことがある。



県内でもかなり優秀な生徒が集まる学園で、幼稚園から大学までのエスカレーターだ。



あたしは目を丸くして澪を見た。



目立たない雰囲気をしているから、超エリートには見えなかった。



もちろん、いい意味で。



最後に残った色白の男の子に、自然とみんなの視線が集まった。



「俺は池田優志(イケダ ユウシ)っていいます。15歳だけど、学校は行ってません」



「なんで? お前は愛奈と違って真面目そうなのに」



すかさずそう聞くのは明樹だ。



人には話したくない事だってあると言う音を、全く理解していないようだ。



優志は困ったような笑顔を浮かべ、その場誤魔化した。



とにかくみんなの名前や年齢がわかったから、会話もしやすくなった。



年上の人もいるけれど、この状況で敬語は必要なさそうだ。



自己紹介を終えたあたしたちは、また窓へと視線を向けた。



問題は、このメンバーでどうやってここを切り抜けるか、だった……。

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