第29話
29話
俺がダンスの疲労で休んでいる時、突然阿部先輩が走って俺と小奈津さんを呼びに来た。なんなんだ、とおもったがその時は慌てているようだったので、先輩の「来い!」の言葉を聞いた瞬間、疲労した体を持ち上げ先輩について行った。
「なんなんですか」
連れてこられたのは俺がさっきダンスをしていた場所。そのフロアには二人のダンサーがいた。1人は俺も知っている子羽さん。もう一人はPower。俺が曲を潰すダンスをすると言った人だ。
つまり、今は準決勝の途中。
子羽さんとPowerのバトルが始まっていた。
「後攻 Power」
子羽さんのダンスは本当に最後しか見れなかったのだが、そのダンスは手本のよな綺麗なダンス。だけど、勝つと言う意思はちゃんと伝わってきていいダンスだ。
それに対してPowerのダンス。
・・・豪快だ。すがすがしい程曲を聞けていない。だけど、その聞けていない技術不足を補うかの様に、圧倒的パワーがそこにはあった。
Powerのダンスを見ている時、その時だけは音楽がただのBGM、背景音楽になってしまっている。・・・それはダンスと言えるのか。俺には疑問しか出てこない。
でも、そのダンスでも、盛り上がっている。
「3ラウンド 先行 子羽」
・・・やはりと言うべきか。
子羽さんはその顔を苦く染めている。・・・小羽根さんは俺と同じ、音を潰すダンスは嫌いなのかもしれない。だって、予選で見た子羽さんのダンスはパワームーブなのに、細かい音までしっかり拾えていて一種の芸術とまでいえるほどだった。
そんな人が、目の前の脳筋の様なダンスを目の前にしたとき、どの様なダンスで返すのか。
・・・それはその一瞬の時、その瞬間のことであった。・・・音が見えた。
ダンスはその曲の音を使う。つまり、その曲のリズム、音程、などなど、その曲にしか表現できない感覚を出す。
ならば、ダンスを見るだけで、どんな曲が流れているのかわかるのではないのか?・・・それが今実現された。
本当に一瞬。1秒にも満たないその瞬間。
その瞬間は誰よりもダンスが上手かっただろう。
・・・だが、その一瞬で集中が途切れたのか、その後は上手く盛り上がる事が出来ない。大技を繰り出そうとするが・・・失敗とまでは言わないものの微妙な感じで終わってしまう。・・・でも、あのようなダンスが出来たのは俺たちにとって衝撃的であった。
「3ラウンド 後攻」
・・・さて、どう来るか。さっきの様にインパクトのごり押し。それをまたやっても・・・同じように盛り上がるとは限らない。それなら、何か工夫を入れてくるのかもしれないが。・・・!!!
そのまま、来た。
何も変えずに、さっきと同じパワームーブを同じムーブで。全く同じように。・・・ムーブのレパートリーが無いのか?でも、準決勝まで来たのであれば、ここで出せるようなムーブが一つや二つくらい・・・。
でも、俺の予想は裏切られそのダンスバトルは終わった。
「勝者 子羽」
その結果は最後しか見ていない俺でも、予想できる事であった。どれだけ、パワーが合っても小羽根さんの技術には勝てない。
・・・でも、もしかしたら。あと少し、Powerさんにインパクトがあったら。・・・負けていたのは、子羽さんだったかもしれない。
「決勝の相手が決まったな。」
「はい。・・・あれほどのダンスを見せられて・・・勝てるかどうか。」
子羽さんの最後の一瞬だけ見せたダンス。
あれは技術の積み重ねが生み出した奇跡だ。ただのまぐれではない。・・あれほどのダンスを見せられると少し弱気になってきてしまうのも、致し方ないのではないだろか。
「まあ、光ヶ丘は今回がダンスバトル始めてないんだ。当たって砕ける気持ちでぶつかればいいさ。」
「そうですね。・・・当たって砕く勢いで思いっきり突撃してやりますよ。」
「その気持ちだ!」
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