第28話
28話
「勝者 光」
その言葉を聞いたとき俺は安堵と緊張の途切れそして、疲労で思わず膝から崩れ落ちてしまった。
今までで最高のダンスをした反動は体力に来た。
自分の気持ちをダンスにする時、いつもよりも完璧を求めてしまった。結果として、完璧と言ってもいい程のダンスをしたのかも知れないど、体は持たなかったみたいだ。
たとえ生まれてずっとスポーツをしていたとはいえ、これほどのダンスをするには体力と筋力が足りなかった。・・・今後の改善点だなと思いながらも、速く休もうと、もうとこの場を離れようとした。
すると、
「よく頑張った。」
「立てますか?手を貸しますよ」
阿部先輩と小奈津さんがすぐそこでまっていてくれた。
「ありがとうございます。」
その手を貸してもらいながら、控えの場所まで戻る。
俺はダンス歴が長いその二人よりも高い順位に行ってしまった事へ心配はあったが、それよりも決勝まで行けた高揚感が支配していた。
「凄い汗・・・タオルと飲み物持ってきますね。」
「ありがとう小奈津さん。」
小奈津さんは何か言いたげであったが、俺の疲労が想像以上に激しい物であったようで、物を取りに行ってしまった。
だけど、阿部先輩はここに残っていた。
「なんですか、阿部先輩。」
「・・・最後の・・・あのダンス。」
第三ラウンドのダンス。俺にも何が起きたのか、今になっては驚いている。今までこんなことは無かった。それに、あんなダンスは知らなかったからだ。
「分からないんですよね。・・・なぜか出来ていたと言うか。」
「感覚的な物なのか?」
「全部が全部って言う訳じゃない気がします。楽しいって思ってダンスをすれば見ている人も楽しくなる。それと同じことをやっただけだと思うんです。」
・・・ただ、その気持ちは何となく思っているだけではならなかったと思う。明確なイメージが合ったから。今同じことをやれって言われても、絶対に出来ない。
それほど、集中してどんなダンスをしたいのか。もしくはどんな気持ちでダンスをしているのか。
それが分かっていないと、出来なかった。
それがたまたまあのダンスの途中で出来た。たまたま、奇跡が起こった。
「・・・光ヶ丘。俺はお前の背中を見る気はない。卒業するまでは常に前にいてやる。」
・・・その言葉は、先輩が恥じらい心を捨てて出した言葉だろう。
負けない。それをいう相手は自分と同等。もしくはこれから越される相手。にしか言えない事だ。それを俺に行ったと言う事は、俺のダンスを認めたと同時に、越されるかも知れない恐怖。
ダンス経験はたった2ヶ月程度。その相手に越される。それは、3年の自分にとってありえてはいけない事。
だけど、現実は越されかけている。もし、俺があのダンスをナチュラルに出来るようになったら。その時はもう越されたと言っても過言ではない。そんな事実が目の前にある。技術じゃない。ダンスで負けるんだ。
だからこそ、認めた。俺のダンスはあの瞬間、光ヶ丘より劣っていたと。
そして、それをわざわざ声にして出した。それは一種の覚悟だ。
「さっきの先輩のダンス。凄かったです。・・・音そのものになったような。俺もそんなダンスをやってみたい。・・・だから、言わせてもらいます。
先輩よりも上手くなってやります。」
「いってろ」
先輩は行ってしまった。覚悟を決めたように、先に進んで。
☆
「はい、水とタオルです。」
「ありがと小奈津さん。」
先輩と入れ違うように入ってきたのは、さっき取りに行ってくれた小奈津さんであった。先輩がいない事を気がかりにしていたが、1人になりたかったみたいといったら納得していた。
「・・・小奈津さん少しいいかな?」
「ん、なに?」
「俺のダンスはどうだった。」
単純に聞いてみたかった。さっきのダンスで俺はウェーブを使っていたが、熟練度に関しては小奈津さんの方が上だ。それなのに勝った。その時の俺のダンスはどうだったか。・・・嫌味になっちゃうな。
「凄かったよ。私のウェーブと違って迫力が違った。ちゃんと動かしているはずなのに・・・私の方がウェーブは上手いはずなのに。・・・なんであんなに違うの?」
「・・・気持ちの問題。・・考え方の違いかな。・・・俺がさっきウェーブを使った時、あの時は迫力が有るように踊りたいって思っていた訳じゃないんだ。
もっと単純に、荒々しく踊りたいと思ってた。・・・ほら、迫力があるってだけだと、最初に踊っていた綺麗なダンスも迫力はあるでしょ。だから、・・・もっと単純に何をしたいのか。」
単純って言うのは大切だ。どこまで分かりやすく、・・・自分でも理解をしなければ行けないのだ。だから、迫力があるって言っても、どういう風に迫力を出すのか。それは瞬間的に思いつくものではない。
なら、なぜ俺は迫力を出せたのか?
最初っから、答えまで飛ばして考えたからだ。・・・何と言うか、スキップ機能があると言うか。パターン化していると言うか・・・癖と言うか。
元々、一瞬で考えなければいけないスポーツをやっていたから、いちいち考えるなんてことは出来なかったから。
・・・言葉にするのが難しいな。
「・・・今回の光ヶ丘くんのダンスをみて、私が今後何をすればいいかどんなダンスをすればいいか分かった気がしました。」
「・・・どんなダンスをしたいの。」
「私はソウルミュージックが好きで・・・だから、ソウルダンスを踊りたい。そう思っていました。でも、ダンスを初めて私が踊っていたのは、ソウルではなく。このウェーブを使った別のダンス。似ても似つかないそんなダンスをしていまいした。
それで。さっきの光ヶ丘くんを見て私が今踊りたいダンスがわかりました。ソウルではない。・・・このウェーブを使った別のダンスだと。」
小奈津さんが今までしてきたダンスは、ソウルに固執していてその枠から抜けだとそうとはしていなかった。
練習の時も、ソウルダンスを踊るのだと決めているのか、ソウルミュージックをかけて。・・・今回小奈津さんが1回戦敗退した理由に、ちぐはぐのダンスと言う事もあったのではないだろうか。
もし、ソウルっぽいウェーブのダンスだと分かっていたのなら、それはダンスの一部としてちゃんと機能していた。知らないソウルダンスを踊る人だと。
でも、さっきまでの小奈津さんはウェーブのソウルダンス。それはダンスとしても小奈津さんとしてもばらばらまとまりが無かった。
「光ヶ丘くんは自分のダンスをどう思っていますか。」
自分のダンスか。
正直、今の俺のダンスは結構うまい方だといえると思う。大会でここまで来たのだから、言えてもおかしくはない。だから、このダンスは気に入っているし・・・いつまでもやりたい。
でも・・・
「・・・俺はさ。最初ダンス部に入ってきた時、ダンスは振付を覚えて決まった曲で練習通り踊る。そういう物だと思っていたんだよね。」
「え?」
「最初の思い込みって消えないものでさ。・・・それに、俺がダンス部に入った理由って部活説明会の、あの綺麗で統制されている。あのダンスをやってみたいから入ったんだよね。・・・だからさ、俺は小奈津さんと一緒の舞台でダンスをしたいな。」
今も変わっていないあの気持ち。
首を動かす事すら億劫になるくらいのダンスを俺はダンス部の皆でやりたい。部活説明会のときのダンスに俺も混ざりたいのだ。
だって、素敵だと思った事を目指しているんだから。今はそこから少し外れているだけ。俺にとってストリートとは目標ではないのだ。
「いいですよ。・・・私も光ヶ丘くんと一緒に踊りたいです。ばらばらではなくて、一緒に、息を合わせて。」
それは俺がダンスに対して一つ決心をしたときであり、今後のダンス人生で大きな転機を迎えた瞬間であった。
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